第14話 行先

 この夜、停電が直っても二人を帰らせる訳にはいかなかった。

 ここにいる全員一人暮らしなのもあって、余計にだ。


 俺の両親は高校2年時に、アメリカのニューヨークへ転勤。

 ユキの親は高校卒業と同時に、俺の親と近い場所へ転勤。


 シンヤは元々孤児だったのもあって、ずっと一人暮らし。

 そういや、シンヤの昔の事はあまり聞いたこと無いな。


 また時間が合えば聞いてみるか。

 今はそれどころではないし。


「⋯ダメだ」

「こっちも」


 現状の"狂った総理と東京の事"を一旦親に話そうと思い、さっきから連絡してるけど、繋がらない。


 なぜかと思って調べてみると、

「東京から大阪に繋がらないんだけど」「広島へもダメだった」「海外にも無理」とあった。


「停電と同じで、電話網も操作されてるってこと?」

「⋯かもな」


 すぐその後、"ヤバい動画"がXTwitterで流れてきたとシンヤが言う。

 今はXTwitterという、"XとTwitterを統合してさらに改良された新SNS"が、情報源の一つとなってる。


「⋯なによ⋯これ」

「⋯」


 ⋯言葉が出なかった


 シンヤが見せたのは、"東京外へ出ようとした人が、大人数の警察に射殺されてる動画"だった。

 "上司に反発した警察官がすぐ殺された"というニュースもある。


 もう頼れる先も無くなっていた。

 東京から逃げようとしても殺される。


 これが海外だったら、集団反乱を起こす可能性は高い。

 が、日本は国民性からしてそういった反乱をしない。


 消費税を16%にすると言った時も、寝るばかりの議員の給与がさらに増えた時にも、大きな反乱が起こる事もなく、ネットを通してどうにか出来ないかとばかりやってきた。


 今回ばかりは、それらが通用しない。

 "リアルでの大反乱"が必要とされている。

 その大反乱でさえ、現状どこまで通用するかは分からない状態だけど⋯


 俺たちは風呂や食事を済ませた後、とにかく話し合った。

 明日からどうするか、決めないといけない。


「まず"国会議事堂へ行ってみる"ってのはどうだ? "今の総理が置かれている特別な部屋がある"って情報を、ある国家研究員がリークしたらしい」

「へぇ~、すげぇ研究員がいるもんだな!」

「この"飯塚ユエ"さんって人だ」


 俺はL.S.の画面をユキとシンヤへ共有する。

 飯塚ユエさんには"赤の認証マーク"が付いており、"赤"はAI総理と関連がある証だ。


「この人がさっきから情報を流してくれてる。それに、R.E.D.の開発の一部に携わったり、"UnRule"のテストメンバーだったって」

「へぇ~、どうにか会えないかな?」

「それは無理かもな⋯たぶんとんでもない人数が押し寄せてる」

「他に会えそうなのいねえのかぁ!?」

「いるかもだが、国家研究員全員がこっちの味方かどうかもまだ分からない。今信用出来るのは、"ここまでしたこの人くらい"だと思う」

「⋯なら、明日は国会議事堂へ行くって事にしましょうか。でも周囲の警備がキツそうね」

「まぁ、やるだけやってみよう」


 すると、シンヤは急に"赤色の細長い銃"を取り出し、


「どんなんがいようと、高校の時に"優勝"しかしなかった俺らならいけんだろ!!」

「おい、ここで暴れんな」

「まぁまぁ、こんくらい気合い入れとかないとだろ!?」


 ユキが笑い始め、明るい空気が流れだした。

 こんな時にシンヤがいるのは心強い。

 コイツは出会った時からそうだった。


 ♢


 シンヤと会ったのは高校2年の春。

 2年生になったばかりの時期。


 新設されたばかりの"渋谷理学公立高校"に通っていた俺とユキは、同じクラスになった。

 1年生では違ったわけだが、ユキはよくこっちへと来ては、俺の傍へと寄ってきた。


 "常に成績1位で容姿端麗の女子"が自ら来るってのは、周りが黙っちゃいないのが現実。

 なんでお前なんだだの、早く離れろだの、こそこそと何回言われたか。


「なにしにきたんだよ」

「いつも寝てるんだから、たまには相手して」

「他にもいるだろ。今だって、こっち見てなんか言ってるぞ」

「(⋯ルイ以外話す価値無い)」


