2097年6月30日
目の前に居る女相手に苦戦していた。
フィルと同じような両手に短剣を構える戦闘スタイルに加えて、近接格闘のスキルも持ち合わせており近距離での戦闘ではこちらが不利。
加えて、間合いを取れば女の背中から存在感を放つ長銃により撃たれる可能性がある。
間合いを取りながら遠距離から攻撃を仕掛けたとしてもこちらが不利だろう。
7メートル前後を意識しながら、向こうの間合いに入らない事を意識しながら攻撃をする、しかしその距離からの攻撃は全て、あの女に見切られている。
「面倒な奴ね」
「……。」
向こうの返答はない。
先程から話し掛けようとも、こちらの言葉には一切反応を示さない。
淡々とこちらとの戦闘をこなしていく。
機械のような、そういうシステムのような冷たい印象だ。
攻撃の速度を上げてもこちらの速度に合わせてくる。
まだ向こうには余裕があるのか、あるいはこちらに合わせるのに必死なのか。
表情や動きの癖からはそれが全く伺えない。
まともに相手にするのは難しい相手なのは確かだろう。
速度を上げる。
既にこちらは全力の6割へと速度は到達している。
向こうは以前として変化無し。
暇つぶしになるどころか、向こうの時間稼ぎになっているだけだ。
時間稼ぎ……。
もし奴の狙いがそれなら、私を倒さなくても良いという事になる。
ここで私を抑える事が、向こうにとっての最善策だと彼女は判断している。
残り二人の仲間が不必要な注意をせずに済むように。
この仮設が成り立つのなら、女は私と戦うつもりは毛頭ないという事になる。
まともに相手をする必要がない、時間稼ぎをしてこちらの疲弊する頃合いを見計らっているのだろうか?
「そういうことね」
私はそう呟き、女との間合いを取り対峙する。
「あなたがそういうつもりなら、さっさと終わらせるわ」
私が再び構えに移ろうとすると、女の警戒が強まる。
これまでに無かった、強い敵意。
こちらの狙いを把握したのだろう、女から放たれる威圧感は先程の比では無かった。
「ヒナさん。
あなたに、彼等の邪魔はさせません」
女が初めて発した声だった。
全く会話をしないという訳ではないらしい。
「私を知っているようね、誰から聞いたの?」
「エルクから、あなた達黄昏の狩人の事はいつも聞いていました」
「そう、あの人が言ってたのね」
「あなたはその中でも危険因子。
こちらの目的の障害になり得る存在です。
カイラ君、そしてあの男の邪魔はさせません」
「もう一人のお仲間さん、奴は何者なの?」
「あなたに答える必要はありません」
向こうは何かを隠している。
つまり、ミヤを回収する以外の目的があった。
こちらとわざわざ交戦してまで成さなければない目的がある。
あの女を回収するという事を建前に何か別の目的を果たそうとしているのだろう。
「そうね。
さっさとあなたを倒して、直接聞き出すわ」
僅かに自分のつま先が動くのを相手は見逃さなかった。
私が攻撃の初動へ移ると同時に向こうの体も動く。
これまで交戦した結果として互いの実力は互角だろうというのはある程度把握出来ていた。
単純な戦闘能力や技術の面ではこちらが上回っている。
しかし、戦闘経験の面では向こうが恐らく数段上。
心理的な駆け引きの類いは、向こうが遥かに有利だろうというのに理解が追いつくのにそう時間は掛からなかった。
攻撃が交錯する。
私の攻撃から映し出される不定形の光の軌道。
こちらの動きが光の軌道で把握が遅れ、向こうは徐々に攻撃の反応がズレて来る。
しかし、ズレの修正は早い。
これまで相手にしてきた誰よりも、彼女の対応力は上だろう。
「やっぱり、あなた少し面倒ね」
向こうがこちらに追いつこうなら、こちらにも考えがあった。
全力で彼女を潰そう。
