51. さらなる闘志

 他にも何匹か飛行系魔物が飛び出してきたが、クレアは難なく撃墜し、あっという間に制空権を確保してしまった。


 こうなるともう一方的な虐殺である。追いついてきた千機を数えるドローンたちからは次々とゴーレム召喚用の魔道具が放たれ、地上で次々とゴーレムが雄たけびを上げていく。ゴーレムはフォンゲートを身に着けており、陸軍兵士はそこからの映像を見ながらゴーレムに音声指示を与え、操っていく。


 空からはドローンの炎槍イグニスジャベリンによる攻撃、地上ではゴーレムの火炎放射器による攻撃で魔物たちは次々と撃破されて行った。


 最後、街の教会に立てこもった魔物たちだったが、ゴーレムたちに建物そのものを破壊され、瓦礫の中から逃げ出してきた者も火炎放射器であっさりと燃やされて行った。


 グギャァァァ!


 最後の一匹が炎に包まれ、断末魔の悲鳴を上げながら倒れていく。


 Orangeタワーの最上階に作られた作戦指令室で、その姿が大画面に映し出されると、歓声が響き渡った。


「ウォォォ!」「やったぁ!」「すごいぞ!」


「Yes! 皆さん、ありがとう! お疲れ様でした!」


 タケルは拍手をしながら立ち上がり、将校たちをねぎらう。


「グレイピース伯爵、バンザーイ!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」


 将校たちは初戦の圧倒的な勝利に自信を深め、万歳を繰り返した。タケルは、うなずき、みんなの嬉しそうな顔を見回した。慣れない兵器をうまく扱い生かすために将校たちは日々研究し、訓練を進めてきたのだ。嬉しさもひとしおだろう。


 まだまだ始まったばかりだが、幸先のいいスタートにタケルはグッとこぶしを握った。



        ◇



 奥のソファを見るとオブザーバーで参加していたソリスとネヴィアがクッキーをポリポリかじりながら雑談していた。


 タケルは二人に近づいて行く。


「どうですか? 結構いい戦いだったと思うんですけど?」


「まぁ、火力は凄いわね。でも、それだけだわ」


 ソリスはつまんなそうな顔をして肩をすくめた。


「え? それだけ……?」


 タケルは予想外の渋い評価に顔を曇らせる。


「相手が私だったら勝てたと思う?」


「えっ!? ソリスさん相手に……ですか……?」


「そう。私を殺せるかしら?」


 タケルは腕を組んで考えた。大量のドローンとゴーレムで仕留められるか……? しかし、どう考えても殺せるイメージが湧かず、渋い顔で首をかしげた。


「無理よね? そりゃ数で押されるけれども、やられたりはしないわ。逃げながら数を減らす戦いを続けるだけなのよ」


「なるほど……。で、そう言うことができる敵が魔王軍にもいる……と?」


「分からないわ。でも、可能性としては十分にあるんじゃないかしら?」


 ソリスは余裕の笑みを浮かべ、コーヒーをすすった。


 タケルは大勝利の浮かれた気分も吹っ飛び、キュッと口を結ぶ。確かにただの魔物なら殲滅できるだろうが、魔人であればそう簡単には殺せないのだろう。


「我も殺されたりはせんぞ!」


 ネヴィアもドヤ顔でタケルを見る。


「まぁ、そうでしょうね……。分かりました。勉強になりました。ありがとうございます」


 タケルはペコリと頭を下げた。もちろんタケル自身もこれで魔王を倒せるとまでは思ってはいなかったが、自慢の軍隊をここまで酷評されると面白くない。この人たちを絶対驚かせてやると、タケルはさらなる攻撃力の増強に闘志を燃やした。



        ◇



 奪還した村には整備部隊を送り込んだ。警備のゴーレムを配置し、中心部を囲むように塀を設け、復旧の足掛かりを作っておく。やがて元の住民が戻ってくればまた活気が戻るだろう。


 タケルは寸暇を惜しんで新型兵器の開発に没頭する。例え魔人であっても確実に仕留められる、そんな兵器が無いと魔王の打倒は難しいし、安全に攻略ができない。潤沢にある金を使って安全にこの世界に平和をもたらすこと、それこそがタケルの目指す戦争なのだ。


 兵器の火力をアップするには、単純に魔石にある魔力をより多くエネルギーに変換するだけでいい。もっと言うなら、魔石そのものを直接エネルギーにしてしまえばいいのだ。こうすれば魔石は爆弾になる。しかし、どんなに高性能な爆弾を作っても敵に当てなければ意味がない。


 タケルは新型爆弾を実験機に搭載し、敵の頭上でバラバラとバラまいたりするなど実戦でどう生かしていくかを必死に研究していった。