~エピソード6~ ① 新島先輩からの催促DM。

 -連休最終日の昼下がり。


 俺たち家族は宗崎や村上、仲村さんの夫婦や、逢隈(牧埜)さんとバレーボールを一緒にして食事会を終えた後、陽葵の実家に一泊して我が家に戻ってきた。


 恭治は家から帰ってくると、連休の3日目には宿題を全て終えてしまっていたから、明日の用意をすると早々にオンラインゲームを始めてしまったし、葵は疲れて昼寝をしていた。


 俺はリビングのソファーに座って、疲れ気味の陽葵の頭をなでつつ、少し天井を見上げて目を閉じながら言った。

「陽葵。颯太くんが相当に頑張ってるけどさ…。なるべくお義父さんに顔は見せたいよな…。」


 陽葵は俺の言葉を聞いて左腕を抱きしめながら答えた。

「颯太は、あなたがお義父さんやお義母さんの面倒を必死に見て戦ってきたのを間近で見ていたわ。だからね、あなたの真似をしようとして頑張っているのよ。祐子さんも、それを分かって颯太を必死に支えようとしているわ。」


 俺は陽葵の頭をなでるのを止めない。

「あのようになるとさ、俺は2人の愚痴を聞いてあげてストレスを少しでも取り除いてあげるぐらいしかできない。陽葵もさ、不安ならすぐに実家に行って構わないからね。俺もあの経験から支援できることや、アドバイスがあれば言えるから…。」


 陽葵は俺の言葉を噛みしめるようにして聞くと、涙目になっていた。

「あなた…ありがとう。でも、颯太の夫婦なら大丈夫だと思うわ。限りなく私たちに似ているから安心して見ているの。それに颯太はあなたを良く見ていたから間違いなんて絶対に起こらないわ…」


「そうか…陽葵。何かあったら遠慮なしに言ってくれ。俺にできることはやりたいし、陽葵の家族には若い時から色々と助けられているから、苦しい時には恩返しをしたいんだ。」


 その時だった…。

 俺のスマホが一瞬だけブッと鳴って、俺がポケットからスマホを出して見ると、新島先輩からDMが届いた知らせだった…。


「陽葵、見ていいよ。」

 俺は陽葵と一緒に、リビングのソファーに座って新島先輩のDMを見た。


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 陽葵ちゃんから、温泉旅館に泊まるDMを貰っているから了解している。

 もう少し経たないと詳しい話が見えてこないだろうから。


 この前のお前のDMは傑作だったぞ。

 棚倉先輩が気圧されていたからな。

 そろそろ次作を期待している。

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 それを見た瞬間、陽葵がニコッと笑った。

「フフッ♡。また、あの昔話のメールが見られるのね。わたしは楽しみだわ。」


 一方で新島先輩のDMを見て俺は頭を抱えいた。

 とにかく面倒くさい。仕事が忙しかったから、以前に書いた内容すら忘れている。


「どこまで書いたのか忘れちゃったよ。」

 俺が両手を広げて呆れたような顔をすると、陽葵はニコッとした。


「ふふっ、あなたは忘れんぼサンだから。そうよ…、あなたが怪我をして、入院した後に、わたしとゆっくり話ができた日曜日までの話を書いたのよ。次の祭日は、私が初対面の人ばかりで混乱したのだわ…」


 陽葵は新島先輩に書いたDMの内容をある程度、覚えていたらしい。やっぱり俺と違って記憶力が良いし、頭の回転もズッと速い。


「陽葵は記憶力が良いよなぁ。うらやましいよ。俺は全くダメだ。」


 苦笑いして陽葵の頭をなでていると、陽葵はハッと思い出したかのように目を開いた後に顔を紅くした。


「あなたっ!。陽葵成分が欲しいとか、ワケがわからないコトは書かないでね!!。あれはメチャメチャ恥ずかしいのよっ!!!」


 俺はそれを聞いて陽葵の腰をソッと右腕で抱きしめると耳元でささやいた。


「いや、分からないよ。このまま1日中ペッタリとくっついていたいとか、もう陽葵が好きすぎて悶えそうとか、恥ずかしがってる姿が可愛すぎてたまらないとか、朝は必ずチューして起こすとか、一緒にお風呂に入って背中を流したいとか…、もしかしたら、もっと過激なことを書くかもしれないし…」