こんな女相手にこちらの時間を無駄にする訳にはいかない。
速度を一気に引き上げる。
こちらのステータスで引き出せる最高速度で彼女に攻撃が向かう。
光の軌道が加速に応じるように残像が大きく残り始める。
「あなたに彼等の邪魔はさせません」
相手はそう言うと武器を構え、何かのスキルを発動したのか両手の武器が青い光のエフェクトを放ち肥大化していく。
攻撃が衝突、同時に凄まじい衝撃が巻き起こり互いに反動で吹き飛ばされ体力ゲージが大きく減少する。
互いの威力は全くの互角だった。
互いに息を切らしながら武器を構え再び向かい合う。
気に食わなかった。
この女の実力が私よりも上だという事に苛立ちを隠しきれない。
私に勝てるのは彼だけだ。
互角でようやく、あの人くらい。
そんなあの人はもう居ないとカイラという女を含む敵の仲間を率いる奴は言っていた。
だが、目の前に立ち塞がる奴は私と互角かそれ以上の強さだということ。
そして女を連れたカイラ、そしてもう一人のローブを纏った奴も女と同等かそれ以上の実力がある。
少なくとも、カイラは目の前の女よりも遥かに強いのは明白だろうか。
「私は強いの!
あんたよりも、誰よりも私は強い!
私に勝てるのは彼だけ……
だから、あんたには負けられないんだよ!」
全力で倒す。
目の前のこの女には絶対に負けられない。
「あんた、ではありませんよ。
私はリオ、ゲイレルル副団長のリオです。
カイラ君がくれたこの世界での大切な名前。
それをあなたには穢される筋合いはありません」
互いに加速し攻撃が激しさを増す。
こちらの全力に、足りない部分を技量で補う。
僅かに立ち回りに関してはあの人に似ていた。
目の前の女の戦いに、僅かながらあの人の面影があった。
「気にいらないわね」
僅かに間合いを取り直し自身の武器から溢れる不定形の光の刃の一部を消費させこちらの足元へ集中させる。
光のエフェクトがこちらを囲み、意識を研ぎ澄ませる
双の刃を構える彼女の警戒が一層強まる。
関係ない、目の前のあの女を倒せばいいのだから。
「始めに言っておくわ。
これから放つのは、たった一撃よ。
でも、今のあなたの体力程度なら確実に全て吹き飛ばせるわ」
細身になった光の刃先を相手に向けると
逃げ道を塞ぐように光の壁が女を囲む。
女が囲まれた事に僅かに困惑している間にシロの行っていた抜刀の構えをイメージし、体に寸分の狂いもなく型を移していく。
「せいぜい藻掻きなさい」
溜めた力を引き離し、一気に間合いを詰める。
狙いは敵の首、確実に急所を狙う。
相手は当然防御の姿勢へ移る、しかしこちらの攻撃は絶対に防げない。
最悪こちらも相討ちはあるが、目の前の女に負けるよりはマシだろう。
その瞬間、何かに阻まれた。
攻撃へと移った直後である。
私の視界を防ぐように、例のフードで素顔を隠したプレイヤーがそこにいたのだ。
「フル・センチュリオン……」
光のエフェクトを放つ壁がそこにあった。
いや、ローブのプレイヤーから放たれた声に驚愕せざるを得なかった。
マスクでわずかに曇った声だが、私が間違えるはずがない。
「っ!!」
咄嗟の判断で私は飛び退く。
そして、フードのプレイヤーを追いかけるようにシロ達がこちらに向かってきた。
攻撃の意識を途切れせた事により、女を囲んでいた光の壁が溶けるように消え去る。
2対5の構図であるが、恐らくこちらが不利かもしれない。
「ヒナ、大丈夫?」
シロがこちらを心配してなのか話しかけてくる。
煩わしいが、そんな事をいちいち気にしている余裕も無かった。
「調子に乗らないで、貸しも何も要らないわ。
それより、いつまでそいつに苦戦しているの?
そっちが数で有利な状況なのに、いつまでもいつまでもガシガシやっておいてさ?
