第6話

 ジンリは停めた四輪の中で指揮を執っていた。

 時間がきて、各メンバーに計画実行の命令を出す。

 寝込みを襲われる者、買い物途中でいきなり撃たれる者。

 元タボィ・コミュニティのメンバーは、次々と殺されていった。

 一度に六人を殺害したところで、クロト・コミュニティに被害はゼロである。

 狙った相手の位置を特定して、数人で襲撃させるという作戦をとるジンリは、忙しかった。

 結局、ロキシは同じ四輪に乗っていた。

 エレイサ自身が、寝起きの時に彼女のもとに連絡をいれてきたのだ。

「なにそれ。あたしもついでに始末する気かよ?」

 口だけで笑いながら、ロキシは返事をした。

『ちがうの。今度のは、本物のエディンも動くかもしれないの。あなたならわかるでしょ、キオイオ。現場でどうするかは勝手に決めていいわ。その代わり、ジンリの傍にいて』

「おまえ、ジンリを……」

 ロキシは言いかけてやめた。

 わかりきっていることだ。

 彼女が行かなければならない理由も。

 ロキシは、遠慮もなく四輪のクーラーをガンガンたかせる。

 ジンリが次のターゲットを絞り、周辺のメンバーに連絡を入れていると、急にサイドウィンドゥをノックされた。

 運転手や技術者、秘書を含めて六人が視線を向けた。

 そこには、山高帽を被り、電子タバコを咥えた男が、ヘラヘラした笑みで外から覗き見ていた。

「クーラン……」

 ロキシは思わず相手の名前を口にした。

 だが、彼女以外の者の行動は違った。           

 運転手はすぐに四輪を発車させて猛スピードで路地を走らせた。

「サッスの奴だ。どうして我々が分かった!?」

 ジンリは苛立ちまぎれにつぶやいた。

 交通止めの柵が目の前に次々現れ、四輪はそのたびに道を変えた。




 シアブルは、突然の全身の痙攣に耐えていた。

 何事かと医者を呼んだが、彼は診断名を下すことができなかった。

 痙攣止めをだして帰ったあとも、シアブルの苦しみは続く。

『シアブルよ。地上最後のエディンとの連絡者……』

 脳内に声が響く。

「なんだ、何者だ?」

 電網クラッキングなど時代の遅れた技術だ。だが、これはレベルが違う。

 身体の神経隅々まで、侵入者に把握される。

『エクーが裏切った今、エディンの偉大さを見せつけるのは、おまえしかいない』

「……エディンに選ばれたとでも思って良いのかな?」

 この状態でも皮肉は忘れないシアブルだった。

『その通りだ。受け取れ』

 最後に強烈な衝撃が身体を貫き、一瞬意識が無くなる。

 気付けば、彼の足元に電影が六枚広がっていた。

 一旦、落ち着くための息を吐く。

 まわりに四人の人間がいた。

「貴様らは……?」

「エディンからの者だ。貴様に従うために降りてきた」

 一人が言った。

 その足元にも電影は六枚あった。

「エクーを処刑しなければならない。シアブル、貴様は選ばれた」

「エクーを?」

 まだ心臓がうるさいシアブルは、現コミュニティ・リーダーの名前を聞き返した。

「彼こそ、エディンを破壊する者。我々は断固として彼を排除しなければならないのだ」

「そのあとは?」

「おまえがエクーの座に取って変わるが良い」

 シアブルは小さく嗤った。

 それはどんどん大きくなり、哄笑になった。

「そんなに私を殺したいか」

「最後のコミュニティ・リーダーとしての役割だ。それとももう、そんな矜持はなくなったか?」

「矜持な。確かにコミュニティを維持しているのは、エクーへの不満もある」

「役目を果たせ、シアブル」

 シアブルは憎悪と高揚感が増しているのを自覚した。

「よろしい。彼が捨て戻ってきたとしても、エディンの力、私がみせつけてやろう」

 シアブルは暗い笑みで言った。




 運転手はとうとう、四輪を袋小路まで進ませてしまった。

