第20話 ナカタとの……勝負??


「お前達を呼んだのは他でもない、今後の我がダイワ国の事について話をしたかったからだ。面を上げるが良い」

「今後の話ですカ、それはもう決まっていたのではないでしょうカ!」

「ナカタ殿よ、それはコバヤシの話を聞いてから決める事だ、少し黙っているがよい」


 オイオイ、王様はオレに一体何の話があるっていうんだよ?

 このナカタってやつも関係ある話なのか。


「そもそもあの橋の架設工事、こんなヤツにやらせる必要は無かったのでハ! 必要も無い可動橋まで取り付けてメンテナンスの方が大変だろう二」

「あの可動橋のメンテナンスなんて大したことありませんよ、もし痛んだら船用の錨の鎖で代用可能なので鎖が老朽化したらそれと取り換えればいいですから。それに可動部分は人の手で引けるレバーを使ってますから可動に多数の作業員も必要ありません」

「だがあの橋が使えない時はこの王宮にどうやって入れト? 緊急の場合も有るだろうガ! ここは僕が決めた旋回橋を設置する予定だったはズ! その為の準備ももう進めていたというの二!」


 あー、なるほど。コイツはオレがゴーレムで工事を行った可動橋を作った事で、本来手に入るはずだった金が手に入らなくなったので憤慨しているというワケか。

 しかしこの技術も資源も乏しいはずの異世界で旋回橋なんて、そんなもんどうやって作るつもりだったんだ??


「だがあの計画では、常に誰かが常駐してあの橋を回転させる必要性と、それに莫大な工事予算と資材がかかるはずだったではないか。それに奴隷まで導入しろとは……。コバヤシはそれを資材も予算も、更に奴隷すら使わずに完成させたのだ」

「それと契約を反故にする事とは関係ありませン! 今回の工事の反故はしっかりと慰謝料を払ってもらいましょウ!」


 あー、コイツ、金を必要としない奴隷をこき使う事で大規模な工事をやらせようとしていたんだな。

 それをオレが邪魔したので目論見が外れたってわけか。


 それにしてもコイツ、やたらと高圧的な態度だな。


「そ、それは困る……、ナカタ殿、確かにそなたの持つ土を押しつぶす鉄の魔獣や土を喰らう首長のドラゴン、あの力は素晴らしい。あれのおかげで本来の予定の数倍の速さで計画は進んでおるからな」

「フン、僕を蔑ろにしたらあの技術、いつ他の国に持って行っても良いんですヨ!」


 このナカタってヤツ、話からするにこの異世界で何らかの方法でスキルを使ってパワーショベルやブルドーザーを使った工事をしているワケだな。

 どう聞いても土を押しつぶす魔獣はブルドーザー、土を食べる首長のドラゴンはパワーショベルを意味しているとしか思えない。


 もしそれが本当にオレの予測通りなら確かに他国にその技術を持っていかれるのは王様的にもかなり不利になる。


 それでいながらこのナカタってのがオレの知っている前世のいけ好かないヤツだったら人を人とも思わないブラック企業丸出しな労働環境を作り出すのも納得だ。


 こんなヤツがこの世界で台頭すれば間違いなくコイツの作るブラック企業によって世界がメチャクチャにされてしまう。

 オレがナカタを睨みつけると、彼はオレを睨み返してきた。


「フン、お前も異世界転生者ってわけだな。そのゴーレムのおかげでさぞいい思いが出来たみたいだが、今後はそうはいかないからナ! 僕の邪魔になるなら踏み潰してやル!」

「ふざけるな、人を人とも思わないブラック企業のクソ社長がっ! どうせお前なんて父親の財力と権力を継いだだけのボンボンだろうが!!」

「弱い犬ほどよく咆えるとは言ったもんダ。良いだろう、それじゃあ勝負してやろう。お前が負けたらお前は僕の会社で一生社畜としてこき使ってやる。転生しても同じ運命ってのが所詮負け犬には相応しい生き方だからナ!」


