第9話 オレ達が……罪人??

 困ったもんだ、オレが途方に暮れていると、モッカが尻尾を立てて低い唸り声を上げ始めた。


「ガルルルルル……モッカ、いまものすごくきげんがわるいっ。おまえたち、ギタギタにするっ!!」


 そういえば、モッカは獣人族の長の娘だったな、ひょっとしてこの娘、ものすごく強いのか??


 モッカが唸っていると、盗賊が鞭を振るってきた。


「へっ、動物は鞭の音や動きを本能的に恐れるんだよ。その獣人の娘、捕まえて奴隷として売り飛ばしてやるぜ」


 ヒュンッ!!

 盗賊の振るう鞭のしなる音が響き、モッカを捕らえようとした。


 だが、鞭はモッカを捕らえる事は出来なかった。

 音が鳴るよりも早く、モッカは盗賊の鼻っ柱に爪を立てて引っ搔いていたのだ。


「ウガッァアアッ!!」

「ひっ、な、何だよこのガキ!? 獣人のくせに生意気だぞ」

「モッカ、もりのおさのむすめっ。おまえたちなんててきではないっ」

「ふざけるな、ケモノふぜいが、食らえ、ファイヤーボール」


 まずい、動物は火を恐れる習性がある。

 もしモッカが動物の習性をもっているとしたらこれは一気に形勢不利になってしまう。


「こんなものっ」

「な、なんだと? ファイヤーボールを打ち返しただって!?」

「モッカ、もりのなかま、まもるぎむあるっ。こんなていど、こわくないっ」


 流石に鞭も火の魔法もモッカには効果が無い事に気が付いた盗賊は、オレに狙いを変えてきた。

 って、オレかよ!!


「あの獣人のガキが強くても、この腰抜けの野郎を人質に取ればアイツを黙らせる事も出来るだろうよ、おい、弓はまだか」


 よりによって弓って、当たり所悪きゃ死んでしまうぞ。

 だが盗賊達は躊躇する事も無くオレに矢を撃ってきた。


「死ねよ、矢ぁ」

「矢はやだぁああっ!!」


 オレは命の恐怖から訳の分からない事を叫んでしまった。

 だが、その大声がゴーレムに届いたのだろう


 キィィンッッ!


「な、何だよ、そのデッカイヤツは!?」


 助かった。盗賊の撃った矢はゴーレムの太い腕に弾かれたようだ。

 どうやらオレの叫び声は遠回りをしていたゴーレムの耳に入り、場所がわかったらしい。

 ゴーレムは嫌々をするように腕を振るった。


 だが流石はA級モンスターというべきか。

 ただの嫌々でも腕をジタバタと上下に振るうだけで盗賊が弾き飛ばされた。

 あまりの騒動にどんどん野次馬が増えてくる。


 そしてオレ達は自警団に囲まれてしまった。

 どうやら逃げたはずの盗賊がある事無い事をオレ達のせいにしつつ、悪者に仕立てようとしているようだ。


「お、おれたちがそこを通りかかっただけなのにそこの狂暴な獣人とゴーレムが襲って来たんです」


 コイツら、どの面下げてそんな事を言いやがる!

 だが、余所者の王都に到着したばかりのオレ達とこの王都の住人、自警団がどちらを信用するのか。


 自警団は結局余所者のオレ達を悪者と見たようだ。

 どうやらあの王宮の門番がオレの事を悪く言っていたのが自警団にも伝わっていたらしい。


 アイツ、そこまでしてオレ達を貶めたいのか?

 何だか胡散臭さを感じるが、所詮オレ達は王都に来たばかりの余所者。

 信用の無いオレとモッカ、そしてゴーレムは自警団に囲まれてしまったらしい。


 あの盗賊達はこのどさくさに紛れて逃げたようだ、アイツら……マジで許さん。

 今度見かけたら絶対に吹っ飛ばしてやる!


