翌朝、目が覚めた時、ズキズキとする頭の痛みに顔を顰める。
「お水飲みますか? おはようございます」
「んん〜、おはよう」
そうだった。
旅行に来ていて、松岡くんと同じ部屋だったと思い出す。
ペットボトルの水を差し出してくれる松岡くんから水を貰うより先に寝乱れた浴衣を急いで直す。
恥ずかしいくらいに乱れ、もしかしたら胸元が見えていたかもしれない。
ああ、でも私なんかの胸に興味なんてないか、と思い至ってしょんぼりしてしまう。
「朝から百面相するくらいに元気なら大丈夫ですよね? 朝ご飯行きますよ?」
「うん。行く。その前にお水ください」
「はい」
受け取って水を飲むと気分も幾分良くなったように感じる。
「昨日はごめんね。あれ、そう言えば私……、ベッドでちゃんと寝たんだね?」
「いえ、そこの椅子で寝てましたよ」
そう言いながら松岡くんは冷蔵庫の前にある椅子を指差す。
「え、……やっぱり? そこで寝ちゃた?」
「そのままにしておいても良かったですけど、首を寝違えられても困るのでベッドに運ばせていただきました」
「ごめんっ!! マジで? ホントに、……すみません」
頭を下げる私の上に松岡くんの笑い声が降ってくる。
「はは、いいですよ。それくらいのこと、僕は特に気にしてませんから」
見上げた松岡くんの顔はとてもとても優しい顔をしていて、私はそんな顔を見るだけで胸がきゅっと痛んで切なくなった。
今日でとうとうお終いなんだ。
彼女として歩くんの隣にいられるのは、多分今日で終わり。
最後の一日なんだ。
チェックアウトを済ませ旅館の外に出る。それぞれ傘をさすと、バタバタと雨の打ち付ける音が頭上で響いていた。
これからの予定は昨日行けなかった方面を散策してお土産を買うくらい。だが、しかし、
「彩葉ちゃん、私ね、ここの神社に行きたいんだけど行ってもいい?」
申し訳なさそうにスマホを見せてくる友梨さん。
そこは私も事前に調べて知っていた場所。
恋愛成就のご利益がある小さな神社で縁結守が可愛いと記載されていた。
そのお守りはピンク色の和柄布で包まれた貝と、青色の和柄布で包まれた貝が付いた根付で、『
ピンクの貝と青色の貝が合わせになり、一つになることでご縁が結ばれるという事だそうだ。
「でも……」
私はいいけど、松岡くんには酷な気がしてならない。
友梨さんとは決して結ばれない縁を願いに行くのは胸が苦しい。そんな苦しい想いを松岡くんにして欲しくない私はどうするべきか悩んでしまう。
かと言って別行動にするのも違う気がするし……。
「何悩んでんの彩葉と友梨?」
「歩くん……」
「あのね、神社に行きたいんだけど、彩葉ちゃんが」
「どこの神社? 友梨見せて?」
「はい、ここ」
友梨さんがスマホの画面を松岡くんに見せると、友梨が行きたいなら行けばいいじゃん、と簡単に言ってくれる。
松岡くんの基準はいつだって友梨さんなのだということに改めて私は嫉妬してしまいそうになる。
それから私の耳に顔を近付けると、素っ気なくこそっと囁いた。
――元彼との縁を願えばいいじゃん
「は?」
なんで、と疑問が浮かぶ私を余所に松岡くんは友梨さんと湊さんを促して先に歩き出す。
松岡くんの口から『元彼』なんて言って欲しくないなんて想いもぶつけられず、胸の中でモヤモヤとくすぶっていた。
――それにもう私の心の中にいるのは彼じゃないのに。