こちらの邪魔までしておいて、殺されたいの?」
「……、いつも通りみたいで何よりね。
あなたもずっと苦戦しているみたいだけど、同じ事を言えるの?」
「何、死にたいの?」
「今は協力しなさい、あれこれ言ってても仕方ないし。
それに、あなたも彼の正体に少し気づいたでしょう?」
シロがそう言い、私達は再び敵二人と向かい合う。
向こうは僅かにこちらへの警戒を強めていた。
こちらの言葉は聞こえ、何を意味しているのかを把握しているようにも伺えた。
「どうやら気付かれたみたいですね、どうします?」
「隠す理由もない、仕方ないとしか言えないだろう」
そう言って、マスクとフードで素顔を隠していた黒衣の人物はそれ等を外し素顔を露わにした。
「やっぱり、お前だったんだなケイ」
後ろに控えていたクロが黒衣の男にそう告げる。
私の前に現れ攻撃を阻んだ存在は、かつての仲間であったケイであったのだと。
彼の声を聞いた瞬間、既に私はそれに気付いていた。
●
目の前に立つ、二人の敵。
ダンジョン攻略の最前線を担う彼等を私達は敵に回していた。
彼等の目的はこちらの仲間であるミヤさんを奪う事。
細やかな理由は不明だが、彼女本人はとても嫌がっていた。依頼主が彼女の父親、そして彼女の護衛担当であったエルクさんが死亡した事。
様々な状況が一度に介し困惑している中で、状況は更に混乱していた。
敵である彼等のギルドの名前はゲイレルル。
そして彼等と共に行動していたのは、私達の仲間であり行方不明であったケイであったのだ。
戦いを通じ、薄々と可能性だけは憶測にあったがいざ目の前にした途端何をすればいいのかわからなくなっていた。
私達の目的。
ミヤさんの目的。
そしてケイ自身の目的。
様々な状況の変化に頭が上手く回らない。
とにかく現状をどう乗り越えるかに手一杯なのは確かだった。
「まさか、お前達が共に行動しているとは思わなかったよ。
こちらも同じ事かもしれないが」
そう言うと、彼の後ろに控えていた仲間の一人が彼に話し掛ける。
「無用な干渉は禁じております。
事が済むまで、無駄な会話は控えるように」
「そうか、なら仕方ない」
そう言うと、ケイは武器を構えてこちらへゆっくりと歩いて来る。
「改めて、全員まとめて相手になる。
リオはカイラの援護を頼む。
いつまでも主が苦戦しているのは問題だろう?」
「あなたに私へ命令する権限はありません。
ですが、ここはあなたに任せます」
そう言ってリオと呼ばれた彼女はリーダーの元へと向かった。
「シロ、これからあなたはどうするつもり?」
「説得は無駄でしょう。
それに、今回ばかりはあなたにも協力をお願いします。
彼が側に居ないのは、あなたも耐え難いでしょう?」
「そうね。
後ろのあなた達も今回は私の命令に従いなさいよ」
「クロぉ、ヒナちゃん口悪いよ。
メイちゃんなのに、なんか違和感がある……」
「俺に言うなよ。
まあ確かに違和感はあるが」
「とにかく今は目の前をどうにかしよう。
こっちもいつまでも戦える訳じゃないし、援軍の可能性があるからね」
ユウキがそう言うと、こちらも武器を構え相手と対峙する。
かつての仲間に武器を向ける。
相手は私達がずっと心配していたかつての仲間であるケイ。
幾度の裏切りを重ね続けた彼の行動は流石に容認し難いだろう。
私やフィル、そしてメイちゃん達のギルドが彼をどれだけ心配していたのか……。
早々に終わらせて問い詰めたい。
こちらにどれだけの心配を掛けたのか。
彼にそれを分からせなければならない。
「まずは一人ずつ片付けさせて貰う」
ケイがそう告げた瞬間、一瞬の赤い煌めきを放ち消え去った。