「これだけ準備してあるというのは、こちらの情報が漏れていたということか」

 ジンリは悔し気に吐き捨てる。

「あなた、社長に許可とって今回の襲撃した?」

「そんなことしてない。私とクロト・コミュニティの意思だよ」

 ロキシはなるほどと思った。

 気付くと、四輪のタイヤにジャッキがつけられていた。

 同時にドアが外から溶接される。

「なんだ、どうした!?」

 ジンリが四輪内であっちこちと見回す。

「徹底的だな」

 比べてロキシは冷静だった。

「何されている!?」

「これから車内が爆発するよ」

 わかりきっているという風に、ロキシが答える。

「馬鹿な!?」

「脱出だな」

 ロキシはジンリの手を取ると、天井を見上げた。

 途端に、青空が見えた。吹き飛んだのだ。同時に、ロキシとジンリは空中に跳んでいた。

 運転手や技師たちが、四輪から出ようとして射殺されていく。

 地面に降り立ったロキシは、電影を六枚開いた。

 ジンリはその後ろに立たせる。

「いよぉ。また会ったなぁ。確かクロト・コミュニティの三番隊隊長だっけか?」

 二人の前には、クーランと数人の男が立っていた。

「愚か者だな、貴様。私の影を見てもどこの誰か理解できないとは」

 いつの間にか、人格がロキシからキオイオに変わっていた。

「いやぁ、それよりもおまえみたいのが、ジンリについてる方に驚いたね。堕落したものだと」

 拳銃を抜き、煙を吐きながらクーランは嗤った。

 素早く影を二枚広げる。        

「嫉妬かい? 自分はエディンとは関係のないところにい続けたという。パラミーとかいう小僧はどこ行った?」

 クーランは大笑いした。

「嫉妬!? この俺が嫉妬!? おまえどこまでおめでたいんだよ? さすが天上に生きていた方とは、コミュニケーションが取りずらいもんだ」

 キオイオは、クーランを軽く睨みつけた。

 その背後から銃声が響いた。

 二人が見ると、ジンリが自分の拳銃でクーランらを撃ったのだ。

「ジンリ……」

 キオイオは憐れむような顔をした。

 せいぜい気勢を張っているジンリは、拳銃を両手で構えながらちらちらとキオイオに視線を送る。

「おまえは頑張った。社のためよりも、我々のためにね。だが、もうおしまいなんだよ。最後に……」

 言いかけた時、傍の四輪が大爆発を起こし、ジンリは爆風と炎に呑み込まれた。

「……エディンに……行けなかったか」

 キオイオも巻き込まれたが、平然と立っていた。

クーランらは遠隔爆破装置を使う前に距離をとっていた。

 銃声が空気を鳴らす。

 クーランの弾丸が、キオイオの横顔の前で止まった。

 空気障壁だ。

 影はあればあるだけ、その能力の効果が本人につく。

 エディン製の六枚影は、現在のところ最高の能力の持ち主といって過言ではない。

「図に乗るなよ、クーラン?」

 キオイオは低い声をだして、向き直った。

 ゆっくりと、古式のリボルヴァーを腰から抜いた。

 銃を構えたクーラン相手に、少しずれたところを狙って、引き金を絞った。

 空気障壁は張ってあったはずだが弾丸は関係なく進み、直後にクーランの影に当たる。

 電影は、黄色と青白い火花のようなものを散らしながら、砕けていった。

「なんだと!?」

 さすがにクーランも驚愕する。

「さて。速度アップの機能を無くしたクーラン君はこれからどうするのかな?」

 嗜虐的にキオイオは笑みを浮かべる。

 クーランが反応する寸前に、いきなり眼前までキオイオは移動し、銃を握ったままの拳で腹部を殴り上げる。

 呻きつつ、よろめいた所を、左手のフックを頭部側面に食らわせ、次に同じところに蹴り当てた。

 山高帽が吹き飛び、クーランは地面に崩れるように倒れてもがく。

「なんだ、まだ意識はあるのか。無駄に頑丈だな」

 無慈悲な冷たい目で彼を見下ろしたキオイオは、銃口を額に当てた。

 とっさに手首をとり、内側に折ってキオイオから銃を手放させる。

