65話:「いよいよ戦争、始まるんだね」

 遅めの朝食を食べ終わったあと、キュッリッキはフェンリルとフローズヴィトニルと一緒に、宿の庭にある楡の木の木陰で涼んでいた。

 暑い季節がことのほか苦手なようで、フェンリルとフローズヴィトニルは腹ばいになって、冷たさを感じる地面をちょっとずつ移動しながら涼んでいる。そんな二匹の姿がおかしくて、キュッリッキは笑いをかみ殺しながら見ていた。

 宿にはビリーヤード台とチェス盤が置いてあったが、キュッリッキはその手のゲームはやったことがなかったし、興味もなかった。カーティスとルーファスはビリヤードで勝負事、メルヴィンとシビルはチェスで暇つぶしをしていたので、1人こうして庭で涼んでいる。


「こちらでしたか、リッキーさん」


 宿の警備で庭にも配置されたダエヴァたちの多くの敬礼が向けられる中、この暑い真夏の中でもきっちり黒い軍服を着込んだアルカネットが、汗一つかかない涼やかな笑顔で歩いてきた。


「………アルカネットさん顔色悪いよ? 隈も出てるし」


 傍らに座ったアルカネットの顔を、心配そうに覗き込む。


「ちょっと寝不足なんです」


 苦笑を浮かべて、アルカネットはキュッリッキに身体を向ける。

 昨夜キュッリッキとベルトルドが2人きりで休んだことが気になりすぎて、一睡もできなかったのだ。


「私のことよりも、リッキーさんこそ大丈夫ですか? 昨夜は何もされなかったですか?」

「なんにもされてないよ」


 キュッリッキは慌てて手を振って否定する。


「アタシまた昔のこと思い出して泣いちゃったから……それで、ベルトルドさん慰めてくれたの」

「昔の……」

「ベルトルドさんって、なんだかお父さんみたいな感じが時々するの。父親なんてどんなものかも知らないのにね。――でもきっとこんな感じなのかな~って思ったりして」


 はにかむ様に言うキュッリッキを、アルカネットは痛ましそうに見つめる。


「昔一度だけ両親にね、会いに行こうとしたことがあって、その時のことを思い出したら悲しくなっちゃったの。それで泣いちゃった……」


 途端にしゅんっと悲しげに顔を伏せたキュッリッキを、アルカネットはたまらずぎゅっと抱きしめた。


「そんな辛いことは、もうお忘れなさい」


 優しく何度も何度もキュッリッキの頭を撫でながら、アルカネットは抱きしめる手に力を込めた。


「あなたの心に今も大きく残る悲しみを、私は全部取り除いて差し上げたい。あなただけが何故、こんなに辛い思いを味わわなければならないのでしょうか…惨すぎます」


 アルカネットは腕の力を緩めて少し身体を離すと、キュッリッキの顔を覗き込むように見つめた。

 キュッリッキはアルカネットの紫色の瞳を見つめ返しながら、ほんの僅か困惑するような表情を浮かべた。


(アルカネットさん…誰を見ているんだろう…)


 これまでにも感じていたことだが、アルカネットの優しい言葉や瞳は、自分ではない誰か他の人物に向けられているような気がしていた。そこまであからさまではないが、その誰かとキュッリッキを重ね合わせているような。そんな違和感のようなものを感じることがある。

 そして何故だかそのことは、とくにアルカネットへ向けて、けして口に出してはいけない。そんなふうにも感じていた。


「アルカネットさんも寝不足になるほど寝付けない悩みがあるんだったら、アタシも悩み聞いてあげるよ!」


 話題を反らそうと、キュッリッキはわざとらしく明るい口調で身を乗り出した。

 アルカネットは僅かに驚いた表情を浮かべたが、すぐに穏やかに優しく微笑んだ。


「では、悩みというか、お願いをしてもいいですか?」

「うん、なあに?」

「リッキーさんの膝枕で、少しお昼寝させてください」

「そのくらいお安い御用よ」


 キュッリッキはにっこり笑うと、アルカネットが寝やすいように座り直した。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 アルカネットはキュッリッキの前に座り直し、膝に頭を乗せて横たわった。

