村雨丸を抜いたときに露が出たもんで大はしゃぎしてしまったけど、私はもう一個技を入れないといけないんだよね。
アクロバットするから、ベルトごと村雨丸を外して、ちょっとウォーミングアップ。
「バク転とバク宙と後ろ回し蹴りとハンドスプリングどれがいい?」
「いや、どれがいいって言われても……おまえはMagical Huesをどうしたいんだよ」
蓮くんに聞いてみたら、質問で返ってきた。うーん、どうしたいと言われても「蓮くんや聖弥さんと被らないように私っぽさを入れる」としか考えてないんだけど。
「一通りやってみて、撮影して、いいの選べばいいじゃない?」
投げやりっぽくも聞こえるけど、正論なママの声。ではそうしますか。
そして一通りやってみて、4人で撮った動画見つつ意見を言い合い、採用されたのは後ろ回し蹴りだった。
理由は、他は顔があんまり映ってなくて、これだと顔がバッチリ映ってからの軸の回転でポニーテールがいい感じになびいてるから、って。
足の高さも凄いから、柔軟性が良く出てる、とはママのお褒めの言葉です。
「じゃあこれで、撮影は一通り終了ね。愛莉ちゃんお疲れ様。蓮くんはこのまま歌のレッスンして、明日のレコーディングのために仕上げるわよ。ユズは動画編集入っちゃって」
「イエスマム!」
「お疲れー。じゃ、私走って帰るわ。ヤマトは? 遊んで帰ろうと思ったんだけど」
「ヤマトお風呂だよ。まだ洗ってるんじゃないかな」
「残念。猫でもいいけど逃げられるんだよねー」
あいちゃんは猫を過激にモフろうとするから、我が家の猫たちからは嫌われてるね。
うちの猫たち、あんまりよその人に懐く子たちじゃないからなあ。
「あいちゃん、荷物あるし送っていこうか?」
「ゆーちゃん優しい! もうLV9になったからランニングしなくていいやって思ってたんだよね。じゃあこのメイク用品お願い」
言っても、歩いて10分くらいの距離だけどね。家は近いんだけど、ちょうど間の道路で小学校の学区が分かれてて、小学校だけ別だったんだよなー。
アイテムポーチにあいちゃんのメイク道具一式を入れて、何故か「もうランニングしなくていい」とか言ってたはずなのに私たちは結局走ってしまった。癖なんだよね……もう、癖になってる。
「動画のお披露目配信の時呼んでねー」
「いつになるかわからないけどねー」
平原家の玄関で荷物を出して、私はまたそこから走って戻る。
そういえばお昼どうするんだろう。ママは蓮くんに掛かりっきりだよね。
うーむ。
家に帰ったら、ちょうどドライヤーの音がしてた。ヤマトは結構ドライヤー好きなんだよね。温かいのが気持ちいいらしくて。
「パパー、お昼どうする? ママから何か聞いてる?」
「いや、何も聞いてないな。何か買ってくるか?」
「はっ! 待って、先にキッチン確認してくる」
一瞬嫌な予感がしたのでキッチンに行ってみたら、かたやきそばの袋とシーフードミックスがおいてあった。Oh! これは作れってことですね……。
また、シーフードミックスがいい具合に解凍されてるよ。きっと朝家を出る前に出しておいたんだろうなあ。
しょうがないから、一度普段着に着替えてきて、野菜適当に切って、冷蔵庫の豚肉も適当に切って、シーフードミックスと一緒にごま油で炒めて、中華風調味料とオイスターソースで適当に味付け。だいたいなんでもこれで中華っぽくなるんだ。
火が通ったら水溶き片栗粉を入れてあんかけにして、ここでストップだ! 私は麺はパリパリがいい派なので。
お皿4枚出して麺を載せて、ママと蓮くんを呼びに地下室へ。
「お昼ご飯できたよー」
「ありがと! あれでわかったでしょ?」
「パパが何か買ってこようかって言った時に瞬間的に嫌な予感がして、見に行ったら察しました」
ママはもう、「言わなくても見ればわかる」状況にするのをやめていただきたいね。
そして蓮くんは「おまえ料理できんの?」って顔に出すのをやめなさいよ!
「おまえ……」
「私、一応料理できるよ! そんなに難しい物は作れないけどね!」
キャンプのカレーとか焼きそばとか、そういうのは得意だよ! 調味料が2つまでの奴!
「だ、だよな。家庭科でもやるしな」
「そうそう、なんか蓮くんはさー、私のこと運動神経と運だけだと思ってるでしょ」
あ、目を逸らされた。これは図星って奴ですね。
「ユズは家の手伝いをよくしてくれるから、料理はある程度任せられるのよねー。カレーとかシチューとか。酢豚は厳しいけど、肉じゃがも作れるし」
「うん、肉じゃがはお肉とジャガイモとタマネギを切って、圧力鍋でコーラと一緒に煮ればできあがり!」
「圧力鍋が使えるのホント偉い!
えへん! 褒められるとやる気が出るよね。
ずっと解せぬわーって顔してる蓮くんを連れてダイニングに戻って、パパの隣に座らせる。
お皿を並べてからあんかけを掛けたら、「うわっ、まとも!」とか失礼な事を言われました。
食べてる時も「普通に美味い」とか言われたから、チューブからし握ったままで「それは褒め言葉? ディスり?」と聞いたら「褒めてる褒めてる!」って慌ててお皿をガードされた。
いや、そんな怯えた目で見なくても、からし掛けたりしないわ。これは今私が自分のに掛けようと思ったんだよ。
お昼の後は、それぞれ歌のレッスンと動画編集に。
ヤマトは私に付いてきて「ちょーだい」って顔をしてるので、魔石出してあげました。早速尻尾ぶんぶん振りながら、魔石をガジガジし始めるヤマト。
魔石、美味しいのかなあ。それとも、歯ごたえがいいのかなあ。
……今度かじってみようかな。