タムが本を読み進める。
難しい語句がいっぱいである。
でも大体、ネフロスが説明してくれた通りだろうなぁと思った。
シンゴはタムの邪魔をせずに、カーテンと踊っている。
名前をつける前も後も、シンゴは変わらずカーテンと踊るのが好きらしい。
ぱらりとページをめくる音。
ずーっと遠くのほうで、アジトのギミックの音が聞こえる気がする。
いつもの、ごとーんごとーんとか言う音や、
からからからという音が、
小さく、かすかに聞こえる。
それほど静かなのだろう。
あれらの大掛かりギミックも、先ほどのプミラが設計したのだろうか。
タムは頬杖をついて考えた。
もしかしたら、エリクシルには、プロフェッショナルとか言うのが集っているのかもしれない。
グラスルーツ…これは多分電話とかみたいなものかな。
アイビーさんがそれ使うようだし…
プミラさんはギミックで、クロさんは水のプロで、
パキラさんとネフロスと、きっとポトスさんも、きっと戦いのプロフェッショナルに違いない!
タムは、なんだかすごくどきどきした。
すごいところにいるのではないかと思い始めた。
そして、目の前の本に視線を落とした。
「まずは勉強。プロでなくても、足手まといにならないように」
タムは一人で力強くうなずき、また、本を読み進めた。
本のページをいくつかめくったそのとき。
「タム!いるでござるか!」
扉から声がかかった。
特徴のある話し方から、声の主はわかったが、
何事かとタムは扉にかけていった。
「ポトスさん?」
「タム、話がしたく思う、開けてはくれないか」
タムはそっと扉を開けた。
格闘家を思うライム・ポトスこと、ポトスは…泣いていた。
タムはびっくりしたが、ポトスが入れるくらい扉を開き、
「中で話して」
と、ポトスを部屋の中に招き入れた。
ポトスは大きな身体で、タムの部屋に入ってきた。
相棒のリュウノヒゲも足元にいる。
タムは両方入ったことを確認すると、扉を閉めた。
「ベッドサイドしか座るところないけど。水でも入れる?」
「…結構でござる」
ポトスはベッドサイドに座った。
タムがいつも大きいと思っていたベッドが、なんだか小さく感じた。
部屋全体が小さく感じる。
そして、ポトスは鼻をすすったあと、ぐしゃぐしゃに泣き出した。
タムは隣に座った。
「なにかあった?」
タムとしては、さっきまで戦闘のプロと思っていた、ポトスがこんなに泣くなんて、
ぜんぜん想像していなかった。
まずは何があったのか、
なぜタムの部屋に来たのか。
それを聞こうと思った。
「…ベアーグラスが…」
ポトスはそこまで言うと、ズズッと鼻をすすった。
「拙者、ベアーグラスは完治して戻ってくる信じていたでござる…」
ポトスははらはらと涙を流し、両手で顔を覆った。
小さなタムを前に、人目もはばからずに泣いている。
ポトスの足元では、リュウノヒゲが悲しそうに足元でタムを見上げていた。
「おいで」
タムはリュウノヒゲに手を差し伸べ、肩へと乗せた。
「ポトスさん、聞いて」
タムは、ゆっくり話し出す。
「ベアーグラスは乾いたけど、最後に約束したんだ」
「約束、で、ござるか?」
「アイビーからは聞いていない?」
「その、拙者、ベアーグラスの事を聞いた途端…飛び出してここへと来たもので…」
「うん、ベアーグラスは僕と約束した。また、エリクシルにくると。僕はベアーグラスを待つと」
ポトスは驚きに目を見開いてタムを見た。
顔中涙だが、それは伝わった。
「ベアーグラスは必ず来る。風に導かれて。約束したんだ」
ポトスが涙をこらえる。口がへの字に曲がり、目が不自然に瞬き、
やがて、
「ありがとう、タム!ありがとう!」
と、ポトスはタムを激情のまま抱きしめ、わぁわぁ泣いた。
ポトスは疲れるまで泣くと、タムに何度も礼を言い、タムの部屋を後にした。
リュウノヒゲは最後にタムにくるっと回ってぴょんと跳ねた。
そして、彼らは部屋を後にした。
「ベアーグラスはきっとくるよね」
『タムがいればきっとくるよ』
シンゴと一言二言会話して、
タムは机に向かった。