 売り言葉に買い言葉、こんな相手に負けてたまるか! こちらにはゴーレムマスターのスキルがあるんだ。


「ふむ、二人共何があったかは知らんが、そこまで勝負したいというなら余が見届けてやろう。そうだな、お前達には一年後までにやってほしい工事がある」

「一年後、ですか??」

「そうだ、実は我が国は飛来する魔族に対抗する為、飛行艇と飛竜部隊の空軍部隊を設立しようと考えておる、その空軍の基地をお前達のどちらかに作らせようと思うのだ。そこで、お前たち二人にはこれから一年間、この国の工事を任せたいのだ。その売り上げの大きかった方に空軍基地敷設を任せよう」


 つまり、国王お墨付きで工事の資格を与えるから多く売り上げを出した方が一年後の空軍基地建設を請け負う事になるってわけか。


「いいでしょウ、その勝負、僕は問題ありませン」

「オレもだ、コイツより多く売り上げれば良いんだろう」


 絶対に負けるわけにはいかない。

 こんなヤツ野放しにしたらこの世界がメチャクチャにされてしまう。

 どうせコイツは環境なんて何も考えずに自然破壊しながら建物を建てる元来のクソ経営者に違いない。


 よし、こうなったらあのゴーレムフル稼働でアイツよりも立派な工事を受注してどんどん売り上げを増やしてやる。


「そうと決まれバ、こんな場所にいるわけにはいきませン、ビジネスマンは時間が大事ですからネ!」


 オイオイ、ここで工事とか何とか言わずにビジネスマンかよ、典型的な下を見ない経営者目線そのものだな。

 ナカタは国王に礼もせずその場を離れた。


 あー、イヤな奴がいなくなってせいせいした。


 さて、しかし今後の事を考えなくては。

 どうにかしてアイツよりも一年後に大きく儲けないといけないわけだからな。


「コバヤシ、私も協力するのである。コバヤシはこの国の恩人だ。あの貴族達がもめていた迎賓橋の問題をたった一人で解決してくれた、だから私は私の持てる力でコバヤシに協力するのである」


 これは助かった、どうやらフォルンマイヤーさんは貴族や皇族相手に工事の受注を受け付けてくれるようだ。

 それならこちらからわざわざ工事の営業をかける必要は無さそうだ。


 さて、そうと決まれば今後半年はゴーレムを使った工事でガンガン儲けるぞ!

 王都での落成式が終わったらすぐに町に戻らないと。


 本当ならすぐにでも町に戻りたいところだったが、落成式のメインとしてオレがいないと話にならない。

 だからオレはこの落成式に参加する事になった。


 各国王侯貴族と国内の諸侯が呼ばれ、落成式が執り行われた。

 これだけ多くの来賓を呼ぶとすれば確かに二週間は必要だな……。


 国王によって執り行われた迎賓橋の落成式は豪華なものだった。

 オレ達はその観衆の中で実際に橋を上げ下げし、この橋が可動橋である事を周囲に知らしめた。


 初めて見る可動式の開閉橋を見た群衆は大きく驚いていたが、落成式は無事に大盛況の中で終了した、


 オレとモッカは数日後の落成式が終わるとすぐに王都からシャウッドの森を抜け、元の町に戻った。


 さあ、一級大工免許も手に入ったし、町に戻ってきたからには本格的に建設会社の立ち上げだ!

 町に戻ると早速オレ達はイツマの棟梁や冒険者ギルドの人達に大歓迎された。

 どうやら王都の橋を作った話はこの二週間の間にこの町まで噂が流れていたようだ。


 気が付けばオレ達は町の誰もが知るような有名人になっていた。


 コレだけの知名度があれば建設会社立ち上げても十分やっていけそうかな。


 よし、本格的に新会社の立ち上げだ!


 しかし……会社名いったい何にしよう……。


 オレの中で新たな問題が生まれた瞬間だった。