Chapter6 - Episode 22


駆ける、駆ける。

と言っても、私の足でではない。


「アリアドネちゃんコレいいねぇ!快適だ!」

「ちょっと喋りかけないで貰っていいですか!?意外と難しいんですよ人避けるの!!」


現在、私とフィッシュは2人【平原】を爆走している。勿論【霧式単機関車】に乗ってだ。

……確かにちょっと操縦してみたいなぁとは思ったけど!

コンダクターを呼び出さずとも、この【霧式単機関車】は走行することが出来る。

といっても、その場合私自身が操縦することになるのだが……結果として、【平原】を蛇行運転する単行機関車の出来上がりだ。


「掲示板じゃ新種の敵性モブか?!とかイベント中にダンジョン攻略失敗した馬鹿はどこのどいつだ?とか色々と言われてるよ」

「はーい私でーす!!」

「アリアドネちゃんおかしくなってないかい?とりあえず一旦止まる……ってわけにもいかないなぁコレ」


そう、私達は今止まるわけにはいかない。

どんなに暴走爆走していても、止まる事が出来ないのだ。

それが、


「なぁーんでまだ追ってくるかなぁ……!」


【霧式単機関車】を追ってくるように徐々にその数を増していっている、炎の尾と鹿の角を持つ敵性モブ達の姿だ。

私がこの霧の機関車を街の外で出現させると同時に何処からか寄ってきた群れ。

それこそ最初は私やフィッシュ、メウラや灰被りが居たのだから討伐自体に問題はなかった。

だが次第に襲ってくる数が増え、そしてそれらが私と機関車を狙っているのが分かった瞬間。私はフィッシュの腕を掴み、機関車に乗ってその場から逃げるように離れていった……というのが現状だ。


メウラと灰被りはその場に残り、私達を追ってこない敵性モブ達の処理。

私達は追ってくる敵性モブと、機関車の目の前に飛び出してきたモブの処理。

図らずも二手に別れる形になってしまったが、本当に図っていないためどこかで合流したい所ではある。


「とりあえずこのまま走ってても仕方ないし、止まってどうにかしよっか。アレ」

「やりますか」

「大丈夫?これ消したら反動とか来ない?」

「あー、それは大丈夫です。というより消さないんで」

「へ?」


一息。


「コンダクター」

『お呼びでしょうか、創造主様』

「ちょっと外に無賃乗車しようとしてくる奴らが居るから討伐してくる。手伝えるなら手伝ってほしいんだけど」

『命令把握致しました。では、ご武運を』

「はーい。よし、じゃあ行きましょうフィッシュさん」

「ちょ、待って、まだ理解出来てないってか何それ!?」


私は混乱した様子のフィッシュを置いて、1人外へと飛び出る。

後ろからフィッシュが飛び出してきた気配もしているため、戦闘自体は問題無いだろう。

走行中の機関車から飛び出して無事に着地出来るか?と言われると私は「NO」と声高々に叫ぶことだろう。

しかしながら、今回は叫ぶような事はしない。


「【血狐】」


一言、呼べばクッションが自分の身体から出てくるのだから。

血の狐は、呼び出された状況を瞬時に理解し、そのまま私を受け止めながら着地する。

周囲には敵性モブが大量に寄ってきている状況だ。普通に1人で戦う場合は骨が折れる事だろう。

だが、今私は1人ではない。


「っとと……知ってるかい?人間って走ってる機関車から飛び降りちゃダメなんだぜ?」

「魔術なしの体術だけで着地してる人に言われたくないですよ、フィッシュさん」

「あは、それを言われると耳が痛いねぇ……じゃ、やろうか」

「はーい」


軽口を叩きながら。私達は敵性モブの方へと向き直る。

大小様々ではあるものの、どこか見たことのあるモブ達に鹿の角と燃えている尻尾が付いている形だ。

一応【平原】だからなのか、一番多く見られるのはイニティラビットだ。

しっかりと角と燃える尻尾を持ちながら、いつもと同じようにこちらを煽ってきている。


……敵性モブ特有の行動自体は変わってないのか。

他には何処か見覚えのある白色を基調とした狼や熊、大蛇などが見えているものの。

私は別に外にあれらを逃がしたつもりはないため、無関係だと宣言したい。

何やら霧を吐いているのが見えるがそれでもだ。


「【路を開く刃をネブラ】、【挑発】、【血液強化】」


3つの魔術を発声で。

追加で引き抜いた『面狐』を縦に振り下ろしつつ、足を踏み鳴らす。

【魔力付与】と【衝撃伝達】の発動用動作だ。

最後に周囲を濃い霧で覆うように狐面から霧を引き出せば、私の戦闘フィールドは完成だ。


何やら横でフィッシュも魔術を発動させているようだが、私は先に一歩、敵性モブ達の方へと踏み込んだ。

ぐん、と機関車とは違う重力が私の身体に掛かるのを感じながら。

一瞬で距離を詰められ、少し焦ったような表情をしているイニティラビットに対して笑いかけてやる。


「じゃあね」


霧の刃が切り刻む。

私が手を下すまでもなく、濃霧の中に仕込まれた霧の刃が一瞬で。

声を出す暇も与えずにイニティラビットを細切れにした。

それが合図となったのだろう。

周囲に居た敵性モブ達が一斉に私へと向かって飛び掛かってきた……のだが。


「おいおい、私も居るんだぜ?」


後ろからやってきた黒い狼獣人によって切られ、千切られ、そして食われていく。

正直な話、【平原】の敵性モブは弱い。それこそダンジョンに居るようなモブなどでない限りは、私もフィッシュも後れを取る事はない。

だからこそ、私のダンジョンから出てきているであろうモブが多数見えた時点で逃げに徹していたのだが。