仕事が終わると、川辺に連行され居酒屋に行く。
とりあえずビールは後だと言わんばかりに川辺はウーロン茶を三つと注文し、「それでいつから?」と聞いてくる。
「だから誤解なの、違うんだって」
「そうなのか、松岡?」
「いえ、本当です。最近付き合い始めたばかりで照れてるんですよ。ね、
「おまっ、松岡っ、下っ、下の名前っ、呼び捨てっ――」
「付き合ってるんですから当然ですよ、名前で呼ぶなんて。恋人なんだから呼び捨てするくらいいいですよね、
完全に遊んでる松岡くんに私は項垂れた。
「川辺主任、嫉妬しないでください。僕が月見里さんを取ったからって。いつまでも何もせず傍観してる川辺主任が悪いんですよ。だから僕なんかに取られるんです」
「な、なっ、それ、おい!」
「えっ、川辺もしかして私のこと……好きだったの?」
「月見里お前もそう言う事言うなよ」
そう言って顔を赤くする川辺を初めて見て、それに私の方が驚く。
「えっっ!?!?」
「何でだよ。って、俺の話しにすり替えるな松岡! もう、ビールだ、ビール! で、やっぱり本当に付き合ってんのか?」
「女々しいですよ、川辺主任。嫌われちゃいますよ、月見里さんに」
松岡くんのその一言で川辺はビールが届くまで黙っていた。
ジョッキで一気にビールを飲み干した川辺は、プハーと吐き出すと、何でだよ、とまた言い出した。
「だってさ、月見里はずっと待ってるんだと思ってたんだ。そこに俺の入る隙なんてないと思ってたのに、……なんだよ松岡。スルっと入り込みやがって」
それだけ言って川辺はまた黙った。
そうか。川辺は私が彼をずっと待っていると思ってたんだ。それはそうか。別れた事に後悔はしなかったけど、いつか帰って来るのを待ってるんだ、って泣いた時、陽菜と川辺が隣にいてくれた。だからここまで仕事を頑張ってこれた。
ただあの時は心がぐちゃぐちゃで、彼を待つとか言ってたけど、連絡さえ寄こさない彼を待つというのがどれほど愚かかと言う事に気付いてからは彼の事も待つ事も諦めていた。
昨年度末に陽菜と恋愛を頑張ろうと決意したばかり。だけど松岡くんと付き合っているのはただのフリ。
それは結婚してアメリカに行く友梨さんに安心してもらうため。もしくは、好きな人が勝手に離れて行く事への当てつけでしかない。
私と松岡くんの間には嘘の関係しかない。
川辺の気持ちは純粋に嬉しいけど、……受け取る事は出来ない。川辺をそんな目で見たことがなかったから急にそんなことを言われても私は戸惑ってしまう。
「誰を待ってるんです?」
静かに問う声に私は何と返していいかためらっていると、代わりに川辺が「恋人」と答えてくれた。
そのワードになんだか私はいたたまれない気持ちになり、俯く。もう川辺も松岡くんの顔も見れそうにない。
私の恋はここにはないのだろう。
私の恋はどこにあるのだろうか。