 それを聞いた陽葵は顔を真っ赤にして俺の目を見た…。

「むぎゅぅ~~~」


 陽葵はその言葉を聞いて、俺にもたれかかって、しばらく恥ずかしがっていた。

『やっぱり陽葵は可愛すぎる』


 俺は陽葵が悶えている姿を眺めながら、あの続きのDMを新島先輩へ書き始めた…。


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 時は19年前にさかもどる。


 少し前回のDMまでのあらすじを…。

 陽葵を怪しい闇サークルに勧誘しようとした厳つい男が、学生課で寮長会議の内容を盗み聞きしているところを俺が発見して棚倉先輩と一緒に捕まえようと男を追いかけた。


 しかし、追いかけている最中に、突然、男がスタンガンを持って抵抗をしてくる。


 そこに、運悪く陽葵や三鷹先輩たちが駆けつけてきて、スタンガンを持った男に陽葵が襲われそうになった瞬間、俺が間一髪のところで撃退。しかし、その男と一緒に噴水に落ちた際に左腕を骨折してしまう。


 その時に俺は気を失ったこともあって、救急車で病院に運ばれて入院することになった。


 入院中は陽葵がつきっきりで看病してくれているが、俺を見舞う人たちが、ひっきりなしに訪れて入院していて体が休まらない。


 そして、入院3日目の日曜日になって、陽葵と愛に満ちあふれた入院生活を送ることができた。

 3日目の夜は俺も陽葵も疲れてしまったのか、そのまま、それぞれのベッドで寝てしまった…。


 そして、その翌朝だった…。


「… …さん、起きて。」

 目の前には可憐で可愛すぎる女の子がドアップで俺の視界に入ってきた。


「… … …ん???」

 俺は、目を開けたばかりで思考なんて働いていない。


 その可憐で可愛すぎる女の子がドアップで微笑んだ。

「…ふふっ♡。恭介さんは疲れてしまって起きられないのね。もう朝の9時近くよ。まったくもぉ~~、起きない子には、お仕置きをするわっ♡。」


 その瞬間だった。

『ひ、ひっ、陽葵?!!!』


 甘い香りとフワッとした前髪が額に触れると、陽葵の顔がどんどん俺に近づいていった…。


 そして、彼女に少し抱き寄せられると体に柔らかい感触を覚えた次の瞬間だった。


 !!!!!!


