30.覚醒


「煩わしい」




 オーロが禁技を使用したと同時、オーロの召喚獣たちの姿が消える。


 そして、遮るものが一切無くなったシュクルは再び歩みを進めると。




「なんだ、この光は」




 目の前には眩い光に包み込まれる少年と、俯せに倒れ込むオーロがいた。




「まぁいい。死ね」




 凶刃がオーロの背中に襲い掛かった。




 瞬間。




「っ!!」




 突如、シュクルの目の前から二人の姿が消える。




「どこへ……。っ!」




 その時、シュクルは背後から異様な気配を感じ取る。


 恐る恐る振り返るシュクル。




「お前……誰だ」




 そして、振り返った先にいたのは。








 -エレマ隊基地本部内 転送装置-




「-間もなく、アレット行き転送装置が作動致します-」




 アナウンスの声がフロア内に反響する。




「……ふぅ」




 エレマ体を装着した井後は、大きく息を吐き、転送の瞬間を待つ。




「……洋子」




 井後はおもむろに懐から首飾りを取り出し、蓋を開けて中の写真をのぞく。


 転送装置が白く輝き始める。




「転送準備が整いました。これより、異世界アレットへの転送を行います。技術スタッフの皆さんは――」


「……行くか」




 井後は首飾りの蓋を閉めると懐にしまい、目の前の巨大なワームホールを見る。


 そして、転送装置が作動し始めようとした。




 その時。




「総隊長っ!!」


「っ! どうした!?」




 制御室を担当していた一人のエンジニアが息を荒げて転送フロアに駆け込んでくる。


 何事かと思った井後が駆け寄ってきたエンジニアに声を掛けると。




「はぁ……はぁ……。突然、戦場に……」


「落ち着け、何があった」


「か、彼が……」




 エンジニアは井後に。




「っ!!」




 信じられないことを告げた。




* * *




オーロ視点






 どれくらい時間が経ったんだろう。




 私、あれから死んじゃったのかな。




 ごめんなさい、お父様。


 先にお母様の下へ行くことになっちゃって。




 ……なんだろう。


 誰かに……抱えられてる?




「……ありがとう」




 ……聞いたことない声。


 優しくて、落ち着きのある声。




「だ……れ?」




 ゆっくりと目を開けると。


 そこには。




「もう、大丈夫だ」




 身体中が白金に煌めく、黒く短い髪をした青年がいた。




* * *




三人称視点






「お前……誰だ」




 突然にして現れた謎の人物。


 異様な気配に後ろを振り返ったシュクルは、ここに来て初めて驚愕の表情を浮かべていた。




「……ありがとう」




 その者は抱きかかえた少女に対し静かに礼を言うと、シュクルに背を向け、その場から少し離れる。




「もう、大丈夫だ」




 そしてゆっくりと、優しく丁寧に少女を地面に降ろす。




「誰かと聞いている!」




 シュクルが怒鳴り声をあげる。




「……俺か?」




 刹那。




「っ! どこへ!?」




 少女を降ろした人物はシュクルの視界から消え。




「っ!!」




 目の前に再び姿を現すと。




 力いっぱい。


 シュクルの顔面を殴り飛ばした。




「グハァッ!?」




 不意を突かれたシュクルは物凄い勢いで後方に飛ばされ、地面に転がる。




「シュクル様っ!!」




 近くで見ていたゲーデュは思わず声を上げ、驚愕する。




「ガハッ……なん、だと……!」




 シュクルはすぐに立ち上がるも、今し方起きた出来事に酷く錯乱する。




「(馬鹿な……! 全く見えなかった、いや、それよりも……)」




「ダメージが……入っているだと……!」




 殴られた所から、赤黒い粒子が放出されていた。




「……貴様っ!」




 シュクルが再び目の前の人物を見る。




「初めての覚醒ですので、あまり時間は取れません」


「分かってる」




 シュクルを殴り飛ばした人物は、自身の後ろにいる者と言葉を交わしながら、ゆっくりと近付いていく。




「早めに終わらそう」




 その者達は、シュクルの目の前に立つ。




「俺は」




 シュクルが見たもの、それは。




「エレマ隊五将が一人。掛間空宙」




 白金に輝くエレマ体を着た青年と。




「この戦いに、終止符を打ちにきました」




 その青年の背後に佇む、モノクロツートンカラーの長髪を靡なびかせた、全身白銀に煌めく一人の




 シュクルを前に二人は堂々と構える。




「エレマ……? そうか、貴様も奴らと同じか」




 少し落ち着きを取り戻したシュクルは、空宙の言葉を聞き、静かに笑う。




「ならば」


「っ!」




 シュクルのエレマ体から黒く禍々しいオーラが放たれる。




「貴様も奴らのように屠るとしよう!」


「……きます」


「あぁ」




 空宙とシュクルの間に沈黙が流れる。




「” לשרוף אותוリソーフォト ” ― 燃やし尽くせ ―」


「” נגמר הקרחニグマーラケラハ ” ― 凍り尽くせ ―」




 同時。




 両者から黒焔と白冰が放たれる。


 それらは中心でぶつかり合うと、爆音を伴う衝撃波となり、辺り一帯を大きく震わせる。




「おらぁっ!」


「はぁっ!」




 白煙舞う中、両者は途轍もない速さで接近し、取っ組み合う。




 一つ一つが重く、激しく。


 拳と拳がぶつかる度、衝撃波が生まれる。




 相手の右拳を左腕で受け止め。


 右わき腹を狙った蹴りをいなしたりと。




 互いが互いにギリギリの攻防を繰り広げ、空中に白金の粒子と赤黒い粒子を飛び散らせる。




「” קללהクラーラ ” ― 呪え ―」


「っ!」




 シュクルの右手から黒い渦が発現し、空宙の左腕を縛る。




「うおらぁっ!」


「ぐっ!?」




 行動を制限された空宙の隙を突き、シュクルが渾身の蹴りを入れる。


 攻撃をまともに喰らった空宙は、脇腹から白金の粒子を流しながら仰け反り、遠くへ飛ばされ激しく地面を転がる。




「大丈夫ですか」


「……問題ない」




 白銀に煌めく女性が心配そうに尋ねる。


 仰向けに倒れた空宙は短く返事をすると、すぐさま立ち上がり。




「” מַרפֵּאマオペ ” ― 癒しを ―」




 破損した部分を修復させる。




「はっはっは……」




 シュクルは不気味に笑いながら近寄る。




「まだ、舞えるだろう?」


「あぁ」




 空宙のエレマ体から神々しいオーラが放たれる。




「ここからだ」




 両者の戦闘が、激しさを増していく。