~エピソード4~ ⑤ 再開された寮長会議。

 新島先輩から告白までの経緯についての返信DMが返ってきた。

 DMには一言だけ書いてあった。


『ご ち そ う さ ま』


 … … … … … …。


 しまった、具体的に書きすぎた。


 陽葵はとても満足そうにニッコリと笑いながら朝食の支度をしている。

 俺も陽葵成分を十分に補給できたので満足だ。


 そして、俺は新島先輩へのDMの続きを書き始めた。


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 全員が尊死を迎えた後、寮長会議が開始された。

 伝説に残る告白事件後、1時間15分後のことだった。


 三上恭介と霧島陽葵は棚倉先輩と三鷹先輩の間に離れて座った。


 具体的には棚倉先輩は三上恭介の右に座り、棚倉先輩の右隣に三鷹先輩、そして三鷹先輩の隣に霧島陽葵が座った。


 そうしないと、自然に2人がお互いを見つめ出す。


 その事によって俺と霧島さんの視線から尊い愛が発動して、手当たり次第に周りを尊死させてしまうからだ。それでは会議が進まない。


 席は離れたが、俺が霧島さんを見ようとすると、棚倉先輩が資料を丸めた紙で頭を殴ってくる。そして、霧島さんが俺を見ようとすると、三鷹先輩が彼女の視界を妨害するのだ。


 そうして、ようやく会議が再開できた。


 霧島さんに未練を残しながらも寮長モードになった。

 そうしないと、この会議で霧島さんの存在が大きくのしかかって精神的に身が持たない。


 俺は席を立って会議の続きを切り出した。

「私のせいで会議を中断させてしまい、申し訳ないです」


 先ずはお詫びを入れて本題に入りたかった。


「私も中断させてしまい、申し訳ないです。」

 そうすると霧島さんも立って深々と頭を下げた。


「2人は謝らないで、そのまま幸せになってくれ。それが私達の願いだ。」

 荒巻さんがそういうと、周りから割れんばかりの拍手があがった。それが、ここにいるメンバーの総意だった。


 俺は霧島さんから出る熱い視線を寮長モードでカバーした。

 これを受け取ってしまうと尊い愛が生まれてしまって会議が中断する。もうずっと霧島さんを見つめていたいが、ここは耐えなければいけない。


 霧島さんから熱い視線を受けるのを相当に我慢しながら発言を続けた。

「皆さん、ありがとうございます。ご期待に添えるように頑張ります。」


 お礼を言うと、また割れんばかりの拍手があがる。


 俺は寮長モード最大出力の700%で霧島さんの熱い視線に耐えた。でも、これは諸刃の剣だ。彼女はこれに惚れてるから、彼女の目はハートマークになっている。でも、これ以外に防ぐ手立てがない。


 その拍手が鳴り止むと、彼女から発せられる愛の視線に耐えつつ本題に入った。

 そして、身振り手振りを交えながら話し始めた。


「さて、例のカルトサークルの件ですが、少し手がかりになりそうな事があります。霧島さんをここにお呼びしたのは、その確認作業が必要だったからです。」


 そのとき、霧島さんがボソッと喋ろうとした言葉を、三鷹先輩が彼女の口を咄嗟に塞いだ。


「私達の…モゴッモゴッ…」


 ちなみに、このとき霧島陽葵は目にハートマークがついていて、暴走していたので、三上の言葉を『私達の愛の確認作業』と誤解釈をしていた。それを三鷹が咄嗟に察して防いだのだ。


「三上さん、いいから話を続けて。」

 三鷹先輩は俺に話を促す。


「霧島さんが勧誘を受けていた際に、波動などという言葉を耳にしました。この言葉は理工系の私から考えると、到底、あり得ない論理の波動になります。霧島さんが勧誘を受けていた際に、波動測定器なども言葉も聞こえました。もしかしたら典型的な悪質な闇サークルの部類かもしれません。」


 言葉が長いので、少し俺は息を継ぐ。周りは興味深そうに俺の話を聞いている。


「そのカルト系サークルは代替医療や似非健康品など詐欺商法に関連している疑いがありますし、うちの寮生でも、似非健康品に引っかかりそうになって新島元寮長と共に対応にあたった事もあります。だから、その時と同じような匂いがします。」


