「先生! 質問があります! 装備でステータス修正がある状態で訓練をしたら、LVアップ時のステータスの上がり方に影響はありますか?」
「おー、いい質問だな。そういえば凄い武器だったな、柳川の【村雨丸】。あのステータス補正がある状態でした訓練も、ちゃんとLVが上がるときに反映されるぞ。
例えば、柳川の素のVITが20で修正が+80だったよな? 合計100のVITでフルマラソン全力疾走したら、次にステータスが上がるときに上昇率が良くなる。うまく訓練に使うといいぞ。
だけど今その話してたんじゃないんだ! 罠解除の話だよ。せめて休み時間に聞いてくれれば良かった」
おおっとー! 先生も配信見てたんだ!? 私のステータスも村雨丸の補正も把握済みって。
そして、関係ない話するなとちょっと怒られてしまった。すみません、突然気になったもので。
今日の座学、ダンジョン学は罠の話。実際にある罠の種類と対処法についてだ。まだ私は罠がある宝箱に遭遇したことはないんだけど、この先ダンジョン潜ってたら絶対に必要な知識なんだよね。
「はーい、すみませんでした! 毒矢罠のお話の続きをお願いします!」
「ちょっと待て、今みんなLV10前の訓練期間だな? ちょうどいいからステータス補正と上昇率について話をしておこう。はい、そこ、いきなり聞く気を出しましたって姿勢に表すのはやめろ。罠の話も大事だからな?」
まあ、ちょっと先に遭遇するであろう宝箱の罠の話より、ステータス補正と上昇率の方がみんな真剣に聞きたいよね……なんでカリキュラムでそっちが先になってないんだろうか。
「ステータスはLV9になるまでは、そこに至るまで何をしてきたかという点で上昇率が変化する。ダンジョンアプリを入れて冒険者登録をした時点での初期値は、生まれてからそれまでの経験が蓄積された数値になるわけだな。もっとも、ここは一番大きいはずなんだが、初期値はそう極端には個人差は出ない。
現在ダンジョン法によって、冒険者登録は15歳以上かつ中学卒業以降と定められている。15歳でも中学生のうちはダメだってことだな。
そして、初期ステータスだが、現在確認されているHPの最低値は20、MPの最低値は3、後のステータスは全て2が最低値だ」
今――とんでもない話を先生の口から聞いてしまった!!!!
私のMAGとRST、LV1の時は2だったんですけどー! あれって最低値なんだー!?
なにげに凄くショックを受けてる私を置き去りにしつつ、授業は進む。
「最高値の方はHPが50で、MPが30。その他のステータスは10。これはあくまで『現在確認されている』が前提の話だぞ。もしかすると公に確認されていないだけで、それ以外のステータスを初期で持ってた人もいるかもしれない。
15歳から70歳までサンプルはいろいろ取っているが、現在のところ若いから低い、高齢で経験を積んでるはずだから初期値が凄く高いと言えるような根拠のある数字は出てないんだ。
どちらかというと、15歳までにやってきたことで仮の上昇率が決定していて、LV1を取得してからの行動はそれにボーナスで付いていると思った方がわかりやすい。MAGが上がりにくいと言われてるのはこのせいだな。15歳までに魔力を使う機会がある人間は稀だから。魔力は才能依存、遺伝依存って言われる所以だ」
おや? 私の周りに天然魔法使いがいるんだけど、あれはなんなんでしょうね……。
やっぱり素質なのか、蓮くんずるいなー。
「先生、さっきVIT補正を付けて全力で走ればより上がりやすいって言ってましたけど、STR補正を付けてモンスを叩くと倒しちゃいませんか?」
私が蓮くんを呪っている間に、男子が手を上げて質問している。先生はそれに頷いた。
「その通り。STRにボーナスを付けたくて補正を付けて攻撃をすると、確かにステータスは上がるがモンスターを倒してしまうことが多くて、結果LVアップが早くなってしまう。
そこで、補正と上昇についてひとつの例外事項を教えておこう。『プラスの補正は上昇率に影響を与える。しかし、装備品によりマイナスの補正が付いても、素のステータスの成長率が適応される』と言うものだ。つまり、素と補正後、高い方の数値が上昇に関わってくるってことだな。
なまくらの剣ってあるだろう? クラフトでデフォルトレシピで作れる装備だが、あれの補正がSTR-5だ。力が強くて予定外にモンスターを倒してしまうという場合はこれを使うのもひとつの方法だな」
「私それやりました! あいちゃんにタングステンでなまくらの剣作って貰って!」
「そのアーカイブ先生も見たぞ。教える前に既にやってたから驚いた。しかもタングステンとはなあ……平原、エグいな」
「てへっ」
「タングステンはレアメタルだが、ダンジョンでも採掘されるようになって今では『レア』は有名無実化してるな。金属の中では最も融点が高くて電気抵抗が大きいから、電気関係に使われることが多い。
だが、最近の使い方では『その重さを利用して訓練用の武器にする』こともある。柳川のやっていた『タングステン製の【なまくらの剣】で実質手加減攻撃を繰り出せ、筋力も鍛えられる』方法は安全性も高い。
じゃあハイリスクハイリターンの鍛え方は、という話なんだが……」
教室中が前のめりになる。ハイリスクハイリターンの鍛え方! そんなものがあるんだ!
「ハイリスクってところに問題があって、先生の口からは教えられない」
そう言いながら先生は黒板に「ゴーレム師匠とスパーリング」と書き込んだ。
口からは教えられないけど板書はしてくれるんだね……。
それにしてもゴーレム師匠? それはいかにも強そうですね?
「意味は各自調べろー。先生が言えることはこれ以上はない。――おっ、ちょうどチャイムが鳴ったな。質問があったら板書したこと以外なら休み時間に答えるぞ-」
みんな一斉にスマホを取り出して「ゴーレム師匠 スパーリング」について調べ始めた模様。私は後で誰かに教えて貰おう。
とりあえずの最優先事項は、今聞いた話を蓮くんにすることだ。
「今授業で聞いたんだけど、装備でステータス上げた状態での訓練の方が効率的なんだって! 今日からロータスロッド持って走って!」
急いで送信したら、割とすぐ返信が来た。
『おまえ……他人事だと思って軽く言うなよ。あの全長80センチの杖を持って走れってマジか』
「マジだよ。VITも上がってるから今より速く長距離走れるよ。絶対やれ」
『命令形きた。ちょっと方法考えさせろ。なんとかする』
蓮くんの場合、あの蓮の蕾付きの杖を持って走ることになるけども――確かに、他人事だからいいけど、あれ持って走るのは目立って嫌かも。
私の村雨丸は、刀袋に入れて背中に背負おうっと!