街道にて、1人と1匹が歩く。
前方に馬車が止まっていた。
背広を着た男が2人、ど真ん中で何かを見下ろす。
『何してるのかな』
「さぁ、邪魔しちゃ悪いから行こう」
興味を示す狼と、無関心な赤ずきん。
馬車を避けて通り過ぎる途中、ちらりと琥珀は覗く。
両腕を拘束された青年が、地面に伏せていた。
筋肉質で背が高く、軍服を着ている。
『あれ、イーサン、イーサンだよっ』
「他人の空似じゃないかな」
赤ずきんは通り過ぎようとした。
「あっ、赤ずきん! それにチビスケ! 助けてくれ、俺だよ、イーサン! 助けてくれっアーサーが、アーサーが!」
「黙れ!」
ブーツで横っ腹を蹴られ、呻いて空を仰ぐ姿勢となる。
『暴力はよくないよ!』
「やれやれ」
数歩進んでから立ち止まり、呆れながら数歩戻る。
背広の男、ちょび髭をした人物はジロジロと睨む。
「狼を連れた女……十分に怪しすぎる、この犯罪者と仲間みたいだな」
『うんっ都でね、遊んでくれた優しい人!』
嘲笑とゆっくりと手を叩く音。
「やぁ坊や、君は素直でいい子だねぇ。お嬢さん、名前は?」
「赤ずきんです」
「名前じゃないだろ、本名を言え」
「さぁ、忘れてしまいました」
「ははは……お嬢さん、警察を舐めない方がいいぞ」
「警察?」
赤ずきんは聞き慣れない名称に首を傾げる。
「あまり世俗に詳しくない旅人か……だが、ライフル銃を所持、許可証は」
「あります」
「軍の関係者か。じゃあ赤ずきん、我々はね警察という新しい組織を2年前に立ち上げた。俺はギャロン、相棒は」
「ワルフリードだ」
渋い声で静かに名乗る。
「軍事政権から脱却し、警察がこの国を作りかえる。真の平和、犯罪者を武力ではなく法で裁き、罪を償わせるのさ」
「たいへん素晴らしいと思いますが、この国は人食い狼増加による被害の方が多いですし、駆除を優先した方がいいかと」
ギャロンは、分かっている、と頷いた。
「軍の調査部隊を知っているか? ヴォルフの研究をしている組織」
「えぇ少しだけ」
「坊やのように人語を話す、ヴォルフがいるのさ、森の奥深くに、軍や警察とは違う、独自の法が絡む町がある。人と取引をして共存し、ヴォルフを増やしている、駆除対象だっていうのに何故か傲慢なマッケナは、動かない」
「総帥をつけろってんだクソ野郎!」
横やりに対し、ワルフリードは黙って引き起こすと、馬車の荷台へと強引に押し込んだ。
「彼は何をしたんですか?」
「殺人だ、酔っぱらった挙句、ケンカして仲間を撃ち殺した。犯罪者同士でつぶし合うのは一向に構わん。牢屋にも地獄にもぶち込めるからな」
『ねぇねぇアーサーに何があったの?』
「被害者の名前だ、頭に至近距離から拳銃で1発。死体ならまだ町で保管している。拝みたきゃこの先にある町に行け、あと数時間したら故郷に送り届ける、犯罪者とはいえ死者は丁重に扱うさ」
荷台でバタバタと暴れる音が聞こえ、
「俺はやってねぇ!!」
と叫んでいる。
「やってねぇ、と言っていますが」
「町で複数の目撃者がいる、旋条痕が軍指定の拳銃と合致した。お嬢さん、それでもあいつの疑いを晴らしたいのか?」
『イーサンもアーサーも良い人だよ! 悪いことなんてしないもん』
「うーん狼クン、どうしたい?」
『助けなきゃっ! だって、少しだけでも都で一緒に暮らしたんだよ?』
「というわけで疑いを晴らしたいですね」
訝し気に睨んだギャロンだが、軽く頷いた。
「だったら町まで来い、反論できる証拠を見つけてみろ」