「うーむ、なるほど…」

 棚倉先輩が俺の言葉を聞いて眉をひそめた。


「それについて霧島さんにお尋ねしたいのですが…」


 霧島さんのほうを向くと、三鷹先輩は彼女に声を掛けた。

「陽葵ちゃん。目をふさいで、三上さんを見なければ話しができるよね?」


 霧島さんは頬を赤くして三鷹先輩に本音を吐いた。

「はい…今はドキドキしちゃって。三上さんの格好いい姿がたまらなくて…。」


 霧島さんも色々と吹っ切れている。


「… … … … …」

 俺は霧島さんが可愛すぎて悶えるえそうになるのを耐え続けていた。


 『こんなの反則だよ。目を隠されても霧島さんは可愛いすぎる。』


 三鷹先輩は後ろから霧島さんの目を手で塞いだ。

「陽葵ちゃん、これなら三上さんと喋れる?」


「はい、大丈夫そうです。」

 霧島さんの頭の回転が良くて明晰そうな声が聞こえた。


 三鷹先輩が霧島さんの目を塞いだことで、俺も寮長モードを200%ぐらいに落とした。そうしないと体力が削られて死ぬ。


 体力を温存しながら霧島さんに質問をした。

「霧島さん。確認ですが、執拗に勧誘してきた輩は、私のような言葉を喋っていましたか?。あと、他にも気になるような事を言ってませんでしたか?」


 俺は霧島さんにはあの告白で色々と吹っ飛んでいるので、突っ込んで聞けると踏んでいた。


 しかし、彼女の心中は、俺のことで頭がいっぱいで記憶を出すのに時間が掛かっていた。普通の人間は告白直後でかつ好きな人の前で冷静に会議で語ることは難しい。


 霧島さんは三鷹先輩に目を塞がれたまま答えた。


「私の記憶が正しければ…、すみません。まだ、色々と混乱してますので…。三上寮長さんの仰ったことは間違いありません。その言葉は、あの執拗な勧誘のなかで聞こえていました。」


 彼女の、その可愛げな姿とは裏腹に、凜とした声の中に彼女の育ちの良さを感じる。


「三上寮長さん。あのとき、よく聞こえなかったのですが…。その人は、なんとか…研究同好会…と、言っていた気がしてます。記憶があやふやで申し訳ないです。あの人、怖い顔をしてボソッと言うので恐怖感がありました。」


「霧島さん、ありがとうございます。」

 俺は、一旦、彼女の発言を整理したかったので、発言をそこで終わりにした。


「その傷ついた心は私が頑張って癒やしますので安心してください。」

 無意識に俺が霧島さんにかけた言葉を聞いてメンバー全員がニッコリと笑う。


 彼女は耳まで赤くなって「はい…」というのが精一杯だった。三鷹は目を隠した手が熱くなるのを感じた。


 発言を終えた霧島さんは、三鷹先輩に目を隠されたまま座った。

 高木さんが要点をホワイトボードに書き始めた。


 こんどは棚倉先輩が手をあげる。

「三上、そういえば、お前と新島が撃退したカルトって、相当にしつこかったよな。今回の件は、何かそれと共通点はありそうか?」


 俺は少し考えて先輩の言葉に答えた。

「あれと同一グループだったり、裏で繋がってる可能性は薄いと思います。今回の件は…、もっと…う~ん、そうですね。少しカルト宗教っぽい気がしています。」


「そうか…、今回の方がよっぽどタチが悪いか…。」

 棚倉先輩は心配そうな表情を浮かべる。


 俺はあの時の状況を思い出しながら、一つの推察を導き出した。

「まず、霧島さんの件ですが、寮生の友人に会いに頻繁に寮を訪れています。彼女は寮生と間違えられた可能性が高いと思います。」


 俺の発言が終わると、木下さんが声をあげた。

「被害に遭って恐かったので、なかなか言えなかったのですが…。」


 木下が声をあげたのは三上のお陰だろう。彼の高校時代の話を聞いて勇気を出してくれたに違いない。


「勧誘の際の相手の言葉は全く意味不明でした。言葉の節々で聞こえたのは三上さんや霧島さんが言っていたような感じでした。ただ、なんとか振り払った後に、次のターゲットを見つけなければ…と、聞こえました。」


『これはマズい。下手すれば被害者が増えるぞ…。』

木下さんの話を聞いて、俺は焦った。時系列からすると、木下さんが最初に勧誘されて、霧島さんが、その後だろう。


「意識的に寮生を狙ってる可能性が高いですね…。」

 荒巻さんが相当に心配そうだった。


 俺は即座に言った。

「荒巻さん、女子寮生の安全確保が必要かと。」


 荒巻さんが答えた。

「三上くん、その通りだ。この問題は一両日で片付くような案件ではない。大学側はもとより、警察などと連携しないと…。」


 高木さんがホワイトボードに要点をまとめた。

 1.悪質勧誘サークルは『波動』という言葉を使うようなカルト団体の可能性あり

 2.当該サークルの名前は ○○研究同好会

 3.霧島さんは寮生と間違えて狙われた可能性大

 4.悪質サークルは女子寮生を計画的に狙ってる可能性


 俺はホワイトボードを見て手がかりが薄さに焦っていた。


 その後、三鷹先輩が霧島さんの目を手で隠しながら発言したが、話が脱線して、時間だけが過ぎていった…。


 荒巻さんはみんなに呼びかけた。


「少し休憩にしますか。」


 俺は三鷹先輩の長話から解放されて、ホッとした表情を浮かべた。


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 俺は新島先輩に向けて久しぶりに長文メールを打っているので少し疲れてきた。


 『これは手こずるなぁ…』


 そう思って憂鬱になっていたら、朝ごはんのいい匂いもしてきた。

 時折、陽葵がこっちにやってきて書いた内容を読みにくる。


 俺に体を寄せてDMを見るので…その、胸がちょっと当たる。

 何事もないように振る舞いながら陽葵の頭を少し撫でると、陽葵はキッチンに向かう。


 そんなことが何回か繰り返されていた。


 『まだ書くべき内容の半分もいってないかなぁ。』


 先は長い。ここまで書いたDMをとりあえず新島先輩に送信した。