 クーランはそのまま下腹部を蹴ると、キオイオは後ろに数歩よろめいた。

「……なめんじゃねぇよ。こっちゃ喧嘩が仕事だ」

 視線を外さずに、スキットルを取り出すと一口飲む。

「残った影は筋力アップか。サルめ……」

 キオイオは態勢を整えてから、吐き捨てる。

 新たに手には刃渡り三十センチほどのナイフが握られていた。

 すでに距離をとっていたクーランは、スキットルを投げ捨てる。

「来いよ、小娘。喧嘩の仕方を教えてやるよ」

 好戦的な笑みを浮かべ、クーランが挑発する。

「黙れよ」

 キオイオは一気に距離を詰めた。

 胸を狙っての突きを繰り出しながら。

 クーランは素手で刃を握りって止めると、もう一方の手で髪の毛を握り、そのまま渾身の頭突きを顔面に食らわせる。

 鼻血をだしたキオイオは、思わず頭をそらした。

 その顔面に、今度は正面から拳を叩きつける。

 二撃目はナイフの方で、手首をもって先ほどと同じ要領で握った手に力を入らないようにして落とさせ、腕をそのまま引っ張ったところを膝で顎を蹴り上げた。

 あとは、クーランの殴りたい放題だった。

 人間の腕力とは思えない打撃だった。  

 キオイオは押され、意識が飛びそうになったが、ゆっくりと打撃をよけるようになった。

 やがてはすべて見切り、クーランの攻撃はまったく当たらなくなった。

「……まったく、私をここまで追い詰めるとは。おまえは化け物だよ」

 キオイオは失笑していた。

「クソが!!」

 空を斬る己の拳に、クーランは疲労の色をみせながら悪態をつく。

「ここまでだな」

 クーランの首を左手で掴むと、やすやすと片手で持ち上げた。

 抵抗する気力もクーランには残っていなかった。

 右手に、新たなナイフを出現させる。

「腹掻っ捌いてやるからいい加減死ねよ、おっさん」

「……パラミー?」

 いきなりクーランの口からでた。

 キオイオはいぶかし気に、同じ方に視線をやる。

 が、そこから凄まじい衝撃がクーランを離してキオイオの身体を遠く路上に吹き飛ばした。

 態勢を整えようとする間もなく、キオイオの六枚の影に、次々と銃弾を撃ち込まれる。

 それも銀製らしい。

 電影はショートを起こして、崩壊した。

「馬鹿な……!?」

 何とか態勢を立て直したキオイオは絶句した。

 少女がキオイオの背後に着地すると、刀を鞘に納める。

 キオイオの首は綺麗に放物線を描いて飛んでいた。

 身体だけがゆっくりと倒れた。

 パラミーが拳銃をホルスターに納めながら、クーランのそばに降り立つ。

「遅くなったね、クーラン」

 申し訳なさそうな笑みで、彼は倒れているクーランに手を差し出す。

「待たせすぎだ、馬鹿野郎が」

 クーランも笑い、その手を取った。




 ホーロミ本人は無事だった。

 彼女の家から、事後処理のクロト・コミュニティの連中を始末する指示をだそうとしたが、すでに全員、姿を消していた。

 激怒しているホーロミは納まらない。

「イベク社をぶっ潰してやる!」

「いや、待てよ。今回のはイベク社は関係ないらしい。ジンリといった奴だろう?」

 パラミーは浮遊ディスプレイを広げて通信を入れた。

 画面に出たのは、人形のような完璧に整った姿のエレイサだった。

「やぁ。説明というか、弁明してくれる?」

 パラミーはホーロミを顎で指し示した。

 エレイサはうなづく。

『ジンリは?』

「死んだよ」

 答えたのはクーランだった。

 エレイサはまたうなづいた。

『ジンリは、ヒィユから抜き取ったデータからあたしが造った存在でした』

「ああ?」

 文句があふれ出そうになるホーロミ。

『彼にはせめて、タイリンで思う通りに生きてほしかった。彼が望むのならエディンででも。そう思ったんですけど、ダメだったようですね。そこで処理をロキシに頼んだんです』

