食事をしながら、私たちは康典に今の状況をきちんと話し、今後の計画についても説明した。もちろん、まだ決定しているわけではないけれど、今日2人で話したこと、同窓生の人たちに話を聞いたり相談したことなどだ。
康典は大学生でまだ社会人としての経験はないが、もう少ししたら自分の足で歩んでいかなければならない。自分の子供ながらそれなりにしっかりしているように思っているので、今後のことについてきちんと話し、違った視点からの考え方も聞きたいと思っている。
もちろん、まだ青臭いところもあるが、時々親子で話すことの中には私たちが気付かなかったことを口にすることがある。この日、食事しながらそういうことを聞きたいと思っていた。
「で、康典。今話したことについてどう思う?」
私は康典に意見を求めた。
「僕はまだ世の中のことを知らないし、同窓生の人や先輩の人たちに相談することは良いと思う。だけど、それはあくまでもその人たちの考えであり、経験なんだから、あくまでも参考程度にし、真似する必要はないんじゃないかな」
意外と大人の考えだな、と思いつつ私たちは黙って聞いていた。
「だって、話を聞いていると、前提条件が違うでしょう? 開業している場所やどんな感じで開業し、また運営しているかはみんな違うし、ある成功例だとしても、それを自分たちの条件にアレンジして良いとこ取りすれば良いんじゃないかな。お父さんたちは夫婦でやっているんだし、その強みを活かしてやっていけば、今度は逆に他の人の参考になるんじゃないかな。他の人の真似よりも、オリジナルを意識したほうが良いと思う。それが他との差別化になるだろうし、これからはそういう意識が必要だと思う」
私たちが想像していたよりも積極的な意見だった。
そういうことを実践しようとすればいろいろあるだろうけれど、まずは意識が大切だ。その話は私たちが勉強している時、先生から聞いていた。
まず自分たちがどうしたいのか、そしてそのためには何をするのか、ということが明確でなければ他人の意見に左右されるだけであり、結局は上手く行かないことにもなりかねない。
そう考えた時、学校で学んだ時のことを思い出した。
開業の際、チラシの作り方を相談した時、先生からひな型をちょっと捻って自分のところのチラシとして作るのは簡単だけど、それでは自分の考えが入らないでしょう、だから、基本的なコンセプトは自分で作り、そこの言葉は自分の考えが入るようにと言われた。その上で具体的なアドバイスをいただいたわけだが、この時点で一人立ちする時の意識は学んでいた、ということを改めて思い出した。
先生に相談した時、私たちが考えていたことをブラッシュアップされ、さらに良い内容にしていただいたけれど、そういうことが原点だった。
同じようなことを康典からも言われたような感じだった。私は美津子のほうに向かって言った。
「改めて初心に戻り、先生に相談してみようか?」
「そうね、でも卒業してからずいぶん経つし、お話を聞いていただけるかしら?」
美津子は多少心配があるようだったが、そこで康典が言った。
「心配なんかしないで、自分でそれが必要と思うなら、明日にでも電話してみればいいじゃないか」
当然のことだ。ここで話していても埒が明かない。まだ、相談すべき内容も決まっていないのでさすがに明日というわけにはいかないが、理で話をまとめ、近日中に改めて先生に相談しようということで話がまとまった。
その後はずっと笑顔が絶えない時間が過ぎ、開店1周年前夜の1日は終わった。