魔術師との出会い

「ここ、どこ?」


お父さんとお母さんと馬車にのっていて……。

なんかすごい音がして……。

あれ? 体が動かない。

何かが上にのってるみたいだ。

重たいからどけようとしたけどぜんぜん動かない。


「ああー、駄目だ、頭が潰れると駄目なのか」


遠くでだれかが大きな声で話している。

でもまわりに誰もいないような。


「失敗したなぁ、とりあえず使役しとけばいいだろうと思ったのに」


大きな何かをなげすてるとこちらに近づいてきた。

よかった、この人におねがいしたら動かしてもらえるかもしれない。

助けて。

あれ? 声が出ない。

なんど声を出そうとしても声が出ない。

どうしたんだろう?


「ん? そこにいるのは?」


こちらに近づいてきた。

変なかっこう。

なんかところどころ赤くなったマントなんてカッコわるい。

それになんかくさい。


「やあやあやあ、坊ちゃまじゃないですか」


いきなり変な顔をして声をかけてきた。

だれ?

見たことない人だと思うんだけど。


「計画変更といこう、ガキに恩を売って援助をもらうか」


何か小さな声でひとりでしゃべってまたはなれていった。

ああ、どっかいっちゃった。

声が出ないから呼び止めることも出来ない。


どうしよう、頭が動かせないからまわりがあんまり見えない。

ぼくの体の上にいったいなにがのっているのかな?


「やあやあ、坊ちゃま、こいつが今回の事件の主犯です」


さっきの人がとつぜん目の前に出てきた。

となりには、なわでしばられた男の人がいる。

じけん? しゅはん? ってなんだろう?

それに目の前にいるこの人もだれなんだろう?


「もう声が出るはずですよ」

「え?」


あ、ほんとだ。声が出た。

さっきまでのはなんだったんだろう?


「あなたは誰?」

「俺は魔術師ですよ、貴方を助けに来たんです」


助けに来た?

よく分からないけど助けてもらったならおれいをいわないと。


「ありがとうございます」


そう伝えたらまじゅつしさんがスッと目をほそめた。

ちょっとこわかったけど、

すぐふつうの目に戻ってやさしく声をかけてくれた。


「子どもには早いので少し目を閉じてくださいねー」


言われたとおり目をとじる。

すると体にのっていた重いものが動かされた。

ようやく苦しいのが楽になった。


「まだまだ目を開けないで下さいね」


ぼくの体が持ち上げられる。

びっくりして目を開けそうになったけど、

開けちゃだめと言われたからひっしにがまんした。


「たしかこいつらが乗ってきた馬車があると言ってたな」


耳の近くでさっきの人の声がする。

かたにのせられているのかな?


「あった、あった、坊ちゃま、もう目を開けていいですよ」


目を開けるとさっきとぜんぜんちがう場所だった。

目の前には馬車がある。


「じゃあ行きますよー」


だきかかえられて馬車にのるとすぐに動き出した。

ちょっとゆれてきもちわるい。


「寝てていいですよー」


からだがどこもいたいし、言われた通り寝ることにした。


・・・


「坊ちゃま、着きましたよ」

「ううーん、あ、もう?」


寝ている間についたみたい。

馬車から降りると家の前だった。


「坊ちゃま!!」

「ばあや」


すぐにばあやがでむかえてくれた。

でも泣きそうな顔をしている、どうしたんだろう?


「旦那様と奥様は一緒ではありませんでしたか!?」


お父さんとお母さん……そういえばどこに行ったんだろう?

いっしょに出かけたはずなのに気がついたらいなかった。


「二人とも見事に頭が逝ってたね、ありゃ即死だ」


頭がいく? そくし? ってなんだろう?


「あなたは!?」

「おっと、俺は坊ちゃまを救出してきたんだぜ、ほら」


僕といっしょにのっていたしゅはん?の人が出てきた。

顔色が悪くて静かだけどどこか悪いのかな?


「こいつが犯人さ、証拠もある」


ばあやがわたされたものを見てこわい顔をしている。

スフィーナもこわい顔をしてしゅはん?の人をつれていった。


「坊ちゃまを救出してくれたこと、感謝します」

「いいんだよ、ただお礼として少し援助をしてもらえないかな?」

「わかりました、その件については後日」


よく分からないけど、けんかはしていないみたい。

お父さんがだれかとけんかする時はもっと怒ってるもんな。

……そうだ、お父さんとお母さんはどこなんだろう?


「ねえ、ばあや、お父さんとお母さんはどこ?」

「……長い、長い旅に出られたのです」

「え、そうなの? いつ帰ってくるの?」

「……坊ちゃまが大きくなられたらきっとその時には」

「うん、わかった、待ってるね」


そうか、たびにいってたんだ。

長いたびってどのくらいなんだろう?

一か月くらいかな?

あれ? ちゃんとまっていると言ったのに、

どうしてばあやはなみだを流しているんだろう?

それにしてもお父さんとお母さんにお別れ言いたかったな。

帰ってきたら元気に「お帰り!!」って言おう。