荘厳なパイプオルガンが仙石家と田辺家の人々を包み込み、マリアと百合の花に彩られたステンドグラスの光の中に大智と明穂が向き合った。
「汝、仙石大智は、この女、田辺明穂を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
「汝、田辺明穂は、この男、仙石大智を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」
「誓います」
大智と明穂は
(ーーー吉高さん)
教会の鐘が鳴り響くその片隅には髪を短く刈り上げた吉高の姿があった。その隣には誰も居ない。大智は明穂の手から百合の花束を奪い取るとそれを吉高に押し付けた。
「な、なに」
「おまえも見つけろよ」
「大智」
「今度は不倫なんかするんじゃねぇぞ、神さんの前で誓え」
「大智」
「この花渡す女見つけて父ちゃん母ちゃんを安心させてやれ」
「わ、分かった」
「約束だぞ」
吉高は百合の花束に顔を埋めて泣いた。
リンゴーーン リンゴーン
白い雪に閉ざされた白いシーツに明穂の絹糸に似た薄茶の髪が波打った。首筋を這う大智の舌先は明穂の凍った身体を甘く溶かした。
「大智、嬉しそう」
「そりゃそうだよ、10年以上待ったんだ」
柔らかな輪郭が熱を持ち吐息が胸元へと滑り降りた。大智は白い胸を掴むと優しく吸い付き
「あぁ」
明穂は思わず
「明穂、明穂愛してる」
「あ、あ」
溢れ出す愛に芯から
ぎしっ ぎしっ
「良いのか着けなくて」
「大智の赤ちゃんが欲しい」
「そりゃ大歓迎だ」
浅く深く小刻みに温かな波が打ち寄せ上下に揺さぶられた明穂はこれまで感じた事の無い極みへと導かれ足の指先を大きく開いた。
「あっ」
「あき、ほ」
「う、動くぞ、良いか」
「ーーーー」
恥ずかしげに頷いたそれを合図に大智は腰を激しく前後させた。軋むベッド、外の雪は激しさを増しホテルの窓ガラスを駆け上った。
「あき、明穂!」
尾骶骨を駆け上る快感、大智は明穂の中に愛情を注ぎ込んだ。結婚式の夜、長い歳月を経て2人はようやく結ばれた。
ーーー2年後
2世帯住宅に建て替えた仙石家に明穂の両親は入り浸った。大智と明穂は双子の息子と娘に恵まれた。心配された弱視だが乳児検診で異常は見つからなかった。
んぶぅ
「
「大奈、女みたいな名前だと思いません?」
「そうよねぇ」
「ウルトラマンにダイナっているんだよ!」
「あぁ、あなたウルトラマンとか怪獣とか好きだったものね」
きゃっきゃっ
「
「田辺さん、なにを言っているんですか!明奈は私が一番好きなんです!」
「ほれ、わしが抱っこすると笑うとる」
「私でも笑います!」
2人とも明穂に良く似た絹糸の薄茶の髪をしていた。
「こんにちはー!お義父さん、お義母さん、
「た、ただいま帰りました」
仙石家に新しい家族が出来た。吉高は白峰診療所に高齢者の付き添いで通っていたデイケアセンターの女性職員と結婚した。
「お帰りなさい」
「ただいま」
吉高は相変わらず物静かだが妻の
「明穂ちゃん、元気そうだね」
「吉高さんも良い顔をしてる、幸せなのね」
「うん、幸せだよ」
「良かった」
「吉高!おま、近寄んじゃねぇよ!明穂が妊娠しちまうだろ!」
「酷いなぁ」
「なに余裕ぶっこいて笑ってるんだよ!」
明穂は今、光の中に居る。
了