第26話 大学とバイト

澄矢は、大学もカフェもバイトも通常運転で滞りなく、平和に過ごしていた。

大学の学食で快翔と一緒に日替わり定食を食べていた。


「ここの定食コスパいいよな。安いし。学生に優しい!」

「だよな、ボリューム感あるし、腹いっぱいになるよな」


 あまりにもお腹がすいていたのか、快翔は、かっこんで白ごはんを食べていた。

 サクサクのとんかつがジューシーだった。


「そういやさ、快翔って、エジプト留学行きたいって言って                                                                                                                                                                         なかったか?」

「あ……ああ、そうだったけどな。それ、やめたんだ。親が予算出せないっていうのと、まずは大学卒業してからでもいいじゃないかみたいな話になって、やる気あるならそれからでも遅くないって話になってさ」

「ほぉーそういうことだったのか。最初、同じところ受験するってなった時さ、聞こうと思ったけど聞けずにいたから、今聞けてよかったわ。すっきりしたわ」                                                      


 味噌汁をずずっと飲んだ澄矢は、そっと胸をなでおろした。


「そうだったんか。別に気にせんでいいだろ。てかさ、お前はどうなんだよ」

「へ?」

「茉大先輩の話」

「んーーー」


 話したくない思いが出たようで、視線をそらした。


「明らかに雫羽ちゃんにそっくりなんだろ。俺は、詳しく雫羽ちゃん知らないけどさ。澄矢がそういうからそうなんだろうなって思うんだけど、茉大ちゃんと付き合うわけ?」

「……まだわからない」

「付き合うのいいけど、傷つけるなよ。元彼女とそっくりって思ったら、ショック受けると思うんだよね。間違って名前呼んだりしたらさ」

「浮気してるとか勘違いされる?」

「うん、かもな」

「亡くなってても?」

「悲しい話になるだろうって」

「確かに……同情で付き合うのも嫌だよな」

「そりゃそうだろ」

 快翔は、完食した定食に手を合わせて挨拶する。澄矢はもやもやした気持ちを残したまま話を終えた。

「ごちそうさまでした」

「うわ、早いな。食べるの。俺も食べないと……。次の授業のレポートまだ仕上げてないんだった」

「マジかよ。熊谷講師は怖いぞぉ」

「だよな。急いでやらないとな」

 食べてから課題レポートの記入でランチタイムが終わる。      


◇◇◇


 「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしますか」


ご機嫌な茉大は営業スマイルをマックスにお客様対応をしていた。


「茉大さん、今日。めっちゃ、ご機嫌ですね」


 後輩の宮島恭輔みやじまきょうすけが澄矢に食器の洗い物をしている声をかけた。


「え、そうかな。よく見てるね」

「何言ってるんですか。ここのバイトで一番人気なんですよ。茉大さん。みんな可愛いって言ってるんですから。彼氏は作らないってガードかたいって思うんすけどね」

「うそ、それ本当? 彼氏作らないってどういうこと?」

「さぁ? 詳しくは教えてくれないんですけど、プライベートは分けてるからって周りのみんな断られたって言ってましたよ。澄矢さんはどうでしたか?」

 「え、俺? 俺は別に……」


 嘘ついてるとばれないように作業に熱中した。そこへバイトリーダーの佐藤美和子さとうみわこが2人を睨みつけた。


「あ。すいません。仕事に集中します」

「そうですね。宮島くん。私語は休憩時間にお願いしますね」

「はーい」

「……」


 澄矢は怒られないように今の作業に集中した。注文が入ったバニラフラペチーノのクリームがうまく出せなくて、あちこちに散らばって、慌ててタオルで拭いた。動揺してしまってることに佐藤に見つかった。背中をポンとたたかれる。


「澄矢くん、恋バナもねぇ。したくなるのわかるけど、き・を・つ・け・て。あなたは先輩でしょう」


「は、はい。失礼しました」


 冷や汗が背中に大量に流れる。その姿を見た茉大は状況を読めずに疑問符を浮かべた。次から次へとお客は途切れなかった。