 結局オレ達は王都の自警団と戦う羽目になってしまった。

 モッカは獣人の力で次々と鎧を着た兵士達を爪で切り裂き、牙で噛みついて倒している。

 流石は獣人族の長の娘というべきか、その強さは並の物では無かった。


 だがそんなオレ達の前に馬に乗った騎士が現れると、戦況は一気に逆転した。


「おお、騎士団長が到着された」

「お前達、一体これはどういう騒ぎだ」

「それが団長、ものすごく強い獣人とゴーレム使いの男が暴れていて街に被害が出ているのです」

「なんだと!? それは本当であるか」


 騎士団長と呼ばれた人物は自警団の中を突っ切って馬を走らせ、モッカと向かい合った。


「私にはこの王都を守る義務があるのである!」

「ウガァァァアッ!!」


 暴走モードのモッカと向かい合った騎士団長、彼はすれ違いざまにモッカの爪を弾き、その足を槍で弾いた。


「我が名はファンタージェン・フォルンマイヤー! 我が祖父マタザより受け継いだこの由緒正しき槍、躱す事は出来ないのである!」


 だがモッカの一撃は騎士の兜に鋭い一撃を加え、その兜を弾き飛ばした。

 すると、なんとその騎士団長は……以前郊外の町で会ったフォルンマイヤーさんだった。


「フォ……フォルンマイヤー……さん??」

「その声、コバヤシか? 何故お前がこんな所にいる? 王宮には行かなかったのか」

「それが……」


 オレがフォルンマイヤーさんと話をしようとすると、兵士の隊長らしい人物が割り込んできた。


「団長、コイツは獣人と組んでゴーレムで街を滅茶苦茶に破壊した罪人です、どうか逮捕の許可を」

「コバヤシ、それは本当か? 何故そのような暴挙を……」


 このややこしい話の流れをどう説明したら分かってもらえるんだよ。

 モッカは完全にキレて暴走モードだし、オレはゴーレムで街を破壊した罪人扱い……。


「コバヤシよ、悪く思うな。私はこの王都の治安を守らねばならない。皆の者、この者達を捕らえよ!」


 フォルンマイヤーさんの命令でオレとモッカは捕まってしまい、牢屋に連行された。

 モッカは何かの眠り薬で眠らされた後にグルグル巻きにされて捕まってしまった。


 そしてゴーレムはオレが命令した事で城の堀に飛び込み、姿を消した。

 あのゴーレムは土で出来ているのかどうかよくわからないが、水で溶けるような奴ではないらしい。


 オレとモッカは王城に入る事が出来た……が、誰も牢屋に入りたいとは言っていないんだけどな。

 フォルンマイヤーさんは街の被害の確認に出かけたらしい。

 オレ達は自警団の兵士達に根掘り葉掘り質問攻めにされた。


 最初から疑ってるくせに何をオレから聞き出そうとしてるんだよ、悪いのはあの盗賊連中だろうに。


 牢屋に閉じ込められたオレはどうにかしてこの牢屋から出る事を考えた。

 そういえば堀に沈んだゴーレム、アレがどうにかここまで穴を開けてくれたら外に脱出も出来るはずだ。


「おーい、ゴーレム。聞こえるか、おーい、ゴーレム、急いで来い」


 オレはゴーレムに命令を出した。

 すると、牢屋の上の方からミシミシと音が聞こえる。

 どうやらこの牢屋は大昔には水牢の役割も果たしていたらしく、ゴーレムはその水牢の錆びついた扉を壊し、オレ達のいる牢屋の上から姿を見せた。


「助かった、ゴーレム。オレ達をここから出してくれ」

「グゴゴゴ……」


 ゴーレムは目を一瞬光らせ、オレとモッカを握り持ち上げた。


「んーっ。もうおなかいっぱい。でももっとたべたいっ」


 モッカはいったいどんな夢を見ていたのだろうか。

 ゴーレムは寝ぼけたモッカとオレを握り、堀の中から這い上がってオレ達を牢屋から脱出させてくれた。


「脱走だー、総員、配置に着け!!」


 完全にやっちまったな、これでオレ達は完全にお尋ね者だよな。

 それもこれもあの盗賊達のせいなんけどな、あー完全に腹が立ってきた。

 挙句の果てにはどうにか王都から逃げようと思ったらその橋の所に自警団のお出迎え。

 その真ん中にいるのは、馬に乗り、槍を構えたフォルンマイヤーさんだった。


「コバヤシ、無駄な抵抗は止めるのである。私はお前達を傷つけたくはないのである」


 そんな事言ってもここで立ち止まったらまた牢屋に逆戻りだ。

 こうなったらここは強行突破するしかない!!