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【狐霧憑り】
種別:霧術・補助・特殊
等級:中級
行使:
制限:【霧のない場所では行使できない】、【命令に反する行動をすることがある】、【使用時『白霧の狐輪』が使用不可となる】
効果:MPを最大値の20%、周囲の霧を利用し、『白霧の狐輪』を基部とした魔導生成物を作り出し身に纏う。
『魔導生成物』
HP:(消費したMP量×3)
攻撃能力:なし
補助能力:霧の操作能力、霧内の敵対者を探知、魔導生成物に対する物理的な攻撃無効
霧内部での魔術言語構築に対する補助
低い思考能力を持ち、自己判断を行う
詠唱:『目に見えぬ狐が走る』
『戦場が白に染まり』
『狐は全てを知覚する』
『これは我が理想』
『我が纏う恣意の具現也』
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「うん、こっちも中々におかしい」
『面白そうなので、早く見せてくれると助かりますよー』
巫女さんはとりあえず置いておくとして。
今回等級強化した【狐霧憑り】は、私の身体に纏うタイプの補助魔術だ。
よく【血狐】を鎧や羽衣状にさせ纏ってはいたものの、今回はそれを初めから……こちらで指示することなく鎧の様に私の身体に纏わりついてくれる……予定の魔術である。
予定、というのは魔術の説明部分に私が追加した覚えのないものが追加されているからだ。
……【血狐】みたいに意思持ちかぁ。
だがそれを懸念していても仕方ない。
というかそもそも【霧狐】時代から中々に従順であったこの魔術の事だ。明確に意思が芽生えたとしても、
「……よし、ちょっと離れてください。使ってみるんで」
『はーい』
ふよふよと私から離れていく巫女さんを見送った後に。
私は軽く息を吐いてから詠唱を開始した。
「『目に見えぬ狐が走る』」
瞬間、境内の霧が私を中心にするように渦を巻く。
当然私は何もしていない。
「『戦場が白に染まり』、『狐は全てを知覚する』」
渦を巻いた霧は、次第に私の身体へと集まり始める。
全身に纏うように、【血狐】の鎧のようではなく霧の着物を新しく上から着せられているかのように。
私の視界は白く染まる。
「『これは我が理想』、『我が纏う恣意の具現也』……【狐霧憑り】
私が最後の言葉を発した瞬間、一気に視界が晴れる。
不定形であった霧の着物が、しっかりとした物質へと変わり。
元が霧であるからか、激しく動いた所で元々着ていた装備を含め、身体の動きの邪魔にはならないようだった。
『わぁ、可愛らしい』
「か、可愛いですか?」
『えぇ。尻尾が2本になってますよ?それに私の渡した指輪が首輪みたいになっていますし、面白い魔術ですね』
巫女さんに言われ、首に手を伸ばしてみると。
そこには確かに私の指に嵌めていたはずの『白霧の狐輪』が巨大化し、チョーカーのように私の首に装着されていた。
【狐霧憑り】の効果的に考えるならば、恐らくはこのチョーカーが魔術の基部になっているのだろう。
分かりやすく魔術の弱点が見えていると考えると中々な欠点であるものの……そもそも首は人体の急所である。
そんな所を攻撃されたら魔術の解除云々以前に、私の命の灯の方が消されていくと思われる。
……で、尻尾が2本……?
視線を自身の背後へと向けてみる。
そこには自分の黒い尻尾の他に、霧で出来た尻尾が1本生えていた。
私の意思に関係なくゆらりと揺れるそれは、私が視線を向けているのに気が付いたかのようにびくっと震える。
「……もしかして、元【霧狐】?」
そう問いかけると、霧の尻尾はぶんぶんと大きく揺れた。
【血狐】のように言葉を喋る事は出来ないものの、このように意思を示すくらいは出来るのだろう。ささやかすぎる意思表示だ。
【霧狐】の頃から思ってはいたが、【血狐】とは違い本当に良い子だ。
「とりあえずこの状態で外出てみますね」
『あの子の面が無くても大丈夫ですか?』
「まぁちょっと見えないくらいなんで。それにこの状態でも霧は操れるんで、最悪最低限の霧だけ残して戦えば何とかなるかと」
そう言って私は境内から外へと向かって歩いていく。
深層でも通用する索敵能力ならば、普段から適当に使っておくのも選択肢に入るだろう。
と言っても、この魔術の本領を発揮させるならば『魔霧の狐面』を十全に使えるようになっている方が良いだろう。
つまりは結局の所、『白霧の森狐』の試練を乗り越える必要がある、という事だ。