【短編集】雪だるまに転生した僕は、なんにもしない砂礫零文芸・その他·純文学2024年09月15日公開日61,639文字完結いつかやってくる、大切な人の死。自分の死。
別れが近づくとき、あなたはなにを考え、どう生きる?
身近な死と生にまつわる短編集。
この作品が、誰もが心にかかえる傷に、寄り添うものでありますように。
(各短編は『小説家になろう』にも掲載しています)
第1話 【千文字短編】星の森のドラゴン

 チカ、チカ、チカ……


 気づけば、一面星の瞬く空間に私はいた。


 上も下も。


 星以外は何も見えない。




 …… ここはどこだろう。


 ぼんやり考える。


 プカプカ浮かんでいるようだが、手足は動かせない。


 …… 私は、どうなったのだろう。


 記憶はしっかりしているようだ。


 最も遠い記憶は、3歳頃。

 当時流行っていた宇宙戦隊の真似をして塀から飛び降り、怪我をした。


 痛かった上に怒られて納得いかなかったものだが…… あれは私を心配したからこそ、と思える程度には大人になっているようだ。


 そうだ、私は何の変哲もないブラック企業のサラリーマンで、ひたすら妻子のために働く日々だったはずだ。


 今日は珍しく健康診断で、病院に来ている。確か最新の機器でストレス値を測るとかで、昔のCTスキャンのような機械の中に横たわっていたような。


 その時流れていた、心落ち着く音楽は聞こえない…… ということは、私は眠ってしまっているのだろう。


 最近疲れているからな。

 測定が終わるまで、もう一眠りしてもいい。


 目覚めることはやめて、私はゆったりと星を眺める。


 …… 宇宙か。

 昔、憧れたな。


 …… あれ。

 でも宇宙の中なら、なぜ星が瞬くのだろう…… ああ、夢だからか。


 そうだ、ここを星の森と名付けよう。

 きっと私は今、この星の森の主…… 動いたら、美しい森を壊してしまうから動けない、何か大きな生き物…… そうだな、ドラゴンにでもなっているのだろう。


 星の森のドラゴン。


 星が瞬き、時が過ぎ行くのをただ眺める…… 静かに、静かに。


 …… 時々眠って見る夢では、私は相変わらず働いている。




 何日も会社に泊まり込む。

 帰宅すれば、妻が子供を連れて実家に行ってる。

 すぐには迎えに行く元気がなくて、泥のように眠る……




 目覚めればまた、美しいが変化のない星の森。



 微睡まどろみ、目覚め、また微睡まどろむ。



 夢の中は大変なことになっている。



 妻子を迎えに行く車の運転中、不意にかかる衝撃。自分が乗ってる筈の車が、追突されて横転する映像が見える……。







 目覚めた時まず見えたのは、心配そうな妻と子の顔。

 そして医師の顔。


「健康診断は……」


 いや、まだ夢の続きなのか。


「その健康診断の折から記憶を移し始めた培養脳を移植したんです。事故で脳死状態でしたから」


 培養脳モニター契約、良いタイミングでしたね、と医師が言う。


「無事で良かった……」


 妻子が涙ぐむ。



 しかし本当に、私の妻子だろうか。



 私の身体はまだあの星の森に、ひっそり横たわっているのでは、ないのだろうか……