8・VSクイーン

 直進で突っ込んでくるミノタウロスに、ヒトリとカラは左右に分かれて回避をする。

 一定距離を進んだミノタウロスは両腕を地面に突き刺し、無理やり停止する。

 と同時にヒトリとカラが、核のあるドラゴンの胴体に向かって飛び込んだ。


「はあっ!」

「っ!」


 ヒトリがナイフで縦に切り裂き、その箇所をカラが両手でこじ開けた。

 そこにはキメラドラゴンの青白く光る核がある……はずだった。


「――なっ!?」


 ヒトリはドラゴンの胴体の中身を見て、驚きの声をあげてしまう。

 胴体の中には肉は無く、太めの白い触手の様なモノがみっちりと埋め尽くされていたからだ。

 驚いている様子を見たクイーンは、馬鹿にしたようにドラゴンの背中の上で笑う。


「キャッハハハ! そんな気持ち悪いところに、手を突っ込める勇気はあるかしら~?」


 ヒトリが顔を上げると、クイーンの状態にさらに驚いてしまう。

 ドラゴンの背中から数多くの触手が生え、束になってクイーンの両手両足に絡みついていたからだ。


「気持ち悪い? カラは全く問題ありません」


 カラは顔色かえず、触手の中に右手を突っ込んだ。


「あらあら~そんな事しちゃ危険だぞ~……キャハッ!」


 クイーンが両手に魔力を込めると、触手がその魔力を吸収し始める。

 それと同時にミノタウロスの体がどんどんと肥大し始めた。


『グモオオオオオオオオオ!』


「まずいっ!」


 危機を感じたヒトリは、カラの右手を掴み触手の中から引っ張り出す。

 直後、手を入れていた部分の触手が大きく肥大した。

 手を抜かなければ、カラの右手は触手に押しつぶされ粉々に粉砕されていただろう。


「あ、危なかった……」


「カラの手は、破壊されても付け替えればいいので問題なかったですが……」


「あっ……そ、そうですけど……そういう問題じゃ――」


 ミノタウロスは2人に向かって、勢いよく右拳を振り下ろしてきた。


「っ!」


 ヒトリとカラは後ろにジャンプをして右拳を避け、着地と同時にクイーンめがけて襲い掛かった。


「わらわを狙っている場合かな~?」


 クイーンは不敵な笑みを浮かべた瞬間、ヒトリとカラの右足首が何かに捕まれた。


「――なっ!?」


「――!」


 足首を見ると、それは両腕が伸びたミノタウロスの手だった。

 クイーンに絡みついている触手と同じ様に、束になって手と腕を繋いでいる。


「吹っ飛びなあああああ~!!」


 ミノタウロスは両腕をロープの様にブンブン回し、城門に向かってヒトリとカラを勢いよく投げつけた。

 一瞬にして2人は城門に激突してしまうが、ヒトリは直前に体を捻り、城門に着地するような形をとって衝撃を最小限に食い止めた。

 一方カラは、何もできずそのまま大の字になって城門にめり込んでしまった。


「つ~~~! 両足が痺れる……! あっ……大丈夫ですか? カラさん!」


「はい、何も問題ありません」


 涙声のヒトリに対して、カラは淡々と答えた。

 カラはめり込んだ体をぐいぐいと動かし、城門から抜け出す。

 見守っていたヒトリも地面に飛び降りて着地する。


「ええ……あの状況で動けるの……? やっぱりあの人は色々とおかしいって……」


 激突の様子を見ていたメレディスは、呆れた様子で2人の傍に駆け寄る。


「「本当に……」」


 ユウとシュウも同じ様に呆れつつ、その後を追う。


「一応聞いておきますけど、お2人とも怪我は?」


 メレディスが声をかけると、ヒトリは俯きながら答えた。


「あっ……ボ、ボクは大丈――っ!!」


 俯いていたヒトリが、突然背後を振り向いて城を睨みつけた。


「えっ? あ、あの……ヒトリさん? どうかしましたか?」


 メレディスが戸惑いながらヒトリに問いかけた。


「……いる……」


「…………はい?」


「城の中に……キングがいる……」


「キング? それはそうです、国王様が城の中にいるのは当たり前の事で……」


「っ!」


 ヒトリが城壁に向かって駆け出し、そのまま壁を駆け上っていく。


「えっ! あっ! ちょっと待って下さい!」


 ヒトリはメレディスの制止も聞かず、のぞき窓から城の中へと入ってしまった。


「ええ……あれは……一体どういう事……ですか?」


 メレディスが不思議そうにユウとシュウを見てしまう。

 双子も困った様子の顔を見せる。


「えと……わ、わかんないです……」


「ん~……もしかして……逃げた……?」


 3人はヒトリの入って行った、のぞき窓を茫然と見つめていた。


「カラも、この場から逃げた方がいいと思います」


「「「えっ?」」」


 カラの言葉に3人が正面を向いた。

 目の前には、頭の角を前に出し、全速力で突っ込んでくるミノタウロスの姿があった。


『ブモオオオオオオオオオオオオオ!!』


 その姿に3人が慌てふためく。


「ちょっ! う、嘘でしょ!? このままだと潰されちゃう!」


「シュウ! 早くシールドを――」


「もう間に合いません! 痛みがあると思いますが我慢してください!」


 カラはメレディスの背中を思いっきり蹴飛ばした。


「ギャンッ!」


 メレディスは蹴られた勢いで真横に吹っ飛ぶ。

 次に、ユウとシュウの後ろの襟を掴み。


「「ぐえっ!」」


 その場で真上に大ジャンプをした。


『ブモオオオオオオオオオオオオオ!!』


 勢いが止まらないミノタウロスは城門に激突する。

 凄まじい衝撃と破壊音が辺りに響き渡り、城門は粉々に破壊されてしまう。

 そして、ミノタウロスは止まらずにそのまま城の中へと入っていた。


「――っまずい!」


 メレディスは即立ち上がり、ミノタウロスの後を追いかけた。

 着地したカラも白目をむいているユウ、シュウを持ちながら、メレディスの後を追いかける。


 少しの静寂の後、【影】の1人が大声を上げた。


「城門が壊れたぞ! 我々もつっこめええええええ!!」


 動ける【影】とキメラドラゴンが、城門に向かって一斉になだれ込んでいく。


「っ! これ以上は行かせん!!」


 第17分隊長のシパルが壊れた城門の前に立ちはだかり、一番前にいた【影】を斬り捨てる。


「皆! ここが正念場だ! 根性を見せろおおおおおおお!!」


 シパルの行動に動ける第17分隊と第20分隊、そして兵士たちが続いた。


 ガガーは鎧の隙間に手を入れ、中に着ていた服を引き千切る。

 そしてその布を負傷した太ももを強く結び、ヨロヨロと立ち上がる。


「ふう……ふう……メレディス! そっちは頼んだぞ! うおおおおおおおおおおおお!」


 ガガーは足を引きずりながらも、城門の攻防に向かって力強く踏み込んでいった。