第31話、新居に住むために必要なもの


 ルカに邪甲獣討伐と素材処分の報酬を山分けにした。


「いいんですか!? こんなにもらってしまって」

「いいよいいよ。同じパーティーなんだから当然だよ」

「でも、邪甲獣を倒した数は、ヴィゴさんがほとんどなんですから、それを考えると、私が半分貰うのは貰いすぎですよ」

「パーティーで均等に分ける。俺はそれでいいと思うんだけどな」


 それにな、ルカ。


「冒険者なんて仕事、明日の保障なんてないんだから、貰える時にきちっと貰っておいたほうがいい」


 戦えなくなって、冒険者を辞めた時、次の仕事が簡単に見つかるとも限らないし、そもそも仕事につける状態ではないかもしれない。


 命を張っているのだから、その分の対価はきちんと請求すべきなのだ。


「わかりました」


 ルカはペコリと頭を下げた。


「このお金は必要な時に、必要なことに使わせていただきます」

「自分の報酬なんだから、自分で好きなように使えばいいよ」


 堅いなー、ははっ。ダンジョンなんて危ない場所行ってるんから、危険手当とでも思っておいてよ。


「それで、次の仕事の予定は――?」

「今日は引っ越し作業だな。せっかくお金あるんだし、色々揃えておこうかと思ってる」


 たった今、報酬を渡したし、ルカも急いでお金がほしいとか仕事したいとかはないと思うけど。


「何か、やりたいクエストとかあった?」

「いえ、それは大丈夫です。そういえば、ヴィゴさん、冒険者宿を出たんでしたね」


 ルカがポンと手を叩いた。


「荷物運び、お手伝いしますよ。私、力仕事できますから!」

「いいの? 助かる。じゃ手伝ってもらおうかな」


 家具とか重いものは、持てるスキルと魔剣の収納庫で運べるから問題ないが、荷解きか設置する時は手は多いほうがいい。


 というわけで、冒険者ギルドから俺の新居へ……行く前に、ロンキドさんの家へ寄り道する。


「そういえば、ルカってどこに住んでるの?」

「冒険者宿ですね。西地区にある女性寮です」


 あー、ゲスな中年連中から処女寮とか呼ばれてる所か。


 血の気の多い冒険者たちにあって、性犯罪や暴行から若い女性冒険者を守ろうっていう理由で作られた冒険者専用寮だ。当然、住んでいるのは女性オンリー。


 ただ『処女』呼びを嫌って、通常の共同宿を選ぶ女冒険者もいる。というか、そっちのほうが多い。


 自分で振っておいて、女性寮の話を聞くのはあれだよな……。そういうところに変な興味を持っているとか思われたないし……。


 何か気まずい。こういう時、ダイ様がいてくれれば場繋ぎもできるのだが、今は魔剣でお休み中。


「ヴィゴさん、新しい家はどうですか?」


 ルカが話を振ってくれた。話のネタ提供、助かるー。新居自慢みたいになるが、女性寮の話をするよりマシだ。


 などと話しているうちに、ロンキドさんの豪邸に到着。玄関を尋ねると、穏やか金髪夫人のモニヤさんが出た。


「いらっしゃい。ヴィゴ君、ルカちゃん」

「こんにちは」


 引っ越しの件で、マリーさんかウィル君に話をするようにロンキドさんに言われたことを告げる。モニヤさんは「どうぞ」と家の中に招いてくれた。


「マリー、ウィル君。ヴィゴ君が来たわよー」


 奥様同士では呼び捨て、子供には君付けなのか。とか思っている間に、ウィルが居間にやってきた。


「こんにちは、ヴィゴさん。ルカさんもこんにちは。どうぞ、こっちです」


 少年に案内されたのは、マリーさんの工房だという。黒髪美人のマリーさんが作業用エプロン姿で待っていた。


「新居をもらったってね、主人から聞いたわ。うちで作った魔道具があるんだけれど、よかったらもらってくれないかしら」

「え、いいんですか!?」


 魔道具とは魔法効果のある道具のことで、文字通り魔法が発動する。戦闘から日常まで色々なところで使われている。だが、大抵のものは、魔法が発動できるように細工が施されている分、高額だ。


「いいのよ。開発が主で、ここにあるのは市販しているものじゃなくて、試作品も多いからね」


 マリーさんは腰に手を当て、山と置かれた様々な家具型魔道具を見やる。


「倉庫に眠らせておくだけだから、引き取ってもらえると助かるわ」

「師匠、そういう言い方、押しつけているみたいでよくないよ」


 ウィルがたしなめた。弟子でもあるからお師匠呼びなんだな。


 一見しただけではわからないものが多かったので説明してもらう。目立つのは魔石式と呼ばれる魔道具。魔石を投入して、その魔力で動くタイプだ。


 ストーブなる暖房具。送風機という涼しい風を送るものや、かまどいらずの魔石点火コンロ、食べ物を冷蔵保存できる冷凍庫、室内用の魔石照明具などなど……。


「私たちも使っているのよ」


 マリーさんが、これら魔石式の家具などを指し示した。俺は純粋な疑問を聞いてみた。


「魔石を燃料って、結構高くないですか?」

「一般人にはハードルが高いわね。でもこれらを動かす魔石って、魔物でもそこらの雑魚から取れる安物魔石でも充分なんだわ。冒険者なら、さほど手に入れるのも難しくないさね」

「なるほど」


 それならこの魔道具も使えるかもな。気のせいかな、ルカが目を輝かせているような。


「ヴィゴさん、ヴィゴさん! このコンロって凄いですね。薪を用意しなくても火が起こせて、しかも調整が凄く楽ですよ。私も欲しいな」

「何なら、ルカちゃんも持ってく?」

「いいんですか!? ありがとうございます!」


 マジで嬉しそうなルカ。こういうの、調理用の魔道具なんだろうが、そういえばルカは自炊できるって言っていたな。


 そう考えると、コンロは確かに自炊のハードルを下げるな。俺でも簡単な料理なら出来るかもしれん。こういうの準備に時間が掛かるから、つい敬遠してたんだよな。


「いや、本当すみません。ありがたく使わせていただきます」


 俺もお礼を言って、これらのこれらの魔道具を魔剣に収納した。とりあえず、使い勝手のわからないものもあるが、今の家には物がないから何でもありがたい。


 使っていない椅子とかテーブルをもらったが、後はここにはない寝具などを買いそろえればいいかな。


「では、お世話になりました。今日のところはこれで」

「魔道具とか相談あったら、いつでもいらっしゃい」


 マリーさんが頷くと、ウィルがエプロンを脱ぐ。


「じゃあ、僕、ヴィゴさんの家に行きますね。魔道具の設置とか、引っ越しのお手伝いします」

「いいの? 悪いねぇ」

「あー、待って私も行くわ」


 そう言ったのは、ひょっこり顔を出した赤毛の魔女であるヴァレさん。


「ヴィゴ君の家も気になるし、よければ侵入者避けの警戒魔法もかけてあげるしさ」


 おう、それはいい! 家が大きいから、侵入者対策どうしようかと思っていたところだ。テラスとかバルコニーが複数あるから、意外と隙があるんだよな。


「ぜひ、お願いします!」