目の前には涙を流しながら息絶えた男がいた。
部下からの報告を受けとあるビルに暴力団の拠点があるということで乗り込んでいた時だった。
何やら覚悟を決めた顔で入ってきた男がいたのだ。
暴力団の残党かと思ったのだがおそらく違うのだろう。男には弱いながら殺気が感じ取れた。
「お前は被害者側だったか…」
俺はポケットからスマホを取り出し部下たちに指示を出す。
出し終えたところで、俺の後ろから一つの声がした。
「お疲れ様ね」
その声に振り向き声の主を確認する。
「なんだ、お前かシャーウィット」
そこには腰にサーベルを刺し茶色のマントを身に着けた女がいた。さながら女騎士の格好をしているコイツはシャーウィット。
俺と同じ治安維持局の人間だ。
「なんだとは何よ…私はあなたが単独行動してるって聞いて探したって言うのに」
シャーウィットがやれやれと首を振る。そういえば単独行動するって報告してないな…
「報連相は組織の基本でしょ?あなたにもきっちりやってもらわないと」
「悪かったなシャーウィット」
俺は頭をかきながら申し訳なさそうに言う。
「思ってないわね」
「なぜバレた」
見破られてしまった。
さすがはランクAの能力者治安局員というのだろうか。
この世界には能力という概念があり、危険度によってランク分けされている。
存在するランクはD~Sだが、Sランクというのはとびぬけている能力者に与えられる称号なため一般的にはAがトップとされている。Bランクの能力者が一番多く、順にC、D、A、Sの順で数が多い。
一番数が少ないSランクは現在治安維持局の幹部である7名のみといわれている。
もっとも手配されていない犯罪者の中にSランク能力者もいるかもしれないが…
「まぁいいわ」
様々なことを思考しているとシャーウィットがそんな言葉をこぼす。
「いつものことだし…次からちゃんと気をつけなさいよ?」
そう言い残し少女はぼろぼろの建物の上に飛び乗り、建物から建物へ飛び移ってどこかへ行ってしまった。
「飯でも食うか」
そんなことをつぶやきながら取り残された俺は本部へと帰還するのだった。