 俺は咄嗟に目を閉じると、唇に暖かくて柔らかい感触を覚えて一気に目が覚めた。

 陽葵のかなり刺激的な起こし方に、俺がしばらく呆然としていると、彼女は悪戯っぽく笑った。


「恭介さんは疲れすぎているのだわ。でも、ご飯が冷めてしまうし、片付けられてしまうと、お腹が空いてしまうから起こしたのよ…。ほんとうにごめんね。」


 ただ、起こした本人は謝っているのに関わらず相当に嬉しそうだ。


 俺は頬に火照りを感じながら率直な感想を言うことにした。

「陽葵、お、おっ、おはよう…。その起こし方は…。そっ、その…、男としてはとても嬉しいけど、できれば2人っきりの時にして欲しい。」


 陽葵はふたたび悪戯っぽく笑って何か言おうとした時だった。


 俺の携帯が鳴って、陽葵が慌てて携帯を俺に渡した。

 牧埜からの電話だった。

「三上くん。これから泰田さんと松裡さんと仲村さんと一緒にお見舞いに伺います。あと30分後には病院に着くと思います。」

「牧埜。ありがとう。病室で待っているよ。詳しい話は宗崎や村上や棚倉先輩から聞いているだろうから、俺はここで何も言うことはないし…。」

「大丈夫ですよ。宗崎さんから真っ先に電話がかかってきて事態を完全に把握してますから。」


 俺は電話を切ると陽葵に仏頂面になりながら、陽葵に詫びるように話しかけた。

「陽葵、あと30分もしないうちにお見舞いにくる人がいるので、アーン♡は無理になった。」


 陽葵は俺の言葉を聞いて、少し残念そうにすると微笑んだ。

「しかたないわ。また誰かにアーン♡を見られたら恥ずかしいわ。早くご飯を食べてしまいましょう。」


 陽葵は俺が食べている食器を支えると、匙を持ちたいのを我慢しているのが明らかに分かった。

 そして、急いでご飯を食べるとベッドの周りにあるカーテンをしめて大急ぎで着替えた。


 看護師さんが食事のトレイを片付けて薬を持ってきた時だった。


 病室の外から足音が聞こえたので、てっきり牧埜たちかと思ったら、松尾さんと荒巻さんが病室に入ってきた。


 松尾さんが心配そうに俺を見ると声をかけてきた。

「三上君、具合はどうだ?」


「なんとか痛み止めで誤魔化せてますし、陽葵さんが熱心に看病をしてくれているので、私は安心して入院生活を送れていますよ。」


 そして、荒巻さんは俺の言葉を聞いてニコニコしながら口を開いた。


「三上くんは、霧島さんがいるから大丈夫だよね。そういえば、病院の入り口付近で牧埜くんと泰田さんが待っていたので声をかけたら、まだ2人が来てないから待っているとの事だったよ。じきに上にくるかな…」


 陽葵は松尾さんと荒巻さんを見ると、サッと冷蔵庫からお茶を取りだして2人に渡すと、俺が薬をのむ水もペットボトルのキャップを開けて渡してくれた。


 この陽葵の気立ての良さが本当に好きすぎる。

 本能的に陽葵の頭をなでたかったが、それをこらえて荒巻さんに言葉に答えた。


「荒巻さん。たぶん、実行委員チームのメンバーが相次いで駆けつけてくる予感しかしませんよ。まして私が怪我をしたとなると練習すらできませんからね…」


 俺が痛み止めの薬を飲んでいると荒巻さんに答えた言葉に、陽葵が首をかしげている。

 薬を飲んでいる間に荒巻さんが答えてくれた。


「霧島さんね、三上くんは、バレーボールがもの凄く上手いんだ。学部は違うけど教育学部の体育祭で実行委員に推薦されて、実行委員の中でバレーボールチームが組まれたのだけど、とても上手くて三上君の活躍で優勝したぐらいだからね…」


 それを聞いた陽葵が目をパッと開いて頬を紅くした。


 松尾さんが陽葵の様子を見て笑顔になりながら、言葉をかけた。

「霧島さん。三上君のバレーボールでの活躍は、カメラの録画を保存してあるよ。もしも寮に来るときがあれば、見せてあげるからね。」


 俺は松尾さんの言葉に少し疑問を呈した。

「あれ、松尾さん、寮は女子禁制ですけど…。」


 松尾さんが笑いながら俺の問いに答える…。

「ははっ、荒巻さんは知っているけど、霧島さんは今後、学生課の計らいで女子寮の幹部特別職のオブザーバー的な役職に就くことになるよ。あの事件の手が掛かりが掴めるまで、寮長会議に出席することになる…。」


 それを聞いた俺はとても驚いて、とっさに言葉が出なかった。

 その姿を見た荒巻さんは俺のほうを見て捕捉を入れた。


「三上くん、霧島さんには話してあるけど、そういうことなんだ。もう警察沙汰になった時点で、何があるか分からないから、できる限り霧島さんを学生課の管轄下に置いておきたい思惑と、寮幹部と関わる事によって保護する目的もある。」


 俺は口をポカンと開けたまま、何を話して良いのか分からないぐらい混乱していた。

「そっ、それは、合理的ですが…。」


『参ったなぁ、あの事件が解決するまでの間、陽葵は強制参加になるだろう…。なんか色々な思惑を感じるけど、ここは大学側がOKしてる訳だから素直に受け取るか…。』


 俺は病室の天井を見ながら、この先の寮長会議のことを色々と考えてしまった…。