「いよいよ明日なんですね」
⋯ん⋯
⋯ここは
⋯なんだここ?
"研究室?"
そこに俺はなぜか立っていた。
体を動かそうとすると、全く動かない。
今、俺はどうなってる!?
「あのー、所長」
"所長"?
え、俺!?
なんで"所長"って呼ばれてるんだ?
そんな呼ばれ方なんてされた事無いぞ?
「私が行かないでって言ったら⋯"ここ"にいてくれますか⋯?」
さっきから話しかけてくる"この人"は誰だ?
ユキに少し似ているかも。
眼鏡を頭にかけ、ラフな格好をしている。
行かないでってなんだ?
意味が分からない。
それより、俺って生きてるんだよな!?
ついさっきまで、確かに紀野大臣と戦っていた。
その感覚は今でも脳に焼き付いている。
でも、"この体"はなんだ?
まるで"他人視点を見ている"ようなこれは。
ってか、目の前のこの"ヤバそうな機械"はなんだ?
「(⋯うッ!?)」
突如、辺りが強烈な光に包まれた。
徐々に光は消えていき、少しずつ目が開けられる。
そこは、"どこかの墓場?"だった。
打って変わって静寂が漂う。
"俺?"が勝手に線香を置き、視線を上げた先には"名前"があった。
そこには⋯
【 新 崎 ユ キ 】
⋯は?
「また来てたんですね、こんな夜中に」
「⋯」
「どうしても、"あの場所"に戻るんですよね」
「⋯」
「いくら止めても、行くんですよね」
「⋯」
「だったら私、決めましたッ! 私も一緒に行きますッ!」
「⋯」
「どうしてダメなんですか!? 私が邪魔だからですか!?」
「⋯」
「ならどうして!?」
「⋯」
「⋯所長⋯」
「⋯」
「分かりました。なら、一つだけ約束してくださいね」
「⋯」
「必ずまた一緒に研究すること! それまでは私が代わりに、お墓参りしておきますね」
そう言うと、彼女が"他の墓"に線香を置き始めた。
【 町 田 ヒ ナ 】
【 有 川 シ ン ヤ 】
【 白 石 ア ス タ 】
【 三 船 ノ ノ 】
この"墓"はなんなんだ⋯?
分からない。
何も分からない。
「(うッ!! またッ!!)」
考えていると、また辺りが強烈な光に包まれた。
その先はさっきの"研究室?"へと移動していた。
"俺?"は勝手に歩き始め、"ヤバそうな機械"へと近付く。
「それでは、準備はいいですか」
"ヤバそうな機械"が突然動き始めた。
あらゆる部分が高速回転し、中心と思われる部分に集約されていく。
どうやら数十人規模で動かしているらしい。
『こちらからお乗りください』というアナウンスが急に響くと、不思議な形をしたドアが開きだした。
『この後悔旅行は〈2030年9月27日20時36分〉へ設定されました。只今の成功確率は0.000014%となります。非常に危険なため、今すぐ停止する事を推奨します』
⋯おい、こいつ!?
アナウンスは停止しろって言ってるだろ!?
"俺?"は"ヤバそうな機械"へと躊躇なく歩き始めた。
さっきから止めようとしても、何も言う事を聞かない。
勝手に動くなよ、止まれってッ!!
次第に機械の内部が見え始め、中では【Extreme Danger】という文字が凶悪な色で光り続けている。
止まれよッ!!
止まれよってッ!!
くそッ!!
結局どうにもできず、この中に入ってしまった。
"俺?"は胸ポケットから1枚の何かを取り出すと、それは"俺とユキ"が笑顔で映っている写真だった。
あれは小学校卒業の時に撮った写真⋯!
やっぱり今の身体は俺なんだよな!?
その下に現在時刻が書いてあった。
〈2035.09.27 PM22:13〉とある。
⋯は!?
5年経ってる!?
俺はあの後5年間眠って⋯?
いや、それだとおかしい。
さっきから目の前で起こっている事、全部が現実的じゃない。
そう仮定すると、一つの答えが出てきた。
⋯5年後の未来を見ている、とか?
何故見られているのかは不明だ、でももうそれしかない考えようがなかった。
"俺?"は上を向くと、強烈な赤い光に照らされ、ドアの閉まる音がした。
その瞬間、誰かに抱き着かれた。
激しい機械音と供に、彼女の体に異常が起き始めた。
足から分解されていくように、砂状へとなっていく。
「えへへ⋯ダメ⋯でしたね⋯私は」
「⋯」
「⋯所長⋯もう⋯下を向いちゃ⋯ダメですよ⋯?」
彼女の何もかもが分解されていく。
なのに、彼女は最期まで笑顔だった。
赤い光が消えると、お面のようにして残った頭蓋骨の破片。
俺はこれを見た事があった。
「(これは"アイツ"の⋯!!)」
起きるあの頭痛。
その時に現れる"白いアイツ"はいつも"これ"を付けていた。
"俺?"は数滴の涙を落としているように感じた。
「⋯」
頭蓋骨の破片を拾うと、顔へと近付ける。
『(⋯わたしを⋯つれていって⋯くれるんですか⋯)』
!?
背後から"死んだはずの彼女の声"が聞こえた。
束の間、透けた彼女の手が"俺?"を包んだ。
『(大丈夫です⋯なんたって⋯AI総理を倒した"超ヒーロー"⋯なんですから⋯)』
今、AI総理を倒したって言った!?
5年後の"俺?"は倒しているのか!?
すると、"俺?"の姿が鏡に映る。
それは何度も見た"あの姿"だった。
だが、一つ違った。
"全身真っ白い服"。
左右には"二つの銃剣"。
閉まったドアが開いていく。
俺は白い光に遮られていった。