 宿を警備するダエヴァたちは、遠巻きに2人の様子をちらちら見ていたが、いきなり魔法部隊長官が少女の膝枕で寝そべったのには、仰天して目を見張った。

 周りの無言のどよめきも意に介さず、アルカネットは気持ちよさそうにキュッリッキの膝の感触を堪能していたが、そのままコテッと眠りに落ちてしまった。

 速攻寝入ってしまったアルカネットを、キュッリッキはまじまじと見つめた。


「ベルトルドさんといいアルカネットさんといい、寝付くの早いんだなあ…」


 キュッリッキは若干寝つきの悪い体質だった。とくに枕が変わると妙に眠れない。よほど眠くて眠くてしょうがないときはすぐに寝られるが、こんなふうにすぐ眠りに落ちることは稀なのだ。

 端整な寝顔を見おろし、つられるようにウトウトとしかかったとき――


「そこへ直れ!! 成敗してくれるわっ!!!」

「うわああああっ! よく判らないけどスンマセンッ!!!」


 宿の方から突然ベルトルドの怒号と、困惑するルーファスの悲鳴が聞こえてきて、キュッリッキはハッと顔を上げ「なんだなんだ」とキョロキョロ周りを見た。


「貴様が余計なことをリッキーに教えるから、俺がとばっちりを受けるじゃないか!」


 ベルトルドの喧しい怒号のあとに、窓を突き破ってソファが外に飛び、


「必要なことしか教えてませんよー!?」


 ルーファスの言い訳の後に、窓を突き破ってテーブルが外に飛ぶ。

 庭にゴロロンと転がるソファとテーブルを見て、キュッリッキは小さく乾いた笑いを浮かべた。

 ベルトルドを起こすために、股間を蹴り上げた件で怒っているのだろう。


「蹴ったのはアタシなんだから、アタシに怒ればいいのに……。ルーさんにあたらなくても」


 と、キュッリッキはげっそりしたように呟いた。


「妹のおいたで叱られるのは兄の役目、てぇ、昔から決まってるのよ~ん?」


 聴き慣れたのんびりした声が、背後から聞こえて振り向く。


「マリオン! ペルラも」

「お久しぶりぃ~、キューリちゃ~ん」


 軍服姿の2人を見上げて、キュッリッキの顔がぱっと明るく笑顔になった。

 荷物をぽいっと放り出し、マリオンがキュッリッキに抱きついた。ペルラも笑顔で片手を上げて挨拶を返す。

 キュッリッキに抱きついたまま、マリオンは首を伸ばして膝の上を覗き込む。


「アルカネットさん、随分とぐっすり寝ちゃってるじゃな~い?」

「うん。寝不足なんだって」

「あ~らら」

「対照的に、向こうは元気いっぱいなようだな……」


 宿の方を向いて、呆れたようにペルラが言う。

 ドシャン、ガシャンと、派手な音が盛大に外に轟いている。調度品など無残に破壊されていそうだった。


「なんでおっさん、あんなに怒ってんの?」


 ニヤニヤとするマリオンに、キュッリッキはため息混じりに今朝の出来事を話す。すると、


「ギャッハハハハハ!!」

「マジそれ、ちょーウケんだけどっ」


 いきなり背後でギャリーとザカリーの爆笑が聞こえてきて、3人は振り返った。


「あんたらも着いたのね~、おひさー」


 着崩した軍服姿のギャリーとザカリーが、腹を抱えこれでもかと笑っていた。

 ギャリーとザカリーは3人の姿が見えたので、ワッと驚かせようと忍び寄っていたが、キュッリッキがベルトルドの股間を蹴り上げた話が耳に入ってきて、咄嗟に爆笑してしまったのである。


