70話:ソレル王の処刑

 明け方にブルーベル将軍が開戦を世界に向けて発布した。

 ソレル王国首都アルイールの王宮に、仮設の本営を構えるハワドウレ皇国軍は、慌ただしく通信兵などが走り回っていた。

 謁見の間を会議室として使っているブルーベル将軍と、ベルトルドの秘書官リュリュは、次々と戦場からもたらされる報に目を通しながら忙しく指示を出していた。

 開戦の号令とともに、各戦場が本格的な戦闘状態になった。それまでは小競り合いや衝突はしていたが、皇国軍側が整いきらない中での戦闘になったため、後手に回りすぎていたのだ。


「あっちに地の利があって、こちらが準備不足という点を差し引いても、我が軍の無様さが泣けてくるわねえ」


 柳のような眉をキッと釣り上げて、リュリュは不満そうに報告書を読んでいた。口頭で報告されるとイライラして、通信兵の首根っこを捕まえて押し倒したくなる。走り書き程度のメモでいいので、書面で提出させていた。

 大国軍と奉りあげられすぎて、実戦経験が少なすぎる兵士がほとんどだ。という事実が世界に知れ渡りそうな現場の情報が、つぶさに綴られている。情報操作でもしないと、皇国の威信に関わりそうだ。


「数の上では申し分無さ過ぎるんですが、これでは烏合の衆状態ですなあ~」


 朝は苦手です、とぼやきながらのんびりとした口調でブルーベル将軍が唸る。

 前線に送っているのは全て正規兵たちである。ベルトルドの命令で、徴兵は使わないように指示が出ているためだ。

 日々訓練をして演習も行っていたが、実戦と練習では雲泥の差だったようだ。正規兵たちの動きが悪すぎると、嘆きたくなるような報告がなされていた。

 あまり寝ていないこともあり、つぶらな瞳をぱちくりさせながら、ブルーベル将軍は向かい側に立つリュリュを見つめた。


「戦争慣れしてない軍人って、ある意味助かるけど。実際戦争が起こって戦場へ行ったら、役に立たないじゃ目も当てられないわ。オマケにパニックに陥って、非力な民間人に手をかける、手を出すじゃ何しに来たんだかってかんじよ」


 規律を重んじる軍隊でも、敵国だからという慢心と、軍事力という堂々とした武力を笠に着るような低俗な者も多い。それらを管理処分するために、警務部隊と尋問・拷問部隊も投入しているが、それでも抜けはある。

「ンもー早くしなさいよベルっ」とリュリュが親指の爪を噛んだところで、突然ピクリと身体を震わせた。それに気づいたブルーベル将軍は、訝しげにリュリュを見る。


「やっと連絡がきたわ。これから全世界へ向けて生放送するって言ってる」

「ソレル王の身柄を抑えたんですね」

「ええ。戦争の後始末は長引きそうだけど、首謀者の処刑だけは、すぐに済ませておけそうだわ」


 リュリュとブルーベル将軍は頷き合う。ブルーベル将軍は部屋の隅に控えていた副官のハギを呼んだ。


「設置してあるモニターを、全国民は見るよう、緊急通達するよう本国に連絡してください」

「了解です将軍」


 パンダのトゥーリ族であるハギは短い腕で敬礼すると、「トコトコ」と可愛い足音が聞こえてきそうな歩調で、謁見の間を退室していった。


「…いつ見ても和むわあ…ハギたん」

「ほっほっほっ、召喚士のお嬢さんにも人気がありますねえ」

「初対面でいきなり飛びつくくらいにね」


 以前総帥本部でキュッリッキがハギに飛びついて頬ずりしたときのことを思い出し、2人は「ぷっ」と吹き出した。



* * *



 8月6日夜明け前に、自由奪還軍とハワドウレ皇国の開戦の報が、ブルーベル将軍によって世界中に発布された。しかし正午を回った頃、いきなりベルトルドの名で終戦宣言が大々的に発表される。