 抑揚は変わらないが、どこか寂しげで、もの悲しげだ。

 結局、ホーロミは何も言えなくなった。

 そんな醜態をさらすほど、幼くはないのだ。

『今回犠牲になったタボィ・コミュのメンバーは、皆エディンで確保しました。時間が来れば、こちらに戻ってくるでしょう』

「こいつみたいにかよ?」

 クーランが、パラミーを指さす。

『パラミーは、完全にエディン仕様の体になりましたが、普通の人間としてですよ』

「そういや、じゃあライリはどうなってる?」

 事情を知らないクーランが、彼女を見た。

「あたしはあたしだよー。ついでに言うとね、影は六枚分を圧縮で一枚にいれてあるの。どう、すごいでしょ?」

「へぇ、それやり方教えてくれんかね?」

「残念。エディンの技術だから、こっちじゃムーリー」 

「クーランは、酒飲んだらパワーアップするじゃんか?」

 パラミーが言うと、クーランはわざとらしく鋭い目を彼に向けた。

「観てたな、おまえ?」

「なんのことやら」

 とぼけるパラミー。

「まぁいい、この話は終わりだけど、まだ残ってるモノがある」

 とりなしたのは、ホーロミだった。

「ああ」

 パラミーには、わかっていた。

 理解してなかったのは一人、クーランだけだ。

「何事だよ?」

「シアブルが、エディンの力を得て、我々を裏切った」

 ホーロミの言葉に、クーランは舌打ちした。

「酒もってこい!」

 自棄半分に彼は誰にともなく叫んだ。




 ホーロミを残して、パラミーとライリ、クーランの三人は四輪に乗っていた。

 まだ勢力を誇っているコーズ・コミュニティに向かう。

 シアブルは宣言通りにコミュニティを解散させていなかった。

 エリアに入ると、空気でわかるほど雰囲気が一変する。

 完全にコミュティで閉鎖状態になっている街では、パラミーらが乗った四輪は異物として目立っていた。

「物騒だなあ」

 ハンドルを握るクーランが、普通に運転しながらもつぶやいた。

 時折、どこからか殺気を感じるのだ。

 電磁防壁を張っていないと、変な奴らに襲撃されそうな気配ですらあった。

 文字での通信をやり取りを終えると、パラミーは改めて街の外を窓から覗き見た。

 懐かしい、彼が小さい頃に育ったままの風景だ。

 こんな光景があるのは、もうコーズ・コミュニティの中だけだろう。

 彼らの四輪と前の四輪の間に、一台が割って入ってきた。

 バックミラーで運転手がクーランと目を合わせ、窓から手を出して合図する。ついてこいと。

「お呼びだしをいただきましたよ」

 クーランは楽し気に煙を吐く。

「うん、いう通りにしよう」

 パラミーは答えた。

 この間、ずっと眠っているのかライリは黙って瞼を閉じたままだった。

 少しは外に興味がないのかとパラミーは思ったが、何も言わずに放っておく。

 先導の四輪にしたがって走ってゆくと、市街地から少し外れた区画に入った。

 それでも歓楽街の面影は残っていて、店がぽつぽつと並ぶ。

 止まったのは、中規模のビルだった。

 看板には、コーズ・ホールと書かれている。

 誘導してきた四輪はクーランたちのを停めると、どこかにまた走りだした。

 ついていくかと迷っていると、運転席側の窓に、スーツを来た笑顔の男がノックしてきた。

「こちらへどうぞ」

 彼が三人をビル内に案内する。

 二階に昇らず、地下に二階分まで階段で降りると、天井の高い広いホールが眼前に現れた。

 薄暗い。

 中には大量の人間の気配がある。

 だが、パラミーらを通して割れる彼らから殺意は感じられなかった。

 奥まで行くと、ワインの置かれた小さなテーブルとその横に一脚の椅子があり、一人の人物が座っていた。

 吐いた煙をこもらせながら。

 シアブルだった。

「……遅い」

 彼は不機嫌そうに一言放った。

「待っててくれているとは思わなかったものでね」

 パラミーが答えた。

「で、こりゃなんだ? 演説でもする気か、シラブル?」

 クーランは彼とは質の違う煙をまとう。

「……演説なぁ。今更必要かね?」

「言い分があれば聞きたい。場合によっちゃ話が変わる」

 パラミーは慎重に言葉を選ぶ。

 鼻で笑ったシアブルは、持っていたワイングラスをテーブルに置いた。

「言い分ね。おまえら、私を裏切り者にしただろう? どういうことだ? 私はただ、旧来のまま環境を維持したまでに過ぎないのだがね」

「それはただの噂だよ、シアブル。うちらは誰も裏切者とは呼んでない」

「黙れよ。おまえが何を言おうが、世のなかではシアブルが裏切ったとなっている。許せないね、エディンを求めていたことから共闘していたというのに、全てが終わってみると、この扱いか。ただの噂? ならその噂を打ち消す努力はしたのかね?」

 淡々と、むしろ余裕の持った口調だった。

 パラミーには反論できる材料がなく、口を閉じてしまった。

「……グダグダうるせぇなぁ。たかが世間の陰口で、拗ねてんじゃねぇよ、クソガキがよ」

 代わりにクーランが反撃した。

 彼はスキットルを傾け、熱い息を吐きつつ、続ける。

「なにが裏切る裏切らねぇだ。おまえはただ、エディンが欲しいだけなんじゃねえのか、シアブルさんよ。それも、欲しいと思ったのは、俺らがうらやましいと感じたからだ。おまえは、自分のプライドの高さから、俺たちと一緒に行動できなかっただけなんだよ」