「キューリもやるようになったじぇねえか。ついにおっさんに手を出されそうになって、抵抗したのか?」


 涙を浮かべて笑いながら、ギャリーが挨拶がわりにキュッリッキの頭を、ガシガシと乱暴に撫で回した。


「ちがーう! トイレ行きたかったんだけど、ベルトルドさんにしっかり抱きしめられてて抜けられなかったから。だって叩いても起きないんだもん」


 唇を可愛く尖らせながら、乱れた髪を両手で撫でて直す。


「そーいや、こないだルーからキンタマ蹴りの秘技を教わってたな。まさかそれをベルトルドのおっさんに実践するとか、おまえもすげーな」


 ザカリーが若干同情するように言う。


「ルーさん言ったように、とーっても効果的で、ベルトルドさんすぐ起きたんだよ」


 えっへんと得意そうなキュッリッキに、ギャリーとザカリーとマリオンはさらに大笑いした。ペルラは「やれやれ」と呆れたように尻尾を振る。


「騒々しい…ですね……」


 むにゃむにゃっと呻くようにアルカネットが寝言をもらしたが、そのまま再び寝入ってしまった。一瞬場が固まったが、アルカネットが目を覚まさなかったので、キュッリッキを抜かした一同はホッと胸を撫で下ろした。


「よっぽど眠いんだな」


 ペルラが肩をすくめる。

 この喧騒の中でも起きないアルカネットに、皆はやや呆れたような視線を投げかけた。



* * *



 うつ伏せに倒れたルーファスの後頭部をグリグリと容赦なく踏みつけ、ベルトルドは腕を組んで居丈高に怒鳴りつけていた。


「勃たなくなったら貴様のせいだからな!!」

「そ…そればっかりは……」


「どんだけの威力でクリティカルヒットしたんだよ!?」と思えるほどの怒りっぷりである。勃つかどうか心配するくらいだから、よほど深く命中したんだろう。


(ていうか、怒るのそこなの!?)


 ルーファスは心の中で、疲れたように薄笑った。


「おいおい、まるでハリケーンが通り過ぎたような有様だな、こりゃ」

「ぬっ」


 なんじゃこりゃと吃驚しているギャリーたちの声に気づいて、ベルトルドは食堂の入口へ顔を向けた。


「やっと着いたか、遅いぞ役立たずども!!」

「ヒッ! なかなか遠かったっす」


 速攻怒鳴られて、ギャリーは首をすくめた。後ろに続いたマリオンとザカリーも「ヒェッ」と首をすくめる。

 フンッと鼻息を噴き出すと、顎をしゃくった。


「ここはお前らで片付けておけ」


「え~~~~~っ」と超不満そうな声が一斉にあがり、ベルトルドはさらにルーファスの頭を踏みしめ、キッと睨みつけた。


「飯抜くぞ!」

「それは嫌です」


 壁際に避難していたカーティスが、キリッと即答した。


「さあさあ皆さん、さっさとお片づけしましょうか。――全く、私たちがやったわけでもないのに、しょうもない大人の癇癪に付き合わされるこっちの身にもなっていただきたいものですね。ああ、めんどくさいですが、しょうがなくテキパキとっとと早くやりましょう」