全員が一瞬戸惑う中、ユウキが何かに気付く。
「みんな、逃げろ!」
一瞬の閃光に貫かれたユウキは貫かれた。
彼の声に反応し全員が二人から距離を取る。
「全く……。
君のソレは流石にそれはおかしいんじゃないのかい?」
「気付かれるとは思わなかったよ」
ケイがユウキにそう告げた瞬間、ユウキの体は光に包まれ四散した。
「あと四人」
そう告げると、再び視界から彼の姿が消え去った。
あまりの速度で一瞬戸惑うが何かのスキルを使用してのものであるのは確かだろう。
スキルであるのなら、必ず弱点はある。
しかし彼の持っているスキルからこのような効果を持つ物に心当たりは何も無かった。
こんなスキルを持っていたのなら、アントからの襲撃時の時点で使っていたはずなのである。
私達と離れてからの一ヶ月程の期間で習得したと思われる新規スキルである事はほぼ確実だろう。
現段階のこのスキルの仮説は3つ。
体や気配を隠し移動している技。
あるいは、超高速で動き私達の視界から外れている。
もしくはそれ以外の何らかの技。
前者2つである可能性が8割。
それ以外が2割だろうか。
こちらが下手に動き撹乱されていれば彼の思うツボであるのは言うまでもない。
そもそも彼の得意とするのは、エルク譲りの奇襲や高速戦闘。
罠やだまし討ちの類いが私達の中で最も強かったのは言うまでもない。
彼の性格上、体や気配を隠している技の方が可能性が高い。こちらであった場合、彼の技の仕組みを把握すれば最悪、私とヒナで彼を倒せる可能性がある。
次に超高速での移動であった場合。
これは私にも出来る技、つまり純粋な速度と読み合いでの勝負になる。
経験上、最高速度であれば私の方が数段上だ。
しかし読み合いに関して彼の方が上。
こちらが早くとも均衡している程であれば、こちらの読み違いで倒される可能性が高い。
ヒナがその点で協力をしてくれればその可能性を低くする事が出来ると思うが……。
「シロさん、これからどうする?」
クロの声に気付き、私は一つの作戦を思い付く。
しかしこれにはあまり気が進まなかった。
「時間稼ぎ、クロさんならどれくらいできますか?」
「奴の手数にもよる、最低2、3分は稼げるはずだ」
「分かりました。
ドラゴさんと共に彼と戦い時間稼ぎをお願いします。
その間に私とヒナが彼の攻撃ロジックを暴き、対策方法を編み出します」
ここで二人を捨てる選択を私は選んだ。
彼に勝つ方法、考えうる中での最前策である。
「分かった。
あんたの命令に従うよ、ドラゴ背中は任せる」
「うん、シロちゃんにヒナちゃん。
一発アイツにかましてよね!」
二人は私達にそう告げて前線へと進む。
姿の見えぬ敵との駆け引きが行われようとしていく中、ヒナはこちらに話かけた。
「今回ばかりは手を貸してあげる。
必ず勝たせなさいよ」
「勿論です。
色々、聞きたい事が彼にはありますから」
●
ユウキが一撃で倒された事に俺は驚きを隠せない。
前線向けには無いにしろ、俺達の中での実力は上の部類だ。
アイツの攻撃の直前までに俺達全員が気付かなかったのに対してユウキだけは気付いていたのだ。
アイツのお陰で俺達は首の皮一枚で繋がっている。
以前、ケイと戦った時もアイツはユウキを最初に狙っていた。つまり長く生かしておくと一番厄介であるとアイツ自身はそう判断したのだろう。
わざわざこちらが前に出たのだ、恐らくこちらを必ず狙う。
向こう側にはシロさんとヒナがいる。
二人を直接相手にしなければならない状況の中、少しでも有利に戦う為にタンク役である俺かドラゴを狙うのは読める。
体力、防御力の低いドラゴか?
あるいは一番この状況で戦力外だと思われる俺を狙うのか?
