リチャード殿下の部屋の隣で、私は肉球でリチャード殿下の頬をモニモニ揉んだ。初めは殿下も嫌がっていたけど……瞳を瞑った。
モニモニ、モニモニ……リチャード殿下は瞳を瞑ってから黙っちゃったけど、気持ちいいのかな? それから30分くらいは2人で部屋に篭った。
「リチャード様、そろそろ落ち着きました?」
隣で、気持ち良さそうに寝そべる、オオカミ姿のリチャード殿下に聞く。彼は優しい瞳を向けて。
「あぁ、だいぶミタリア嬢のおかげで、気持ちが落ち着いてきたよ」
「隣の部屋に戻りますか? きっとみんな、リチャード様を心配していますわ」
「うーん、わかってる。もう少し、俺はミタリア嬢に甘えたい」
正直に嬉しい事を言う殿下。隣にいるはずのみんなは物音1つ立てず、物静かなもので気になっていた。リチャード殿下の怒りの炎で、焼けてしまった部屋と、抱きしめたときにひかったあの光もだ。
(ちょうど、アザのあたりだった……)
「ふうっ、落ち着いた……癒してくれてありがとう、ミタリア嬢」
私の頬にキスをして。殿下は服と一緒に落ちていた腕輪を取って、身に付ける仕草をする。
――まさか、リチャード殿下は私の前で着替えるきなの? 私は慌てて、リチャード殿下の着替えを止める。
「待って、待ってください、リチャード様!」
「どうした、俺はミタリア嬢に見られても平気だぞ?」
「私が平気じゃないです……着替えて、先に部屋を出るのでしたら言ってください」
「はははっ、ワザとだよ。慌てるミタリア嬢が見たかっただけだ。先に着替える、俺が部屋から出たらミタリア嬢も着替えて出ておいで」
「……わかりました」
と、壁側に向いた。
着替えが終わったリチャード殿下は『先に戻ってる』と、部屋を出て行った。それを聞いて振り向き。
「もう、ワザとって……リチャード様は意地悪ですわ」
私も自分のブレスレットをはめて、獣化した姿から戻り。学園の制服に着替えようとした私のお腹のアザが、オオカミと寄り添うネコのようなアザに変わっていた。
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隣の部屋から出て驚く……リチャード殿下の炎で焼け焦げた跡が一つもなく、訪れたときと何ら変わっていなかった。殿下はソファに座りリルと近衛騎士の2人から、何があったのか話を聞いている。
「ミタリア嬢、俺の横に座って」
「はい、リチャード様」
呼ばれて、私はリチャード殿下の隣に座った。
私はどこも焼け焦げていない部屋の中を、見渡しているのがわかったらしく、殿下が説明してくれた。
「どこも焦げていないのが不思議みたいだな。それはね、俺たちが隣の部屋に行った後。父上の魔法部隊が来て、修復魔法を部屋にかけて直してくれたらしいんだ。みんなに『レジスト』をかけてくれた他の隊が、伝えたのだろうな……城に戻ったら父上にお礼を言うよ」
まあ、注意は受けるだろうけどな。とリチャード殿下は笑った。
「リチャード様と、一緒に王城に行ってもいい?」
原因となった、手紙は焼けてしまって読めないから。
リチャード殿下がどうして炎を纏ってしまったのか、国王陛下に説明しようと思った。
しかし、殿下は首を振り。
「もう時間が遅い……父上には俺から説明するから、ミタリア嬢は心配しなくていい」
「……はい」
まだ心配で、リチャード殿下に着いて行きたかったけど、やんわり断られてしまった。側近リル、近衛騎士の2人もいるから諦めよう。
「あの、皆さんは炎で、怪我をされませんでしたか?」
側近リルは平気だと頷き。アラン達も胸に手を当て頭を下げた。兎のリリネ君は炎を見て気絶しただけみたいで、ソファーに寝かされていた。
「良かった、みんなに怪我がなくて……」
「あぁ、本当に良かった。俺がふがないせいで、みんなに危険な目にあわせた……すまない」
「リチャード様、私たちの心配はいりませんよ。誰しも愛している人の事を言われれば、あぁ、なります。きっかけが、たまたまリリネ君が持ってきた、手紙だっただけです」
「自分も、リルさんの意見に賛成です。自分はまだ誕生日を迎えていませんので、どの様な特殊能力が自分に身に付くのか分かりません。もしかすると、今日のように不意にくるかもしれません……」
「アラン……」
それにしても、リルはやけに特殊能力について詳しい。
もしかすると私達よりも年上で、特殊能力持ちの方なのかも。リチャード殿下、王族には獣化する特別種が家臣たちに着くんだ。
皆さんは大丈夫として、殿下のことをリリネ君は怖がるかもしれない。リチャード殿下はリルの言葉に、ホッとした様子を見せていた。側近リルは『そうだ』と、ポンと手を叩き。
「さてと、結構時間が経ちましたが、お茶の時間にいたしましょう。先程、隣で桃コンポートを作ったんです」
彼はエプロンをひるがえし、キッチンがある隣の部屋に入っていった。