第142話 配信開始

 ダンジョンハウスで五十嵐先輩と合流し、寧々ちゃんと先輩とママの合作である「サポーター用装備」を渡す。

 五十嵐先輩はそれを身につけると、アプリを開いて自分のステータスをチェックして歓声を上げた。


「わー、凄い凄い。まともに冒険者やってたら絶対お目にかかれないステータスだよ」

「そうですよねー。私たちが強いのも、武器防具のおかげですから」


 武器防具の補正でステータスが大幅に上昇して、そのおかげで本来の力量に見合わぬ強い敵を倒せ、結果LVが上がっているという順番だもんね。

 蓮なんかはまだ特訓してたから自分の努力の部分もあるけど、聖弥くんは全く特訓してなかったから。


「あ、そうそう。これね、寧々ちゃんから預かってる」

「そっか、ありがとうございます! ……えええええええ」


 五十嵐先輩から渡されたのは、寧々ちゃんにデザインを一任したヤマトの装備。

 白いTシャツなんだけど……。まあ着せるか。


 ヤマトは嫌がらずに服を着たけど、ママが「ブフォッ!」って凄い勢いで吹いてた。



 ダンジョンの1層で、準備万端整えて私たちは配信開始時間を待つ。

 いつもの格好の私と蓮と聖弥くん。

 お馴染みの「芋ジャー」こと初心者の服の上に、蛍光グリーンのメッシュゼッケンベストを被った五十嵐先輩。ぱっと見は「これからバスケでもするんですか」って感じ。

 ちなみに、胸のところに「サポーター」って白字で書いてある。わあ、わかりやすい。


 そして――。


「おい、いいのか、ゆ~か。ヤマトの扱いこれで」


 蓮の目が若干死んでる。

 いや、私の目も同じか。


 ヤマトの白Tシャツの背中には、すっごい達筆で「暴走犬」と書かれていた……。

 何? 寧々ちゃんのお父さんかおじさん、書家なの?

 ぶっとい筆で、流麗かつ勢いのほとばしる凄い書をありがとうございます……なんて言うと思うかー!!


 でも、でもなあ! 寧々ちゃんがそれにOKを出したって事は、私のごく身近な人も含めて、ヤマトのイメージってこの一言で言い表されるんだよね!!

 私にとっては「可愛い可愛いヤマト(ただし時々暴走する)」なのになあ。


「もう……いいよ、ウケが取れれば」


 力ない声も出ようってもんだよね。


 私ががっくりきてる理由はもうひとつ。

 蓮が全然びびってないのだ。平然としてる。

 せっかくアンデッドダンジョンを選んで来たのに!!


「じゃあ、配信始めようかー」


 楽しそうなのは聖弥くんと五十嵐先輩だ。


 10時になったので、配信用のスマホでourtuberを起動する。そして配信開始……。


「こんにちはー! Y quartetのダンジョン配信の時間です!」


『こんにちはー』

『聖弥くんが一番に出てくるとは珍しい』

『なんか後ろがどよんとしてるのはなんだ』


「蓮が絶叫するほど嫌がるだろうと思ってアンデッドダンジョンを選んだのに、全然怖がってないんですぅ……」


 うつろな目で私が言うと、コメント欄は大草原だ。

 いや、笑い事じゃないんですよ。笑い事か!


「俺は……ヤマトの扱いについて哲学してた」


 蓮は足下にいたヤマトをひょいと抱き上げ、カメラに映るように背中を向けさせた。


『これはこれはw』

『可愛い!』

『それでいいのか!?』

『これ以上ないほど的確じゃねえかw』


「暴走させないように頑張ります……」


 私もふにゃふにゃと言うしかないね。ちょっとぐにゃんとしてたら、横からツンツンと袖を引かれる。――あ、そうか。


「今回は中級ダンジョンで宝箱に罠が仕掛けられてることが目に見えてるので、念のためダンジョンエンジニアのゲストをお呼びしてます。どうぞー」


 私が振ると、黒髪ポニテというお揃いの髪型をした五十嵐先輩が元気いっぱいにカメラの画角に割り込んでくる。


「やっほー! 初めまして、ゆ~かの姉のミレイです! クラフト兼エンジニアだよ。よろしくねー!」


『姉!?』

『ゆ~かがもうひとりいるのかと思った!』

『姉いたの!?』

『寧々ちゃんが来ると思ってた!』

『似てるなあ』

『ああ、芋ジャーの神は我らを見捨ててはいなかった』


 わお、コメントの勢いすっごい。

 これは芋ジャー正解ですわ。それを当たり前のように着てる先輩も凄いけど。


「お姉ちゃんじゃないです! 学校の先輩! 先輩、この人たち本気にしちゃうから!」

「てへぺろ☆ 残念ながらお姉ちゃんじゃありませーん。同じ冒険者科の3年生でクラフト専攻でーす。今日は宝箱が出てきたときだけのお仕事なので、気楽に来ました!」


 ウインクしつつ舌をペロッと出すあざとい表情……。これはファンが付くわ。


「でもでもー。気持ちはゆ~かちゃんの姉だから!」

「私もね、お姉ちゃんと呼ぶことにやぶさかではないんだけどね! 女子同士でイチャイチャしてると蓮が『アホなの?』って視線を投げて来やがるからー」


『百合に割り込む男は死すべし』


「いや、割り込んでねーし」


 コメントに真顔で返す蓮。うん、こういうところは面白い。


『でも本当に似てる!』

『従姉妹か何かなの?』


「前に合宿でそういう話もでたんだけど、残念ながら私たち同士が認識してるレベルでは血は繋がってないです。他人の空似ってやつ?」

「私はねー、最初にヤマトテイムして走り回ってコケまくった動画見たとき、自分見てるみたいであちこち痛くなりましたよ。私はコケてないのに」

「共感性羞恥ですね」

「違うと思うな。じゃあ、行こうかー」


 私と先輩のおしゃべりが始まると止まらないので、聖弥くんが無理矢理ぶったぎって進行させる。蓮がそれに付いていって、私とヤマト、そしてミレイ先輩も後を追い。


 大一番の配信がとうとう始まった。