少なくとも狙いはこちら二人に向く。
それだけ分かれば何とかなるかもしれない。
ふと、背中に何かの感触を感じた。
こちらと背中合わせでドラゴがそこに立っていた。
「ドラゴ、お前少し近すぎやしないか?」
「別にいいでしょ、これじゃないと後ろ取られるし。
それに、その……、クロが近くに居れば私は絶対に負けないから。
クロ、私を護ってよね?」
「分かったよ、今度は必ず護ってやる。
だから、お前はアイツに一発かましてやれ」
「うん!!」
気配が無い。
しかし、敵意は辺りからひしひしと伝わってくる。
確率は二分の一、チャンスは多くて3回。
その間にアイツを倒すか、シロさん達がアイツのタネを見破らなければならない。
何かの気配が僅かに頬に突き刺さったような感覚が訪れる。
瞬間、自分の構えた盾とケイの攻撃が正面から衝突した。
凄まじい衝撃で俺の体が僅かによろめくが、ケイの硬直を見計らいケイへの攻撃をドラゴは仕掛ける。
数秒にも満たないやり取り、一回ミスを犯せばこちらは即死の状況に緊張感が溢れ続ける。
「クソっ!」
奴の一撃は異様に重かった。
以前まの奴の一撃とは比べものにならない程の威力、ドラゴの攻撃と大差ない程なのだ。
あんなものを、連続で叩き込まれるのは流石に身が保たないのは明白だろう。
「これならどうだ!!」
ドラゴの攻撃を正面からケイは防ぐ。
流石の奴も両手を使いどうにか防ぐが、それでも体力ゲージは徐々に削れていく。
しかし、瞬間奴の姿がドラゴの目の前から空気に溶け込むように消え去る。
力が抜け僅かによろめいたドラゴの後ろにケイの姿が露わになっていく。
すぐさま見逃さず、俺は奴の元へと走り込む。
俺の攻撃が奴の武器を捉えて弾く。
その衝撃でドラゴは気付きすぐさまケイから距離を取る。
「そう何度も同じ手に陥るかよ!」
「以前よりはマシになったようだな」
「お前に追い付く為に、俺達はここまで来たんだ」
「そうか」
そう呟き姿が再び消える。
俺がケイなら、アイツなら何処から攻める。
相手は重装甲、生半可な攻撃はしない。
確実に潰す為に、死角を狙う。
一撃目を防がれるのは想定内。
つまり一度目は恐らくハッタリを仕掛けるだろう。
そして、次の攻撃で確実に仕留めに来る。
アイツなら確実にそうするだろうと。
最初の一撃は感覚的に読めた。
自分の背後に向かった刺突攻撃。
振り返りざまに盾を構え攻撃を防ぐ、凄まじい衝撃で自分の態勢が僅かにブレるが次の行動に移せる余力は十分にあった。
そして、予想通りの2回目の攻撃。
先程よりも遥かに威力を増した攻撃が俺に向かう。
盾で受けて、受け切れる可能性は五分五分だろうか。
ならば、
「フル・センチュリオン!!」
スキルの名を唱え、耐久力を上げる。
効果時間の間なら、こちらへのダメージを大幅に軽減出来る。
もって5秒の間であるが、この緊迫とした状況下での5秒は大きな効果を出せる。
2回目の衝撃が響き渡る。
勿論、俺のスキルによりアイツの攻撃は阻まれた。
アイツの態勢が僅かにブレて、軸が大きく揺らいだ。
一瞬の隙を見計らい、俺の背後から入れ替えざまにドラゴは一気に攻撃へ向かった。
直撃を避ける為に、ケイは武器を辛うじて構え直しドラゴの攻撃をいなして見せた。
流石の技量、圧倒的に冷静な判断に驚かされるがそれでも構わない。
次の攻撃の準備は既に終えていたのだから。
「センチュリオン・バースト!!」
自身の手に構えた大振りの槍が光輝く。
アイツがドラゴに意識を向けた間に俺は自身の攻撃の準備を終えていた。