* * *



 惑星ヒイシに住む全ての人々は、モニター中継を必ず見るよう通達されて、驚愕が世界中を走り抜けた。

 ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の戦場各地では、その報に兵士たちは呆気にとられてしまい、敵味方関係なく、互いに攻撃の手を止めて顔を見合わせていた。まるで肩透かしを食らったような、そんな気分に殆どの軍人たちが陥っている。そして稼ぎ時と勢い込む傭兵たちの戦意をもズッコケさせていた。これだけの大規模な戦争が、ほんの6,7時間程度で終わるなど前代未聞である。

 終戦宣言がなされてから2時間ほど経ち、世界中に設置されていたモニターに、ベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。

 世界中の人々が複雑な思いでモニターを見つめる中、画面の向こう側でベルトルドは不敵な笑みを浮かべていた。


「ソレル王国、ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の4カ国による連合逆臣軍が、ハワドウレ皇国に楯突いてより今日こんにちに至るまで、無用な不安や迷惑をかけたことを、皇王になり代わり、副宰相として世界中の民に詫びる。――本日未明に開戦の報を流したが、此度の首謀者であるソレル国王ヴェイセル・アハヴォ・メリロットを緊急逮捕したので、早急に終戦宣言をさせてもらった」


 一気に白い毛が増えた頭髪を振り乱し、王冠のサークレットもなく、憔悴しきった死相の浮かぶ表情を隠すこともないソレル国王の顔がアップで映し出される。

 その表情かおを見たとき、自由奪還軍の兵士たちの士気が瞬時に崩れ去った。傭兵たちも舌打ちして、その場に座り込んでしまっている。早すぎる終戦宣言よりも、このソレル国王の顔が全てを如実に物語っていると確信できてしまったからだ。

 淡々とした感情のこもらぬベルトルドの声が、世界中のモニターから流れ響く。


「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に噛み付いて戦争を起こした首謀者を、今、ここで私自らの手で処刑する」


 ベルトルドの足元に跪かされたソレル国王は、真っ黒な囚人服を着せられ、両手を後ろに括られている。その顔にはジワジワと恐怖が浮かび上がり、目は狂気を孕んで、口はわなわなと震えていた。

 土気色になった肌には冷や汗が滲み出し、閉じない口の端からは涎が垂れている。

 そこには一人の哀れな老人がいるだけで、王としての威厳の欠片もなかった。身近に迫った死を恐れるだけの、哀れな存在だ。

 次にモニターには、アルカネットが惨殺したベルマン公王ヘッグルンド、エクダル国首相アッペルトフト、ボルクンド国王バーリエルの死体がそのまま映し出された。

 ドス黒く変色した血だまりの中に無造作に捨て置かれ、自らの死体の胸に首を置いた凄まじい画だ。

 その映像を見て、悲鳴を上げ気を失う者、嘔吐する者、動けなくなる者、唖然とする者など続出した。本来ならこうしたものは公にしないものだが、ベルトルドはあえて映し出させていた。

 そして画面は切り替わり、再びベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。

 さっきと変わったのは、ベルトルドの手に柄の長いひと振りの大鎌が握られている。その鋭く光る刃は、ソレル国王の喉元に突きつけられていた。

 これから何が行われるか、すべての人々が理解していた。

 残酷な映像を直視できない者は、モニターの前にはもういない。たとえ命令であってもそれ以上見続けることに耐えられない者たちは、目を隠すか目を瞑って放送が終わるのを必死に願っていた。


「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に逆らった、それだけでも罪は深く重い。更に自国の民を、他国の民を戦乱に巻き込み、死を喚び遺恨を植え付けた罪はもっと重い。裁判など開くに値せぬ。――今後、このようなことが二度と起きぬよう、企む者が現れぬよう、全ての者は、この老人の末路をしかと見届けよ!」


 ベルトルドは大鎌を振り上げると、躊躇なく一気に振り下ろした。

 赤い血の螺旋を描きながら首がはね、ぼとりと落ちて、冷たい床の上をコロコロと転がった。それから一拍おいて、頭をなくした首からは鮮血が噴き上がり、画面の中を真っ赤に染めあげていく。

