お昼にコンビニで買ったパンを食べてからまたあたし達は勉強を続けた。
夕方になると先生がやって来てそろそろ帰る支度をしろと言われる。
あたし達はクーラーを切って、軽く掃除をしてから図書室に鍵をして出た。廊下には熱気が溜まってて吸い込んだだけで汗が出そうだ。それでも夕方なので涼しい方だった。
あたしはこの時の開放感が大好きだ。天井に向かってぐーっとのびをする。
「はぁ~。今日も勉強した~。こんだけがんばったんだからアイス食べていいよねえ」
するとうーみぃが「ダイエットするんじゃなかったのか?」と訝しむ。
「疲れた頭には甘い物が一番なんだよ。それに今から自転車漕ぐんだし、カロリー的にはむしろ勉強した分ダイエットになってるから」
「相変わらず自分を甘やかせるのはうまいな」
「えへへ~。褒められた」
あたしが喜ぶとうーみぃはやれやれと肩をすくめ、琴美と菜子ちゃんは笑っていた。
それからあたし達は坂を下ってコンビニまでやって来た。四人揃ってアイスのケースを吟味する。
「どうしよ。全部食べたい」
「ここから一つ選ばないといけないのは苦行だな」
「う~ん。ダッツ食べたいけどこの前ネットで服買っちゃったからなあ」
あたしとうーみぃと琴美が悩む中、菜子ちゃんは迷いもなく一番高いダッツを手に取り、店員さんに「お願いします」と差し出した。
菜子ちゃんはいつもこうだ。なんとも羨ましい。バイトしなくてもお小遣いをたくさんもらえるらしく、好きなものはなんでも買っていた。あたしとは大違いだ。
結局あたしは安いアイスキャンデーを買った。琴美はカップアイスを、うーみぃは抹茶アイスだ。それを外のベンチで座りながら食べる。
しばらく雑談してアイスも食べ終えると、話題は東京に行った加世子のことになった。
「そう言えば加世子来てるんだっけ?」
「みたいだな。そんなことをグールプLINEに書き込んでいたが。でも私は会ってない」
うーみぃそう言うと琴美が「わたしもー」と同意し、菜子ちゃんも頷いた。
「もう東京に帰ったのかな?」
あたしが首を傾げると菜子ちゃんが少し心配そうにする。
「でもこっちに帰ってきた時は絶対会ってるよね。いつもは金曜の夜に来て日曜の夜に帰ってくのに。なにか会ったのかな?」
琴美は「忙しかったんじゃない?」と興味なさそうだ。うーみぃも同様に頷く。
「あいつは気まぐれだからな。そういうことがあってもおかしくない。会ってもどうせ大学生の彼氏を自慢してくるだけだ」
加世子には年上の彼氏がいた。写真を見せてもらったけど結構かっこよかった。
今年の春から付き合ってるらしく、会うたびに色々話を聞かせてくれる。お洒落なお店へデートに行ったとか、キスしたとか、ホテルに行ったとかだ。ホテルの次はどうなるんだろう? 彼氏のいないあたしとしては気になるところだ。
個人的には加世子の心配はしてない。なんだかんだで田舎育ちだからたくましいし、いざとなったら泣きついてくるからだ。連絡がないならべつの友達と遊んでるんだろう。
だけど心配性の菜子ちゃんだけは違った。なにやら考え込んでいる。
「……もしかして、会いたくないんじゃなくて会えないんじゃないかな?」
「え? それってどういうこと? あ。バス代がないとか?」
街のある国道沿いまではバスじゃないと遠すぎる。加世子もこっちに来るのにいつもバス代がかかると愚痴っていた。東京ならどこでも安く電車で行けるらしい。
だけどあたしの予想は菜子ちゃんの予想とは違ったそうだ。
「そうじゃなくて……。例えば会いづらいことがあったとか……」
琴美が首を傾げる。
「会いづらい? もしかして彼氏と別れたとか?」
「あり得るな」とうーみぃが頷いた。「自慢できなくなったら会わない。加世子ならやりそうだ」
たしかに。加世子は昔から結構プライドが高い。いじられるのがイヤであたしらと会わないのは考えられる。
だけどそれも菜子ちゃんの予想とは違っていた。
「だったらまだいいんだけど……」
「なんだ? なにを気にしている?」
はっきりしない菜子ちゃんにうーみぃが眉をひそめた。菜子ちゃんは苦笑いする。
「えっとね。加世子ちゃん言ってたんだ。彼氏が、その……ゴム付けてくれないって……」
ゴム? あたしはいまいち菜子ちゃんの言ってることが分からなかった。
だけど琴美とうーみぃはすぐに分かったらしく、気まずそうにする。
「あー……。つまり……」
「その、なんだ……そういうことか……」
琴美は呆れ、うーみぃは少し顔を赤くした。
あたしはしばらく二人の表情を見て、そして気づいた。
「……あ。もしかしてあれ? できちゃったってこと?」
呑気なあたしを見て菜子ちゃんはおずおずと頷く。
なるほど。それは大変だ。あたし達はまだ高校生なんだから妊娠なんかしたらどうなるか……。まずお母さんに怒られるし、学校の先生にも怒られる。田舎だからすぐに話は伝わって、ろくに外出もできないだろう。
加世子が来るのは多い時で一ヶ月に一回くらい。そう言えばこの前会った時はちょっと太ってたような。あれが食べ過ぎじゃないとすると……。夏だし、薄着だろうからはっきりとお腹が出たら隠し通せないはずだ。
あたし達はイヤな予感を共有して黙り込んだ。
それからあたし達は話し合い、加世子に『どうしたの?』とだけメッセージを送った。
だけどしばらく経っても既読になることはなかった。