Chapter6 - Episode 25


暫く。

普段ならば既にボスエリアである神社へと辿り着いていてもおかしくは無い時間、この瘴気と霧の立ち込める森の中を彷徨っている。


「本当に手ェ出さなくていいのかーい?」

「いくら自動回復あると言っても!ここ一番って時に代償に使えるものが無くなって貰ったら困るんで!」

「あは、そう言われたら仕方ない。警戒は任せておいて」


そして彷徨っている分、戦闘数は増えていく。

森に入ってすぐに遭遇した仮称瘴気熊は含めないにしても、既にその数は十を超えていた。

疲労自体は少ない。だが、それ以外のものがとにかく消費されていく。


「こっち終わったぞ!」

「おっけ、じゃあ終わらせるッ!」


左側から聞こえてきたメウラの声を合図に、私は目の前の剣を持った人型へとラッシュをかけていく。

通常、深層から出てこない筈のミストヒューマン。

それが瘴気のような紫の霧を纏いつつ、上層である筈のここにいる理由は分からない。だが、対処の仕方自体は変わらない。


紫の霧をミストヒューマンから遠ざける様に移動させつつ、私はその胴体へと一足飛びに近付き『面狐』を撫でる様に横へと振るう。

カウンターを狙う様に剣を振るってきているものの、発動させていた【路を開く刃を】によって簡単に防ぐことができた。

瞬間、発動した追撃と共に三つの裂傷が人型へと刻まれ……程なくして光となって消えていく。戦闘終了だ。


「何体?」

「こっちは5だな」

「私の方は12、RTBNは?」

「……8。多くない?」

「あは、多いねぇ。まるで深層の群れみたいだ」


フィッシュの言う通りだ。

上層であるにも関わらず、深層のような群れが出現する。イベント的な処理で出現しているのならば良いのだが、これが今後スタンダードとなるのなら……少し考えねばならない。


「霧見通せるから楽だと思ったんだけど……もう面倒ですね。列車使いますか」

「列車?何?君近接職の次は運転手ライダーにでもなったの?」

「似た様なもんかな……よーし、皆警戒任せます」


唯一この場で、私の【霧式単機関車】を見たことのないRTBNが疑問をぶつけてくるものの。

見てもらった方が早いため、私は少し早口で詠唱を行い、そして発動させる。

今回は初めっからコンダクター込みで出現だ。


「コンダクター、ボスエリアまでって案内できる?」

『……多少無茶はありますが、可能かと。しかしながらこの霧によって方向感覚が狂わされている可能性があります』

「つまり?」

『通常よりも時間が少しばかり掛かるかと』

「問題なし。……さて、皆乗ろうか」


そう会話を行い、パーティメンバーへと振り向くと。

全員が全員、困惑している様に見えた。

……あー、なんかフィッシュさんもコンダクター見た時慌ててたなぁ。


当然の困惑か、と1人納得する。

というのも、正直言ってコンダクターのような魔導生産物など私も他に見た事がないからだ。

知性があり、会話ができる。

これだけなら沢山いる。それこそ私の持つ【血狐】がそうだろうし、知り合いの中にも似たような魔術を持つ者も居るだろう。

しかし、それはあくまで単語のみや幼稚園児相手に会話をするように拙い物が多い。


だがコンダクターはこちらの意を読み、そして考えコミュニケーションを取る。

その点が他とは決定的に違うのだ。


「……まぁ、説明は後で。今はする暇なさそうですし」


そう言って、メンバーを無理矢理に単機関車へと乗せていると。

突然、ゲーム内通話の着信音が鳴った。

とりあえず自身も乗り込んだ後に通話を飛ばしてきたプレイヤー名を確認し、少しだけ嫌な顔をしてしまう。


「誰からだ?」

「……キザイア」

「ってことは向こうの攻略も終わったのかな。これで楽になるわ」


そう言ってケラケラ笑うRTBNに対し、私を含めた他の面々は沈黙する。

今回のイベントは『駆除班』がメインの前線を張って敵性モブ達を狩るようなイベントだ。

キザイアはそのクランのトップ。当然、他のクランメンバーよりも忙しく、そしてこんな通話をかけてくるような暇はないはずなのだ。

だが、かけてきた。


「……出ます」

「あ、こちらで呪詛関係に対応する魔術は準備しておきます」

「じゃあ俺は擬似聖域の構築だな」

「メウラくん、ごめんだけど私はそれの対象外にしておいてくれる?持ってる魔術の都合で弱体化するから」

「了解っす」


パッパッと何が出てもおかしくないように準備をする面々を見てRTBNが少しばかり混乱しているものの、私は準備が整ったのを確認してから通話に出た。


『クソッ、やっと出たか!』

「口調乱れてるよ?キザイア」

『んなこと後で良いわよ!アンタ今どこ?!』

「え、『惑い霧の森』のイベント仕様に潜ってるけど……」


そういうと、通話先のキザイアは大きい溜息を吐きつつ、


『良い?よく聞いて。――こっちは失敗した・・・・

「……は?」


キザイアに言われた言葉がよく分からず、思わず聞き返してしまう。

だが、再度苛立ったキザイアが言った言葉によって状況が飲み込める。


『だからボス討伐に失敗したの・・・・・・・・・・!もしかしたらイベント仕様ダンジョン自体が罠の可能性がある!出れそうなら……ってそこ『惑い霧』か……!』


想定された中で最悪な状況が。