「……何やってんの」
私と五十嵐先輩が暴走してるところに通りかかった蓮が、すっごい呆れた顔でこっち見てくるよ!
それはいちいち突っ込むなよ! 女子にありがちなベタベタだよ!
「3年生の五十嵐先輩だよ。今度アイテムクラフトとかお願いしようと思ってLIME交換するとこだったの」
「今日から柚香ちゃんのお姉ちゃんだよー。イェイッ!」
黒髪ポニテで、ウインクしながら眼の横でピースをする五十嵐先輩。うん、こういうところが私と似てるんだよね。
「ええと、親戚?」
蓮と聖弥くんは戸惑い顔で、私と五十嵐先輩の顔を交互に見ている。それに対して私たちは首を振った。
「いや、多分そんなことは無いと思う」
「把握してる親戚の中にはいないね。どっかで血は繋がってるかもしれないけど」
揃って否定する私と五十嵐先輩。うん、私の親戚は千葉にいるけど神奈川にはいないのだ。
「ねえねえ、そういえば聞きたかったんだけど、Y quartetって、今後宝箱出たらどうするの?」
そしてさらりと重大な指摘をしてくる先輩。
それね。宝箱ってある程度進むと罠が仕掛けられてるからね……。
「えーと、聖弥くんが盾を構えて無理矢理罠解除、とか思ってました。毒矢なら防げる!」
「えっ、そんなこと考えてたの? 僕聞いてないんだけど! 爆発罠だったらどうするの!?」
「この防御力があれば防げる! と思う!」
「中身が駄目になるでしょー!?」
元気よく脳筋発言をした私に、その場の私以外の4人は仲良く頭を抱えた。
罠に関しては、手先が器用なら解除することができる。もちろん、練習をしないといけないけどね。
私や聖弥くんの補正後のDEXなら、細かい作業もたやすくできる。
ただし、ここにひとつ重大な問題がある。
罠解除には手先の器用さだけではなくて、知識が必要なのだ。
例えば、罠の種類を判別する知識や、その罠を解除するための知識。それがないと、正しく罠の解除をすることはできない。
私たちの装備だったら、確かに毒矢や爆発はダメージにならないかもしれないけど、罠によってはせっかくの宝箱の中身がダメになるかもしれないんだよね。
「そこでひとつ提案なんだけど」
何故か五十嵐先輩は、私と寧々ちゃんの肩を叩いた。
「装備作った余り布があるんだよね? ジャージタイプでいいから、1着作るのはどう? その装備があれば、私とか寧々ちゃんみたいなクラフトマンがダンジョンエンジニアになれるよ」
ダンジョンエンジニア!
それは確かに私たちのパーティーにはいない存在なんだよね!
高いDEXと専門知識を武器にするダンジョンエンジニアは、いわゆるシーフ的な役割だ。シーフって呼ばないのは、盗賊的なニュアンスはなんか違うって事らしい。
「寧々ちゃんはクラフトだし、ずっと冒険者するんだよね?」
「は、はい。そのつもりです」
五十嵐先輩の質問に、寧々ちゃんは慌てたように答える。それから先輩は私と蓮と聖弥くんの顔をぐるっと見た。
「でもさ、Y quartetって、誰も専業冒険者になるつもりがなかったよね? 多分柚香ちゃんがダンジョンエンジニア兼ねるってこともできるけど、そこまで勉強したくないなとか思ってたりしない?」
「思ってます!」
だって、正直面倒だもん!
私はテイマーになれればそれで良かったし、もうなっちゃったしね!
アイテムバッグというお宝も持ってるし、宝箱にそんなに目の色変える必要も無い。
蓮と聖弥くんもそうだと思う。ふたりはステータスアップと知名度アップが主目的であって、配信収入はおまけみたいなものだし。
「あっ……」
寧々ちゃんが察しました、という顔で口元を押さえる。
「固定じゃないサポートメンバーを入れればいいよ。戦力的にはもう十分だから、本当にサポートするだけの回替わりゲストみたいなものだね。クラフトはダンジョンエンジニアの訓練も本腰入れてやるし、Y quartetに入りたくはないけど、助っ人程度ならって思う人もいると思うよ。私以外にも」
「えっ、じゃあ五十嵐先輩はやってくれるつもりがあるんですか?」
「全然いいよー。だってお姉ちゃんだし! 私と寧々ちゃんなら身長もあんまり変わらないし、ジャージタイプだったらそこそこサイズの融通が利くじゃん?」
「おおおおおおお!」
確かに!
私たち3人の装備はサイズぴったりに作ってるけど、「サポーター用」なら確かにジャージでもあまり問題ないよね。戦闘は求めてないし。
「クラフトの2年3年から希望者募れば、そこそこやりたいって人いそう」
「そうですね! 例えばあいちゃんとかも……あ、あいちゃんは無理か」
「アイリちゃん無理なの? なんで?」
うっかりあいちゃんの名前を出したら、聖弥くんが突っ込んできた。まあ、そこは疑問に思うよね。事情を知らないから。
「アイリ、ノーメイクでの顔出しNGなんだよな」
「そうそう。だからダン配絶対出てくれないの」
SE-REN(仮)のMV撮るときに、その話は出てたのだ。だから蓮も知ってた。
ほへええ、と五十嵐先輩は感心したように頷く。
「さっすが、美少女ourtuber。徹底してるねー」
「プロ意識凄いんですよ。それは見習いたい」
寧々ちゃんも五十嵐先輩も、ちょい平均より背が高いってくらいで、確かに体型はそんなに変わらない。
学校ジャージなんか私も寧々ちゃんも先輩も、同じMサイズじゃないかな。
確かうちのクラスで一番背が高い女子である彩花ちゃんもMだから、Mサイズを作っておけば「小さくて着られない」はそうそう発生しないはず。
「ちょっと話詰めません? 寧々ちゃんと先輩が良ければ、私はサポーターになって欲しいな」
「僕も。今後やっぱり宝箱に遭遇したときのことを考えるとね。中級に潜ると他の罠も出てくるし」
聖弥くんも、今後の配信でどう見せるかを考えてるんだろうな。
蓮は、慌ててうんうんと頷いてたけど、こいつは多分あんまり考えてなさそう……。