 真っ白な軍服はソレル国王の血を吸って赤黒く変色し、優雅に死体の前に立つベルトルドの姿を、より凄惨に染め上げた。

 ベルトルドはあえて血をかぶって演出をし、説得力を持たせた。実際、返り血を浴びたベルトルドの姿は、人々の心に恐怖を植え付け、逆らおうという気を消失させたのだ。

『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を口にする者は、どこかバカにしたような侮りを含んで言うことが殆どだ。会ったこともなく、どんな人物かも知らない。それで畏怖を抱くことなど無理だった。

 しかしもうベルトルドを侮る者などいないだろう。ハワドウレ皇国に逆らうということは、この男を敵に回すことなのだ。

 返り血を浴びた美しい顔は、傲岸不遜な笑みを浮かべ、鋭い眼光を放ちながらカメラを堂々と見据えていた。




 生放送が終わると、ベルトルドは手にしている大鎌を無感動に見て、次にアルカネットへ向けてぽいっと放り投げた。アルカネットは上手く柄をキャッチして、そっと大鎌を床に置く。


「お疲れ様です」

「フンッ」


 むっすりとしかめっ面を作り、ベルトルドは両手を腰に当てた。


「かぶるなら美女の血のほうがいい! ジジイの血なんぞ臭くてたまらん」

「過剰な演出をしよう、と言いだしたのはあなたですよ」


 疲れたような溜息をつくアルカネットを見ながら、ベルトルドは拗ねた子供のように唇を尖らせた。


「着替えを持ってこいって言うからなにかと思ったら、こーゆーことだったのネ」


 ベルトルドに負けず劣らず、リュリュも拗ねたように眉を寄せた。そのリュリュからアルカネットはスーツケースを受け取ると、中から白い軍服を取り出し、丁寧にシワを伸ばした。


「とにかく着替えてしまいなさい。もう着ているもの全て焼き捨ててしまいます」

「洗濯してもダメ?」

「ダメ。それだけ豪快にかぶったんじゃ落ちないわよっ」


 目を丸くするベルトルドに、リュリュは片手をヒラヒラ振りながら答えた。


「えー……俺、このスカーフお気に入りなんだが」


 心底残念そうに、ゆるゆるとスカーフを外す。鮮やかな青地に幾何学模様の入った、シルクのスカーフだ。一昨年くらいから愛用しているのもあり、部分的に血を吸って変色しているのが悔やまれてならない。

 あんまりにもしょげているベルトルドを見て、アルカネットは苦笑を浮かべた。


「同じ柄のものがあるか、あとで探しておきます」


 途端ベルトルドの顔がパッと明るくなり、嬉しそうな笑顔になった。が、


「血のべっとりついた顔で、中年が無邪気な笑顔を浮かべないでください。不気味でしょうがない」


 そうボソッとシ・アティウスが呟いた。それに素早く反応し、ベルトルドはムッと目を眇める。


「お前にだけは言われたくないぞ、この能面でエロつらのくせに!」


 緩く天然パーマの入った髪をかきあげながら、シ・アティウスはヤレヤレと肩で息をついた。何かにつけて能面だのエロ面だのと言われ放題だが、何があっても常にあまり表情を動かさないせいもある。感情から表情が浮かぶこともある、という当人の説明はほぼ黙殺されていた。もっぱら他人のために表情を作るのがメンドくさい、というのが理由らしい。

 顔の特徴としては唇がやや厚めで、更に色の入ったレンズの眼鏡をかけている。それで見た目がエロイというのがベルトルドの言い分だ。ただの偏見をこじつけた言い分だが、シ・アティウスからしてみたらそんなことはどうでもよかったので、好き放題勝手に言わせていた。

