第7話

 文化祭の打ち合わせはスローペースではあったが、進んでいた。

 その中で、外部からの人を招待してステージをやろうということになり、小鳥遊さんがとんでもないことを提案したのだ。


「地下アイドルで~『ステラノヴァ』っていうのがいるんですけど、呼べたら呼んでみたいな~って思うんですけど、どおですかぁ?」


 月舘さん、俺、倉掛さん、颯真が無邪気に言った小鳥遊さんの発言に凍りつく。

 青山さんと七星さんは首を傾げ、神崎はニヤリと笑っている。


「えっと……そのさ……」

「――小鳥遊君、地下アイドルとは言え、向こうにも向こうの事情っていうのがあると思う。スケジュールやそれに向けた調整があると思う。

 言うほど簡単にできるものではないと思うよ。もっと別の提案を考えてみてはどうかな?」


 颯真が冷静さを取り戻し、小鳥遊さんに言う。


「そーですかぁ? 面白そうだと思ったんだけどなぁ……」

「単に面白そうというだけでは、承認はできませんわ。一体どれだけのお金を使うことになるとお思いで?」


 追撃したのは会計担当の七星さんだ。


「んむー……」


 しかし……。どうして、小鳥遊さんが「ステラノヴァ」のことを知ったのだろうか。

 一晴が話したのか?


「……颯真」

「……わかっているよ、我が救世主」


 ☆★☆★☆★


 翌日、俺は颯真と共に一晴を呼び出した。

 ……ちなみに、颯真が時間を制御しているので周りにこの会話を聞かれることはない。


「俺は小鳥遊って女は知らない。直哉、俺が口を滑らせたと思ってるから、颯真と共に来たのだろう」

「あぁ、そうだ。『ステラノヴァ』のことを知っているのは、俺とお前だけだからな」

「なるほど。それなら疑われても仕方のないことだな」

「俺だってお前を疑いたくはなかったさ。でも、真っ先に思い浮かんだのは、お前だったんだ、一晴」

「わかっているさ」


 一晴は真面目に答える。


「けど、俺以外に『ステラノヴァ』を知っている奴がいてもおかしくない。学園内でも、俺のようなオタクが知っている可能性がある。

 そいつが小鳥遊って女と友達、あるいは話す仲であって、雑談の中で話したのかもしれない」

「かもな」

「だろう? なにも俺が発生源ってわけじゃないぜ」

「そうだったな。疑ってすまない」

「いいってことよ、直哉氏。さっきも言ったけど、某が疑われるのはしょうがないことですぞ。

 ただ、某もうっかり口を滑らせないようには気をつけますぞ」


 颯真に言い、時を動かした。


「……私のことを便利に扱い過ぎではないか、我が救世主。頼られるのは嫌いではないが……」

「すまない。俺の懐中時計は時間を巻き戻すことしかできず、止める能力はなかったんだ」

「そうだったか……。ならば私からは何も言えないよ。――さて、我が救世主。どこから『ステラノヴァ』の情報がもたらされたか、だね」

「あぁ。情報元を突き止めなければ、噂が立つ。そうなれば、倉掛さんみたいに月舘さんとミリィの関係性に気づくやつも現れる」

「それは危険だ」

「あぁ、危険だ」


 危機感を募らせる俺と颯真。

 一晴が情報源でなければ、神崎か?

 でも、あいつが熱心に「ステラノヴァ」のことを調べることをするだろうか?


「そう言えば、我が救世主。あなたに謝らなければならないことがある」

「なんだ?」

「我が救世主が生徒会に初めて参加した日、私は神崎雅久と接触していたんだ」

「!?」

「あぁ、でも、私は彼に我が救世主の邪魔をするなと忠告しただけなんだ。未来がわかるからね」

「それだけか」

「あぁ、それだけだ」


 颯真はかつての怨敵と接触していたのか。


「それともう一つ。我が救世主、SNSには気をつけたほうがいいかもしれない」

「そうだな。SNSで情報を拡散されてしまっては、どうしようもなくなってしまうからな」

「幸い、まだSNSで情報が拡散されたという事実も未来もできていない。その点に関しては、今現在では大丈夫だろう」


 手にしている手帳を見ながら、颯真は言う。


 ――しかし、現実はそう甘くはなかった。

 『ステラノヴァ』の話は、九重葛学園中に広まってしまい、一晴のようにライブに出かけたという生徒まで現れてしまった。


「直哉氏~! 大変ですぞ~!」

「どうした、一晴。血相を変えて」


 そんなある日の昼休み。颯真とお弁当を食べていると、同じように弁当を抱えた一晴が現れた。


「『ステラノヴァ』が学園内で有名になりすぎましたぞ~! このままでは!」

「なん……だと?」

「危惧していたことが起きてしまいましたね、直哉君」

「あぁ、そうだな、颯真……! それで一晴、お前が聞いた話を俺たちにも話してくれるか?」

「もちろんだ! ミリィの顔がどこか見覚えのある顔だっていう話が一番やばいと思ってる!」

「――! 颯真ッ!」

「あぁ!」


 颯真は手帳を急いで開く! そこには!


【 ミリィの正体は誰にもわかっていない。ミリィの正体が月舘美玲であることは誰も突き止められずにいるが、突き止められるのは時間の問題だろう 】


 ……としか書かれていなかった。


「……なんだ。もうバレる未来が存在しているのかと思った」

「早合点してしまったようだね、我が救世主」

「だが、ここにも書かれているように、突き止められるのは時間の問題だ。どうする」

「俺たちが守っていくしかなかろう。……一晴」

「なんでござるか?」

「颯真の手帳にかかれている文字が見えるか?」


 俺にそう言われ、颯真の手帳を覗く一晴。


「……? ただの真っ白な手帳にしか見えないですぞ? それがどうしたでござるか?」

「ならいい……」

「??? なんかよくわからない直哉氏ですぞ?」


 首を傾げる一晴。

 ということは、俺と颯真にしか見えないわけか。この手帳の文字は……。