アイツと別れてから2ヶ月近くもの間に俺が死にものぐるいでようやく習得したスキルだ。
このスキルの効果は自身の体力や防御力、耐久バフの数に応じて威力が大幅に上がる代物。
体力の半分、及び耐久バフ効果の消費、更には防御力の大幅低下のデメリットを併せ持つが使う状況は今しか無い。
「一発食らって反省しろ、ケイ!!」
スキルを放った瞬間、凄まじい衝撃波がケイへと向かう。近くにいたドラゴも巻き沿いにしたかもしれないと思ったがアイツには確実に命中したはずだろう。
「はぁはぁ……」
攻撃を終え一気に力がぬける。
長く続いた戦闘故に集中力が途切れそうになっていた。
時間稼ぎだけでキツイと思っていたが、ここまでやって来れたのだ。
あとは、ミヤさん達の方を……。
「流石だよクロ。
でも、まだ足りない」
そう思っていた瞬間だった。
背後から俺は声を捉える。
それを知覚した刹那、何かに背後からの衝撃が胸を貫いた。
何が起こったのか、自分の理解が追いつかない。
これまでの蓄積された疲労が重なり、意識が薄い中で俺の視界の隅には倒したはずのケイの姿がそこにあった。
「なんで、お前がそこに……?」
「俺は負けられないんだよ。
だからお前達はここで止める」
アイツのその声を聞いたのが最後だった。
俺の意識は闇に落ち溶けるように消え去った。
自分の甘さと弱さに俺は最後まで憤りを感じていた。
●
「残り3人か……」
目の前の彼はそう言うと私と対峙し話かける。
「随分とお前等は強くなったんだな。
正直予想以上だったよ」
「なんで。
なんでケイは、こんな事をするの?」
私がそう尋ねると、彼はすぐに答える。
「お前達にも目的があるように、俺にも目的があるだけだ。
目的の為に、俺は手段を問わない。
ミヤをこちらに引き渡す事が向こうとの交渉を果たす上で必要な条件だった。
自分の目的を果たす過程で彼女は必要だっただけだ」
「ミヤちゃんはあなたの目的の道具じゃない!」
「だろうな。
だが、それでも俺はやらなければならない」
「ここであなたを止める!!」
既に満身創痍だろうと、私は構わず彼に向かって進む。
一撃の攻撃は躱され、2回目の攻撃は軽くいなされる。
「っ!!」
「感情任せでは、俺に勝てないよドラゴ」
「そんな事、やって見ないとわからないよ!!」
彼の言葉に構わず、私は攻撃を続けるが私一人では大差無いのだろう。
軽々と手のひらで遊ばれるように、私の攻撃は全く意味を成さなかった。
「っ!!」
一際大きな金属音が鳴り響く。
目の前の男は余裕の様子。
いつでもこちらを倒せるというものだろう。
「私はみんなで一緒に進みたいの!!
綺麗事でもクロやユウキがメイちゃんが!!
私に出来るって言ってくれた!!
だからあなたも手伝ってよ!、ケイ!!」
瞬間、何かの影が視界に入り込む。
私の目の前に立つ二人の影。
彼等から放たれた攻撃により、ケイは後ろに飛び退き次の攻撃に警戒していた。
「私達もここにいますよ、ドラゴさん」
「私を忘れるないでよ、あの弱虫が戦うなら私も戦う事になる訳だし。
それに、随分よくやったわ褒めてあげる。
彼への打開策がどうにか生まれたもの」
私の目の前に立っていたのは、控えていたシロとヒナであった。
二人が来たこと、つまり彼に勝てる方法を見出したということだ。
二人が言うんだ、きっと勝てる。
「ドラゴさん、まだ戦えますか?」
「うん、私は大丈夫だよ。
まだ戦えるから」
「では私達の協力をお願いします。
行きますよ二人共。
私達で彼に必ず勝って見せますから!!」
シロの一声を合図に私達の戦いが再開された。