 ソレル国王の身柄を抑えたことをベルトルドから念話で知らされたリュリュとシ・アティウスは、処刑放送の準備のためにエルアーラ遺跡に問答無用で転送された。

 ベルトルドとアルカネットでは操作が手に余るのもあったが、リュリュからは外の諸々報告説明が、シ・アティウスは遺跡の無事が気になってしょうがなかったとのことで、呼ばれた2人から文句はない。


「俺はな」


 足元の首なし死体をつま先でつつきながら、ベルトルドは腕を組んだ。


「世界なんてものは、統一する必要はないと思う」


 唐突に語りだしたベルトルドに、3人は怪訝そうな顔を向けた。


「すでに種族で惑星の住み分けは出来ているだろ」


 この惑星ヒイシはヴィプネン族の惑星ほしと、いにしえから決められているという。

 誰が決めたのかは知らないが、神話では神々がそうして他のアイオン族、トゥーリ族にそれぞれ別々の惑星ほしを住処として与えたらしい。それを裏付けるように、各惑星は種族に合う地形などをしている。


「千年前に種族統一国家の樹立を目指して奔走したワイズキュール家は、当時惑星全土に複数あった国々が巻き起こす戦争に終止符を打ち、平和な世を築く目的があったからこそハワドウレ皇国が誕生した。多大な犠牲を払いはしたが、国を統一したからこそ、国家間戦争というものが根絶された。しかし世界が平和になると、それに飽いて自分の国を目指す輩が続出し始め、現在の有様だ」


 ハワドウレ皇国と17の小国。3年前は18の小国だったが、反旗を翻して戦争を起こしたため、現在は皇国に併呑され抹消されている。

 他にも自由都市というものも存在している。どの国にも属さず、完全な独立自治権を有している。その代償に、何があっても近隣諸国などの援助も救助も受けられない。そしてエグザイル・システムもない。

 ベルトルドは自由都市で生まれ育った。都市の代表というものは存在したが、それは便宜上必要なだけで、都市の運営は専門機関が行い、住人たちはヴィプネン族、アイオン族、トゥーリ族と3種族が共存していた。

 何事かあれば皆が助け合い、協力して解決していく。格差などなく平等だった。種族で他人を差別することはない。そんな環境にいたベルトルドにとって、何故種族を分け隔ててまで統一しなければならないのか理解できなかった。

 一万年前に存在したという神王国ソレル。一体どのように統治していたのだろう。

 ベルトルドは現代の種族統一国家ハワドウレ皇国の副宰相職を務めている。役職は宰相職そのものであり、政に軍に一部司法にと、細かくするとかなり広い範囲を抱えている。更にはアルケラ研究機関ケレヴィルの所長も務めているのだ。

 その立場から訴えると「たいへん」の一言につきた。

 国の頂点には皇王が鎮座しているが、実際国を動かしているのはベルトルドら臣下であり、国民である。新しいことを決めるにしても、今在るものを見直すにしても、様々な見解や意見が飛び交い、それらをひとつにまとめるだけでも大変な時間を労する。

 そこには役職に就いている人々の考えがあり、それは常に皆と同じというわけではない。押さえつけたり無視すれば、無用な感情をそこに生んでしまう。かといって自由にさせれば新たな問題が起きる。そういうのをなるべく穏便にすませるための方法を新たに考え、納得させ、受け入れてもらう。

 日常的にそういう環境に身を置いていると、一体どうやれば惑星全土を統一できるのか不思議でならないのだ。独裁政治は長くは続かない。神王国ソレルは、どんな方法を使ったのだろうか。そして、足元に転がる老人は、仮に種族の頂点に立てたとして、どのようにこの惑星全土を治める気でいたのだろうか。