 聞えよがしに各自嫌味を振りまいて、カーティスたちは荒れ狂ったあとの食堂の片付けを開始した。


「………」


 思いっきり膨れっ面でカーティスの背中を睨みつけていたベルトルドは、ふと、キュッリッキの姿が見えないことにようやく気づいた。


「リッキーはどこにいるんだ?」


 室内を見回すベルトルドに、マリオンがのほほんと答える。


「キューリちゃんならあ、アルカネットさんと一緒に庭にいるわよぉ~」

「なんだと!」


 ベルトルドはルーファスの頭をぐにゅっと踏みつけると、食堂を飛び出していった。

 嵐が出て行くその姿を見送って、皆揃って「ハァ…」と息を吐きだす。


「おいルー、生きてるかー」


 うつ伏せに倒れたままのルーファスのそばにしゃがみこみ、ギャリーが背中を突っついた。


「……生きてる……」


 ルーファスはもそもそと身体を起こすと、ぺたりと疲れたように座り込んだ。


「ふぅ…。いや参った」


 片目を瞑って、ジンジン痛む後頭部に手をあてる。友人の痛ましい姿を見ながら、ギャリーは苦笑を浮かべた。


「キューリが思いっきりおっさんのキンタマ、蹴りかましたんだってな」

「そうなのよ。痴漢にあった時の護身用に教えたんだけどねえ~。まっさか起きないベルトルド様にぶちかますとは、オレでも思わなかったわ」


 ルーファスとギャリーは、キュッリッキに思いっきり股間を蹴られるベルトルドの姿を思い浮かべ、「ブフォッ」とたまらず吹き出した。つられるように、室内のあちこちから吹き出す声が聞こえる。


「でもキューリさん、よく蹴り入れることができましたねえ?」


 椅子を抱えながら、シビルが首をかしげる。


「なんか不思議なのか?」


 ギャリーも首をかしげると、シビルは抱えていた椅子をその場に置いて、顔を上に向けて唸った。


「ベルトルド様って、寝てても超能力サイの絶対防御が働いているでしょ。敵意がなくても、攻撃系なんて空間転移でかわしちゃう筈なのに、て思ったんです」


 ギャリーとルーファスは顔を見合わせた。そういえばそうだねえ、とルーファスが呟く。


「そ~んなの簡単よぉ」


 床に飛び散っている窓ガラスの破片を、念力で浮かせて回収していたマリオンが、うっとりした顔で会話に割り込んだ。


「この世でもぉ~っとも大事にしているキューリちゃんを、空間転移で消すなんてことお、あのおっさんがするわけないっしょぉ~」

「んー、でも寝ていて、相手の識別も判別も出来ないのに?」


 シビルが怪訝そうに鼻をヒクヒクさせた。そんなシビルにマリオンは「ちっちっち」と人差し指を振る。


「それがあ、愛の力ってやつよぉ。あ・い・の・ち・か・ら」


 トロンと酔ったような目をするマリオンを疲れたように見やって、シビルは納得いかないといった表情になった。


「マリオンの言ってること、案外あってると思うよー」


 ルーファスが頭をカシカシと掻きながら頷く。


超能力サイって精神的な力だからさ。キューリちゃんには危害を与えないって、ベルトルド様が常に思い続けているんだったら、無意識下でも力の制御は働くと思うんだよね」

「ほほお、そんなもんなんですかね?」

「うん、多分ね~。極端な話、キューリちゃんに殺意があって、ナイフを振り下ろしたとしても、ベルトルド様の絶対防御は発動しないと思う」

「それってもはや、絶対防御って呼べない気が……」

「あはは、まーそうだね」

「愛よ、愛!」


 踊りながら愛よ愛と歌うマリオンを見て、シビルはどうでもいいといったように肩をすくめた。



* * *



 楡の木まで一目散に駆けてきたベルトルドは、キュッリッキの膝枕で気持ちよさそうに寝るアルカネットを仁王立ちで見おろした。両脇で握り締めた拳が、怒りの感情と共にワナワナと震えている。


