20.まさかの繋がりです。


 「たかむらさま!」



 とにかく、男性を連れて篁の元へ走る。



 何かの間違いだろうと思っていたのに、篁はさして表情を変えずに羽扇を掲げた。



 「待ってください! 何かの間違いじゃないんですか!?」



 「忘れたのか? 透けておらんだろう」



 私が慌てて男性と篁の間に体を割り込ませると、篁はにべもなく言った。



 「だからってそんな義務的な! こんなに若い人ですよ? 間違いでしょう!?」



 「あんた、さっきから何ワケ分かんねえこと言ってんだ? 誰だよ、コイツ」



 金髪の男性は、気味悪そうに私と篁を見比べる。



 「アコ」



 男性がハッとしたように呟いた。



 「そうだ! アコは? 一緒にいたはずなんだ。車で展望台に向かっ……」



 男性は言葉を切って青くなり、篁に掴みかかる。



 「なあ! 俺どうなっちまったんだよ!? アコは!?」



 篁は黙って男性の手を引き剥がすと、再び羽扇を掲げた。



 「帰るが良い」って言うんだよね? おかしいよ。こんなに若い人が冥界に来るなんて……。でも、この人は透けてない。



 イヤだ。こんなに生命力に溢れてる人に死後の説明を──?



 「ま、待ってください!」



 気づいたら身体が動いていた。

 袖を引かれた篁の顔が険しくなる。



 「何か確かめる方法はないんですか? この人だって納得できませんよ。間違いの可能性だってあるでしょ」



 私がまくし立てると、篁は眉間を押さえてため息をついた。



 「ならば俗世をあらためてまいれ」 



 羽扇が私の鞄に向いている。



 指図されなくたって行ってやるわよ。こんな時すら義務的な篁の対応は、絶対におかしい!



 「大丈夫ですからね」



 不安げな男性を元気づけると、私は鞄に飛び込んだ。



 「阿呆が」



 舌打ち混じりの篁の声が、微かに聞こえた──。






 「痛ったぁ……」



 頭を押さえつつ起き上がる。この痛覚が、今いる場所が俗世であるということを明確に物語っていた。



 「何よ、ここ! めっちゃ山ん中じゃない!」



 ビジネススーツにパンプスだっていうのに。身体についた小枝や落ち葉を払いつつ、大切な鞄を拾い上げる。



 前方に黒煙が見えた。



 「!!」



 進んでみると、黒のSUVが横転して黒煙を吐いている。上を見上げると、ガードレールが突き破られていた。



 事故だ。



 カーブを曲がりきれなかったのか。



 「嘘……」



 寂しい山道。

 通りかかる車はない。



 「大丈夫ですか!?」



 駆け寄って叫ぶ。



 横向きになったフロントガラス越しに、あの金髪の男の人が見えた。頭から血を流し、ぐったりとして動かない。



 隣で誰かが身じろぎした。



 「あッ!」



 栗色の髪、ポニーテール。白いワンピース。



 さっき冥界に来た女の人──!!



 「シュンちゃん!? イヤ! しっかりして!!」



 隣の男の人に必死で呼びかけてる。



 事故のせいで気を失ってたんだ。篁に「帰れ」と言われて、意識が戻ったのだろう。



 女の人は、冥界に来た時「シュンちゃん、どこ?」と言っていた。ってことは、この金髪の男性が“シュンちゃん”……。



 この二人、繋がってたんだ。




 「大丈夫ですか!? 今、救急車を──!」




 必死で呼びかける。

 何としても助けなきゃ。



 この女の人……アコさんのためにも。