「頂点に立ちたかった、それだけよ」


 リュリュは身をくねらせ、冷たい視線を老人の死体へ注ぐ。


「他国を煽動して踊らせたのは上出来だったけど、計画性もなく穴だらけ。ウチの軍を翻弄してくれたのは、コイツの力量ではなく、付き従っていた臣下たちの実力」

「夢を見た挙句、ここに手を出し、貴方を敵に回したのが最大の敗因ですかね」


 ドールグスラシル内を隅ずみまで入念にチェックしながら、シ・アティウスが淡々と呟いた。

  小国とはいえ、すでにソレル王国という国の頂点に立っていた。真摯に自国と向き合っていれば、世界征服などという恥ずかしい夢など浮かぶはずもなかったのだ。

 飢饉や天災に見舞われ、国が立ち行かないなどということは一切なかった。内乱もなく、他国に侵略されたわけでもない。

 国民に目を向け、耳を傾け、心を砕いていればよかったのだ。

 くだらない夢を実行しようとした挙句がこの有様。すでに終結宣言も発し、手配してある専任の部下たちが、戦後処理に回るだろう。そして数ヶ月も経てば、ソレル王国、ボルクンド王国、ベルマン公国、エクダル国の4カ国は、国としての資格と名を剥奪され、ハワドウレ皇国の地方一県として併呑される。新たな知事の人選を急がねばならない。

 暫くはモナルダ大陸の事後処理に忙殺されるだろうことを思い、ベルトルドは深々とため息をついた。


「シャワー浴びたい」


 血の臭いに飽いたようにしかめっ面をするベルトルドに、シ・アティウスの無表情が振り向いた。


「職員たちで使用している、生活ブロックへ行けば使えます」

「そこの位置を出せ!」


 カメラの機材を片付けていたシ・アティウスは、ベルトルドに急かされて腰を上げた。

 室内の中央には、脚のない台が置かれている。8人で囲むとちょうどいい広さのテーブルくらいのサイズで、これも青い光を放つ水晶のような材質で作られていた。

 シ・アティウスはその台の前に立つと、片手をゆっくりと滑らせるようにかざす。

 すると手の動きに合わせるように青白い光が浮かび上がり、光は台の表面全てを覆い尽くした。


「このメインパネルだけは、いじられずにすんだようで良かった」


 濃い茶色のレンズを青色に染めながら、シ・アティウスは安心したように呟いた。


「そこを起動させるのは、お前と俺しか権限がないからな。壁際のモニター下のサブシステムからアクセスしていたんだろう」


 足元に転がったままの死体をつま先でつつきながら、ベルトルドは嫌味な笑みを浮かべた。

 操作マニュアルなどを作ってはいたが、システム起動はシ・アティウスかベルトルドが必要だった。生体キーとしてシステムに登録してあるからだ。

 緊急措置として、2人がいなくとも動かせるようサブシステムが構築されていたが、メインシステムを全起動させるためには、どうしても2人のどちらかが必要になる。


「生活ブロックはここです」


 メインモニターにフリングホルニの内部構造が映し出され、ベルトルドが飛びやすいように映像も映された。


「アルカネット、一緒にこい」

「あらん、アタシが一緒にいくわよ?」

「来・ん・なっ!!」


 本気で嫌そうにベルトルドは叫ぶと、アルカネットの腕を掴んで即転移した。

 2人の消えた空間をしみじみ眺めながら、リュリュは片手を頬に当てて、切なげにため息をつく。


「アタシが身体の隅ずみまで、丁寧に手と口を使って、官能的に洗ってあげたのに。あれでベルの肌って、女子みたいにすべすべしてて、舌を這わせやすいのよね」


 ンふっとリュリュはイヤラシイ笑みを浮かべた。とくにここ最近では、キュッリッキから生理的な面で嫌われるわけにはいかず、それはもう丁寧に手入れを欠かしていないから余計だ。「オヤジ臭がする、とか言われた日にはショックで立ち直れなくなりそうだ」と常々ベルトルドは必死だった。


「シャワーを浴びるだけなのに、何故アルカネットを連れて行ったんです?」


 リュリュの様子にはおかまいなしといった表情で、珍しくシ・アティウスが不思議そうに呟いた。


「ベルは一人でお着替えが出来ないからよん」


 至極当たり前のように言われ、たっぷりと間を空けたあと、


「ほう……」


 とだけシ・アティウスは無感動に声を漏らした。