「んー……多分これで大丈夫なはず」
書き換えた魔術言語を再確認しつつ、私は一つ息を吐く。
今回は自身で条件付け……というか。
ある程度使い易くする為の機構を付け加え、いつもよりも複雑になってしまった。
とは言え、パッと見返した所目立つ様なミスも無かった為、そのまま完成させてみる。
【警告:名称未設定の状態では等級強化を完了することはできません】
【名称を設定してください……【
【魔術効果が変更されました……一部承認】
【一部効果を書き換えました】
【魔術効果変更に伴い、『瞬来鮫の鼻』、『霧鮫の索敵瓶』、『霧鼠の霧発器官』、『狐憑巫女の刃片』、『狐憑巫女の髪』、『狐憑巫女の血液』、『故瞬霊の欠片』をインベントリ内から消費しました】
【魔術効果変更に伴い、等級が『初級』から『中級』へと変更されました】
【『言語の魔術書』読了による構築補助を確認しました。『カルマ値』を獲得します】
【等級強化を終了します】
【条件を満たしました。プレイヤーの等級を『medium magi』から『Lingua magus』へと変更します】
【機能が開放されました。詳しくはオンラインヘルプをご確認ください】
「……ん?」
流れたログの大多数の部分は問題はない。
ただ1つだけ……魔術の等級強化とは別の部分で、私の目に留まったものがある。
ランクの変更だ。
つい最近、それもキザイアとのダンジョン攻略に挑む前に【狐霧憑り】を創った時に変わったランク。
詳しく見てはいなかったものの、私のランクは
しかしながら今回はその流れを汲まず、また別の方向に行ってしまっている。
……ラテン語で……言語術師……?
直訳すればそうなるだろう。悪い気がしない名前ではある。
だが、詳しい所を確かめるのは一旦置いておこう。
現状、優先して確かめるべきは他にあるのだから。
『どうしました?』
「あぁ、いえ。ちょっと待ってくださいね」
私がフリーズしているのを見て声を掛けてくれた巫女さんに笑いかけながら、私は等級強化が終わり、名前も変わった新生【路を開く刃を】……【血求めし霧刃】の性能を確かめる。
――――――――――――――――――――――
【血求めし霧刃】
種別:霧術・血術・攻撃
等級:中級
行使:発声、動作(足先で蹴る)
制限:【霧のない場所では行使できない】、【命令に反する行動をすることがある】
効果:行使者が両手に装備している武器を、霧を硬化させ(レベル)本劣化複製する
劣化複製された武器は敵対者に対して自動追尾を行う
劣化複製された武器は行使者の霧操作能力によって操作することが出来る
この魔術の効果範囲内で何者かが血を流した場合、この魔術は血を流した対象を優先してターゲティングする
ダメージ:(自身の精神力の値)/1.5+(霧の濃さによるボーナス)+元にした武器の固有効果
――――――――――――――――――――――
イペタム。
元は日本、というよりは北海道の方の
民族であるアイヌに伝わる、血を求め独りでに鞘から抜けて生き物を傷つける妖刀の名だ。
そんな名前を付けたからだろうか、中々に良いのか悪いのか分からない能力をしている。
しかしながら、私が今回記述した内容……ダメージの部分は問題なく反映されているため、文句はない。
問題という問題と言えば……種別が霧術と血術の混合になっている事くらいだろうか。
「よし、ちょっと使ってみます。離れてください」
『はいはい』
巫女さんに何かがあっても困る為、少し離れてもらい……私の周囲に場に満ちている霧を集め濃くしていく。
現在、狐面の能力を一時的に制限している為に周囲が見えなくなっていくが、それは良い。
何かがあってもここはボスエリア。それも私以外のプレイヤーは侵入出来ないように設定している領域だ。
もしかしたら敵性モブが入ってくるかもしれないが、それに関しては巫女さんが対処してくれるだろう。
「では……【血求めし霧刃】
『面狐・始』を手に魔術を行使する。
すると、だ。
周囲の霧が私の手の中にある短剣と同じ形状に変化していき……最終的には25本ほどの数となった。
……起動は成功。問題は操作精度だけど……。
私は複製された短剣達を、いつも【路を開く刃を】でやっていたように操作していく。
自身を中心に渦を描くように動かしたり。
数本を背後に、それ以外をその場で縦回転させたり。
思いつく限りの動きを試し、1つの結論を得る。それは、
「うん、難しくなってる。……今は狐面がない状態だけど、それを加味してもだなぁ」
『そうなのですか?』
「えぇ。少なくとも、この魔術で精密動作とかは出来ないと思います。……多分」
操作難度の上昇。
簡単な動作ならばある程度は問題ない。しかしながら、1本1本を個別に操ろうとすると途端に難易度が上昇し、霧の操作に慣れている私ですらまともに動かせているとは言い難い状態になってしまう。
巫女への返答に多分と付けたのは、狐面があった場合はどうなるかが分からないからだ。
現状よりも確実に霧に対する干渉能力が向上するため、考えているよりかは問題ないのだろうが……少しばかり自信を無くしてしまう。
……暇な時は練習も片手間にした方がいいかな。