「いつまで寝ている!!」


 辺りに轟くほどの大声で、ベルトルドが怒鳴った。まるで落雷のごとき迫力だ。

 キュッリッキはびっくりして目をぱちくりさせると、ベルトルドを見上げた。フェンリルとフローズヴィトニルも驚いて、目を覚ましてしまった。


「もうちょっと寝かせてあげようよ、寝不足って言ってたし」

「昼寝は15分がちょうどいいんだ」


 突っ慳貪に言われたのが不満で、キュッリッキは片方の頬をぷっくりと膨らませて拗ねた。


「リッキーさんに八つ当たりすることないでしょう、大人気ないですね」


 ゆっくりと目を開くと、アルカネットはじろりとベルトルドを睨んだ。


「起きたんだったらリッキーから離れろ! 図々しい奴め!! リッキーの柔らかな膝を独占しおって羨ましいことを」

「気持ちがいいので、もう少しこのままで、まどろんでいたいですね」


 今にも胸ぐらを掴みかかってきそうなベルトルドを、挑発するように見上げると、アルカネットはキュッリッキの膝を堪能するように頬を擦り付けた。


「オマエなっ…」

「閣下ー!!」


 そこへ四角い顔のアルヴァー大佐が、大声を張り上げながら息せき切って駆け寄ってきた。ただならぬアルヴァー大佐の表情を見やって、白熱しかかったベルトルドの顔がスッと真顔になる。


「おくつろぎのところ申し訳ございません! アルイールの本部から緊急連絡が入りました」

「内容は?」

「はっ、ボルクンド王国の首都ヘリクリサムに、ボルクンド王国側の援軍が到来して、第ニ正規部隊と衝突、ヘリクリサムでの市街地戦が、大規模に膨れ上がってしまったそうです」

「ボルクンドに援軍……」


 眉をしかめたベルトルドに、アルカネットが身体を起こしながら頷いた。


「おそらく姿をくらましていた、6月のソレル王国の軍でしょう。どこに潜伏していたのか見つけ出すことが出来ませんでしたが。どうやらエルアーラまで撤退させず、同盟国に潜り込ませていたのでしょうね」

「むう、そうだろうな。でなければ都合よくポッと出てくるわけがない。エグザイル・システムはこちらで抑えてあるし、監視もばら蒔いている。――ったく開戦予定まで、まだ5日あるんだがな。こちらの準備が整ってないだろう?」


 アルカネットは神妙な表情で即肯定する。


「現地は厳しいでしょうね。そもそもあと5日で準備を整えるほうが大変な状態でしょうし。とは言っても準備完了を待って、というわけにもいきません。現場の判断に任せたほうがよろしいかと」


 片手を腰にあて、もう片方の手で頭をカシカシ掻くと、ベルトルドはやれやれと首を振った。


「ブルーベル将軍とリューには直接俺から連絡を入れる。アルヴァーは本部から入る連絡を随時報告してくれ」

「承りました!」


 シャキっと敬礼すると、アルヴァー大佐は慌てて駆けていった。その後ろ姿を見送りながら、唸りつつベルトルドは腕を組む。


「これだとエクダル国、ベルマン公国にもソレル王国軍が援軍として派遣されててもおかしくないな」

「ええ、出てくるでしょうね」


「6月の時点で追跡部隊を出しておくんだった」とベルトルドは舌打ちし、アルカネットは肩をすくめた。

 あの時はキュッリッキの大怪我で、それどころではなかった。そしてナルバ山の遺跡など、どうしても気がかりなことがあったのも影響している。それでも落ち度だったことは否めない。

 イソラの町に待機を命じたマリオン、ザカリー、マーゴットの調査では、そのことは掴めていなかった。うまく隠していたようである。


「食えないジジイだな、ソレル王」


 忌々しげに吐き捨てるように言うと、きょとんとしたキュッリッキと目が合って、ベルトルドは苦笑を浮かべてしゃがみこんだ。


「こちらの開戦予定日までは、のんびりできると思っていたんだがな」


 いつもの子供じみた喧嘩が始まると思いきや、突然仕事モードになった2人にキュッリッキは驚いていた。でも、自分は今敵国にいて、開戦を控えている時なのだと再認識する。

 こうして色々な人々に守られているから、どこか安心していた。キュッリッキは慣れた戦場の臭いを感じて、身を引き締めた。


「いよいよ戦争、始まるんだね」


 やや緊張した面持ちのキュッリッキの頬に優しく手をそえると、ベルトルドは力強く頷いた。


「今日明日には、始まりそうだな」