 グラスとワイン瓶が払い落された。

「うるさい。それ以上の戯言はゆるさん」

 シアブルはの態度は氷のように冷たく、言葉は淡々としたものだった。

「おや、キレた」

 ニヤニヤと、クーランは笑みを浮かべる。

 いきなり照明がついた。

 すると人込みが視界に入ったが、彼らは全員が全員、真っ黒い姿をしていた。

 大量の電影だった。

「これは……なんだ、この数……」

 驚いたクーランは、彼らから下がろうとしてやめた。

「……なるほど。シアブル、ここがあなたの造ったエディンなのね」

 ライリが初めて口を開いた。

「エディン……ここが?」

 パラミーは多少の動揺をしながら、うごめく電影たちを見渡す。

 電網の檻。

 エディンの悪影響そのものと言っていい。

 シアブルは立ち上がった。

 一斉に電影たちが彼の周りに集まって、何枚もの花弁を重ねた巨大な花を咲かすかのように広がる。シアブルの胸部から上しか姿を見せることができなくなるほどだった。

「私こそ、全能。愚かなヒィユとも、地上で失態を犯したエクーとも違う。いわばその通り、私こそがエディンなのだよ」

 シアブルは静かに独白した。まるで、自己に陶酔しているかのように。

 鋭い響きがパラミーたちのまわりで起こった。

 彼らの電影が、シアブルの圧倒的な介入によって、破壊されたのだ。

「……これはちょっと手間かかるんじゃねぇの?」

 クーランが自嘲する。

「そうでもない」

 パラミーは即答した。

 そして、ポケットからピンをはずしては床に四つ、次々と手りゅう弾を投げ捨て、出口に走り出した。

 クーランとライリもすぐに続く。

 ドアを閉めて、階段を上り、外に出た瞬間だった。

 ビルの窓が真っ赤に内部から照らされて、大爆発を起こしたのは。

 ガラスと瓦礫が容赦なく道路に降り注ぎ、ぽっかりと空いた窓の後から煙と炎が吹き上がる。

「……火薬の量、張り切っちゃったか」

 パラミーは二人とともに、通り向こうの商店のなかに避難していた。

 炎に巻かれるビルから、ゆっくりと人影が現れる。

 電影を盾にしたせいで全てを破壊されたシアブルだった。

 彼はむしろすっきりとした表情を浮かべながら、三人に視線をやる。

 手には拳銃をもって、構えていた。

 パラミーが抜くと同時に二丁の拳銃の引き金を絞る。

 もう数発、銃声が鳴った。

 シアブルは顔面に二発喰らい、のけぞりながら床に倒れ、煙の中に消える。

 彼の放った弾丸は、明後日の方に飛んでいった。




 コーズ・コミュニティは、ライリの手によって、サッス・コミュニティの巨大な組織に組み込まれた。

 やっちゃったよ、こいつら……

 ローキカルは、サッス・コミュの執務室に現れて、呆れたもんだという口調で首の後ろを揉んだ。

「で、本当に良いのかな、これ?」

 改めてエクーに尋ねる。

 彼が視線を送った隣にはパラミーが立っていた。

 するとパラミーはさらに隣のライリに顔をやる。

「構いませんよー。派手にはなりませんが、実行しちゃってください」

 彼女は景気よく返事をした。

 エクーとパラミーは同時にうなづく。

