裏道の中央に
そして肝心の俺は表に出ている先生に隠れ、裏道の入り口付近に隠れている。
今回俺と有紀奈が考えた作戦は俺が
この世界で俺の存在を知っているのは、ついさっき事情を察してもらった先生を
だから、マークされていない俺という切り札が上手く動かなければならないんだ。
「ヨーコ!! ワタシは
「レイラに釘を刺しておいたが、止めなかったのか勝手に動いたのかはわからぬが、いずれにせよ超えてはならぬラインを超えようとしおったな! ステラァ!!」
先生が再び矢印を二本射出してステラに向かって高速で突撃させた。
ただただ真正面から突撃させるのではなく、フェイントを掛けながらステラの周りを複雑に飛び回っている。
あの一瞬で事情を察してくれたのか、指示した二本という
普段は有紀奈に馬鹿にされたり
「はい~、いっちょあがり~」
ステラが一歩も動かず、更に二本の矢印をハンティングナイフで切り裂き、既に六本が切り落とされて先生の手持ちの矢印は残り三本となった。
「ユキナもいることはわかっているんだよ? 一緒に戦わなくてもいいの?」
ステラが煽るようにニタニタと笑っている。
「お
先生が
「だからぁ、ちょっとワタシのこと舐めすぎじゃない?」
ステラは
カキーンという
「今のは『
「ユキナを殺すために借してくれたんだよ。
光の壁が消え、ハンティングナイフをクルクルと回しながらステラがニッコリと笑顔を見せる。
「……お断りするわ」
ようやく追いついた有紀奈がゆっくりと歩きながら姿を現した。俺は相変わらず影に隠れたままだ。
姿を現したと同時に彼女が着ている薄手の黒いパーカーが、赤い
それは彼女自身の
「せっかくレイラが
ゆっくりと歩みを進める有紀奈は先生の前まで足を進め、先生を守るかのように正面に立った。
「ユキナッ! 水族館の時は手加減してあげたけど、今度はそうはいかないからね!!」
そうだ、俺の記憶はここで止まっている。
ここから先は、俺も知らない未来だ――!
ステラがハンティングナイフを構えた瞬間、ステラの背後から十人程の男性がステラの足腰をがっちりと捕まえて身動きが取れない状態となった。
「その辺りを歩いている人たちに
「はぁ……。確かに動けなくはなったけど、
ステラが
自分と敵対する者の手持ちのカードが無くなったうえ全く
「何がしたいって……? 決まってるでしょ……? 目の前にいるクソ
そう言いながら有紀奈は
一歩二歩と歩みを進め、ステラに近づいていく。
「あぁもう、
ステラは足腰にまとわりつく男性たちを強力な
「まぁ……。成仏させてあげるのは私じゃないんだけどね……」
「それじゃあ、まずはユキナから――」
ステラがハンティングナイフを手に持ちユキナに高速で襲いかかると同時に有紀奈が刀から手を離した。それに合わせて俺は念じた。
■ ■ ■ ■ ■
――辺りから音が消え、有紀奈が手を離した日本刀は空中で止まっていた。
隠れていた俺は全力で走り出し、有紀奈のいるところまで来るとステラの攻撃が当たらない程度まで有紀奈を横から突き飛ばした。そして
だから、どうやって
しかし、そんな方法があれば有紀奈は既に試している。
だから逆転の発想で
――そもそも
時が止まっていれば展開されないだろう――俺と有紀奈はそんな
もし賭けに勝てたのであれば俺という人間はレイラにとって最も相性の悪い能力者ということになる。
ステラの眼の前まで来た俺は、
止まった時の中では
何とも言えない感触とともに首筋から入った日本刀がステラの
――俺たちは賭けに勝った。
ステラもまた有紀奈や先生達と同じく肉体を持たない精神体であるため、切り口から血が吹き出すこともなく切断面が光っている。
これで本当に終わったのだろうか……?
終わってみれば意外と
有紀奈と事前に決めていた作戦はこれだけだ。
先生が矢印を使い切り、有紀奈が能力を使ってステラを一時的に動けなくする。身体能力で圧倒的に
有紀奈が自らと先生を
そう考えているうちに全身に痛みが走り始める、時間切れが近いようだ。
■ ■ ■ ■ ■
時間は再び動き出した。
「――倒させてもらうよ!」
ステラの声が遠ざかるように彼女の頭部が地面に落ちてゴロゴロと転がっていき、身体の方は有紀奈に向かって走っていく途中で無抵抗のまま勢いよく倒れてしまった。
有紀奈は有紀奈で、俺が横から突き飛ばした勢いで受け身も取れずに肩と頭から思いっきり地面に激突してしまった。結果論ではあるが、ステラの攻撃が届かなかったので横から突き飛ばす必要はなかったから少し申し訳ない気はする。
「……もうちょっと
有紀奈がゴスロリの服に傷や汚れがないか確認しながら起き上がる。
「まぁ、でも賭けにも勝ったみたいだから許してあげるわ……」
ふらふらと歩きながら俺に近づき、刀を返すように
「これで終わったのかな」
有紀奈は無言で日本刀を受け取ると、ステラの頭部に向かって更に足を進めた。
「私と――私が遊んでいたものに手を出したのが運の尽きね……。
日本刀を
ステラの眼球が動き、倒れている自らの身体と向けられている刀の
有紀奈やステラのような肉体が一度死に、精神だけとなった存在でも
精神的な死。肉体的に苦しくなくても発狂するような精神の死。そして、自らが『死んだ』と理解してしまうことで迎える死。
ステラが迎えたのは後者の死だ。
頭部は青白い光に包まれ、離れた場所で倒れている首のない身体もまた光を発した。
「またどこかの世界に戻ってきても私に関わるのはやめてほしいけどね……。まぁ……。先に手を出したのは私のほうか……」
光は少しずつ
「終わったのか……?」
「良かったわね……。あなたの
長かったようで短かったような……。
「よかったのう、春昭よ。面影があったから何となくは察しはしたが後で詳しく話は聞かせて貰うからな。覚悟しておくんじゃぞ」
「はは、覚悟しておきますよ政木先生。……いや、もう全てを終えた俺はただの学生の加藤春昭ではなく、完全に『シキ』という存在になった……のかな……? だから先生の事はこれからは先生ではなくヨーコさんって呼んだほうがいいのかもしれないですね」
「別にどんな呼び方でもかまわぬよ、時が過ぎてもお主がワシの教え子だと言うことは変わらぬからな。しかし、お主もワシらと同じ道を歩もうと言うのか……? 敵対しないのであれば
「でしょうね、知ってます」
「うるさいわね……。このままあなたたちの首も切り落としてあげてもいいのよ……」