僕、安藤雅彦は緊張していた。
僕は今日、『とある美しい女性』に告白をするつもりだ。
高校に入学してまだ三ヶ月だけど、登校途中にいつも同じ時間の電車に乗っているあの人。同じ高校の制服を着ていたから、その女性が同じ高校の人だとすぐにわかった。
下校時、昇降口で彼女が出てくるのをこっそりと待ち続けて、使っている下駄箱から一学年上の先輩であることもわかった。
二年生の下駄箱の名前には『氷川ヒカリ』と書いてあった。
今思えば、熱が入りすぎてストーカー紛いなことをしていたと反省している。
腰まである長くスラリとした黒い髪の毛は美しく、品があって物静かで、スカートから出る細くスラッとした脚は彼女の体型の良さを体現している。そんな彼女に僕は吸い込まれるように一目惚れをしてしまった。
だから、僕は今まで出したことの無いくらいの勇気を出した。氷川さんの下駄箱に、放課後に体育館裏へ来て欲しいと書いた手紙をいれた。
すると、放課後に氷川さんは本当に来てくれた。
僕の思いの丈を精一杯伝え、生まれて初めて心の底から『好きだ』と人に伝えた。
「ありがとう……。こんな私で良ければお話はお受けしたいんですけど……」
氷川さんは目線を下に逸し、困っている様子だった。
「ただ……あの……もしかしたら知らないかもしれないから、一応確認しておくんだけど……」
氷川さんがもじもじしながら、上目遣いで僕のことを見てくる。
その仕草だけでも可愛い過ぎて、もっと彼女の事を好きになってしまいそうだった。
「あの……私『男』なんだけど……大丈夫?」
その時初めて知った。
氷川さんは確かに美しかったが女性ではなく『とある美しい漢《おとこ》』だったのだ。