 妖しいモノでも見るかのように醒めた目をして、ローキカルは軽く手を上げる。了解の意味だ。

 禁忌と制限の技術について。

 提案書が書かれた紙の題名だった。内容は、電影と電網に関してだ。

 ライリは強固に電影の使用を禁じる法律を作ることを主張していた。

 エクーはといえば、地上再建のインフラ整備で、電網の使用を現在の五十パーセントまで下げるよう提案した。

 ローキカルに渡した書類は、その二つについてだった。

 もう一小冊、彼に渡された提案書がある。

 それは、サッス・コミュニティの解散であった。

 タイリン全土のコミュニティを内包したサッス・コミュはもう一コミュニティとしての役割を終えても良いのである。

 ただ、その時期は電影と電網の整備が終わってからという条件付きだ。

 エディンを否定していたライリは、この法律で復讐を果たしたと言える。




 彼女は、パラミーとクーランの自宅兼事務所でも上機嫌だった。

「あのね、あのバイクって普通に補給なしで、千キロ走れるんだってさ!」

「あー、まぁ島の間には船が通ってるしなぁ」

 ソファに横たわりながら、クーランがぼんやりしながら応じる。

「千キロだよ、千キロ! 普通の二倍だよ、パラミー?」

「あーそなの?」

 クーランそっくりの返事で、彼はキッチンの椅子にもたれていた。

 ベーコンとポークドエッグに、ポットパイの朝食が終わり、満足な時間だ。

「シアブルもまた、随分と意味あるのかないのかわからんモンを作ったもんだねぇ」

「意味あるよ! これでタイリン中どころか国も出て好きなところ行けるんだよ?」

「あー、まぁそうだねぇ」

 パラミーの返事は素っ気なかった。

「少しは興味持てよ!」

 ライリは少し怒鳴った。

「あー、じゃあ今度どっか見に行くか?」

「もちろん!」

「わかった、そうしよう。俺はちょっとまた寝る」

「また?」

 ライリは呆れたように聞いた。

 うなづいたパラミーは立ち上がり、寝室に向かった。

「んー、じゃああたしも寝るー」

 彼の背後に、ライリはついてゆく。

「……若いっていいねぇ」

 二人がリビングから消えると、クーランがしみじみとつぶやいた。

 四日後、巨大なバッグを後部に吊るしたバイクを前に、三人は立っていた。

「まぁ、気をつけろよー」

 クーランは気の抜けたような挨拶をする。  

 この男は怠けると決めたら徹底して怠けるのだ。

「まぁ、責任取らないみたいに言われそうだけど、何かあったら連絡してね」

 パラミーはバイクの後部にまたがった。

「さぁ、行こうか?」

「で、どこに行くの?」

 ライリからは何も聞いていなかった。

「決めてない」

「……あっそう」

 今更言うことはない。ここまで準備しておいてまで。

 エンジンをかけたライリは、数度ふかして温めた。

「じゃあ、どこ行こうか?」

 パラミーが聞く。

「とりあえず、北かな?」

「はい、決定」

「おう、いっくぜー!」

 バイクはエンジン音をがなり上げさせて、昼間の街を走りだした。

















                               了