第6話




 季節は春となり、もうすぐ夏が訪れようとしていた。



「さてと、名残惜しいけど、そろそろ帰還しましょうか。ああ、もう、レティシアちゃんとふたりきりの任務が終わってしまうわ。またしばらくは、こんな楽しい時間は巡ってこない。それもこれも、あの、粘着質魔導士が……」



 ブツブツ云いながら、宿屋を出たところで待っていたのは──



「アンナ、おつかれさま」



 漆黒の魔導士。



「あっ、粘着男! なんでここに! 大人しく本部で待ってなさいよ!」



 猛抗議するアイリスに、ジオ・ゼアから書状が投げられる。



「何よ、これ」



「次の任務の依頼書。ここからちょうど北にある町なんだ。だから、このまま行くよ。ほら、アイリス、さっさと荷物を積んで……アンナの荷物は僕が積むからね」



 ちょうどやってきた荷馬車に乗っていたのはマルスで、結局いつものメンバーがそろった。



「嘘でしょ。わたしとレティシアちゃん、もう2週間も休みナシよ」



 マルスが首を振る。



「しょうがいないよ。特務機関は万年人手不足なんだから。ちなみに僕は、1か月休みナシだ。ああ、それから、あっちでもうひとり合流するよ」



「だれ? トーマス?」



「ちがう、エディウス君。人手不足もあって、彼、今回の任務だけ参加してくれることになったんだ」



 そう云いつつ、浮かない表情のマルスは、馬車の荷台に荷物を積み込むジオ・ゼアを盗み見て、溜息を吐く。アイリスも同様に顔をしかめた。



「いまのところ大丈夫そうだけど……心中、穏やかじゃないだろうなあ」



「でしょうね。これは、ひと悶着、ふた悶着……絶対にありそう」



「間違いないね。ああ、聖印持ち3人に板挟みにされるとか……考えただけで、もう胃が痛い」



 青天の下。



 アイリスとジオ・ゼアが騎乗する馬に先導され、マルスとレティシアを乗せた荷馬車が街道沿いをすすむ。



「気持ちがいいわ」



 爽やかな風を受け、蒼銀の髪がなびく。



 レティシアの肩の上では、金色の聖蛇が口をあけて欠伸をしていた。




 その夜──




 レティシアの耳に、久しぶりにアシドフィルスの声が届いた。





∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ 



 癒者の聖印をもつ、


 蒼銀の乙女よ


 汝は、新たな使命を得るであろう


 アウレリアンに癒しの風を吹かせよ


 闇が護り、青が導く


 汝を待つは、


 紅き髪の炎帝なり




∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ 





【 完 】