 小さい声で凄い事言いやがったぞ、こいつ。

 "前の片鱗"が出てるなこれ。


 1年時はずっとこんな調子だった。

 そこから2年生になって一緒になったわけだが、席は前後で大きく離れた。


 と思ったのも束の間、先生に頼んで無理やり俺の隣の席にしやがったんだ。

 次期生徒会長の言う事だからって、先生は何でもかんでも聞き入れやがって。


「⋯よろしく」

「別にあっちでもいいだろ」

「ダメ。ここならルイの事がすぐに分かるもん」

「親か」

「親よ」

「マジ?」

「マジよ」

「⋯もう喋るな」


 そんな時、急に転校してきたのがアイツだった。

 自己紹介の内容は今でも覚えてる。


「え~、有川シンヤです! 実は俺、記憶喪失らしくて記憶がほぼないんですよね~! その分、楽しい思い出作れたら嬉しいです!!」


 この後、シンヤは一気にクラスの皆と仲良くなっていった。

 勉強が特段出来るわけじゃなかったが、運動神経は明らかに人間離れ。


 そんなヤツがまだ部活に入ってないってんだから、放課後の部活勧誘は当たり前。

 まるでユキの"登校初日"を見ているようだった。

 しかも結構モテるしな、アイツ。


 そんなある日の放課後、俺が一人の時を狙って声をかけられた。


「よっ! 三船君!」

「ん」

「いつも新崎さんと話してるからさ、話しかけ辛いっつうかなんつうか」

「あいつが勝手に話しかけてくるからな。別に気にせず来りゃいい」

「そうなのか!?」


 シンヤは急に右手で握手してきて、


「てっきりよぉ? 最初見た時"話しかけるな"って感じしたから、躊躇してたんだぜ?」

「あの時は寝起きみたいなもんだったからな」

「そういう事かよ~! 嫌われてるわけじゃないよな!?」

「別に嫌ってなんかねえよ。それより、野球とかサッカーとか部活入らないのか? さっきも勧誘されてただろ」

「ん~、なんかピンと来なくてよぉ。そういう三船君はなんかやってんの?」

「俺は"e-sports AR部"ってのに、適当に入ってやってるよ」

「なんだそりゃ?」

「"仮想世界の現実"で、いろんな武器を使って個人戦とかチーム戦とか」

「おぉ、案外面白そうじゃね? 俺もそれちょっとやってみたいぜ!」

「ん~、じゃこの後ユキも来るけど、一緒に部室行くか?」

「おう! よろしく!」


 シンヤと親友になったのはそこからだ。

 個人戦ではいつもシンヤとの決勝戦、チーム戦はいつも俺、ユキ、シンヤのトリオ。


 毎年、謎に全国優勝しまくったのも、今では良い思い出かな。

 シンヤにも良い思い出になればと誘ったが、決勝では全部俺が勝って悪い思い出にしちまったかも。

 まぁ、だからこそこうやって三人で仲良くいられるのかもな。


 ♢


 それぞれが風呂や食事等を済ませた後、まず一人ずつが俺の部屋で仮眠をとる事にした。

 日付が変わった今、もしかしたら"ヤツら"が襲ってくるかもしれないからだ。


「シンヤ君、交代。ゆっくり寝てきて」

「まだ朝4時だぜ? もういいのかよ?」

「うん。昨日昼から夕方にかけて結構寝てたからね」

「んなら、ルイ! 久しぶりにベッド借りるぜ!」

「おう」


 オールして遊んだ時、あいつは俺のベッドでよく寝てたな。

 最近はもうほとんど無いけど。

 もう1つベッド用意してやってんのに、あいつなんでか俺のヤツで寝やがったんだよな。


 そして、シンヤと代わってユキが隣へと座った。

 ピンクのルームウェアの姿のままだ。


「眠くない?」

「全然眠くない」

「無理しないようにね」

「たぶん昨日一緒に寝たのが効いたわ、ってかこれ」


 俺はPiitaが持ってきたコップをユキへと渡した。

 中身は"キッタさんの果実100%リンゴジュース"だ。


「昔からほんと好きよね、これ」

「なんか名前が好きだからな」

「わかる」


 ユキは一口飲むと、テレビを眺め始めた。

 流れている内容は、昨日警察に射殺された事件と現在の東京各地の様子。

 東京から出ようとしただけで殺されるなんて、一日経っても理解が追い付かない。


「たぶん、他にももっと犠牲者いるよね⋯」

「⋯たぶんな」


 ユキがくっ付いてくる。


「大丈夫⋯だよね」