気持ちはわかる。私も人の配信見てて、その人の母親がサンバの仮面付けて出て来たらそりゃ驚くもんね。
「では、刀についての説明をと言われているので、遠慮なく。
みなさんは刀と聞くとお侍さんが腰に大小の刀を差してるのを想像するのが多いんじゃないかしら? あれは江戸時代に『武家諸法度』の中で
「待ったー!! 誰がそこまで詳しく語れとお願いしましたか!? 私多少知ってるつもりだったけど、聞いてて何が何だかわかりませんでした!!」
私は思いっきりサンバ仮面を画面の外まで押し出した。
いやもう、そりゃ説明してとは言ったけど、刀の簡単な分類くらいかと思ってたよ。まさか延々と歴史を語られるとは……。
「やだー! せめてもうちょっと話させてよー! 打刀の特徴だけ、ちょっとだけ、ちょっとだけだからぁー!!」
『ママさん……』
『話させておあげ……語りたいんだよ』
『ゆ~かが大人になるとこんななんだろうか』
『大人げないママ可愛い』
『いや、割と面白いよ』
『むしろお経のような感じで聞いていた』
『サンバ仮面が日本刀を語る絵面がほんとシュール』
画面の外から聞こえるママの駄々をこねる声に、同情のコメントが相次ぐ。
マジですか……。
「みんな心広くない? 詐欺とか遭ってない? 大丈夫? ……じゃあ、あとちょっとだけだよ。ママー、本当にあとちょっとだけだからね」
「やった! みんな大好き~! ゆ~かの村雨丸は太刀だけど、時代が下ってくると
「長い!! もうダメ! イエローカード2枚目! ハイ退場!」
私はまたもやサンバ仮面状態のママを押しだそうとした。ところが、ママは私とがっぷり四つに組んだまま、話し続けるじゃありませんか! なんという執念!
「江戸時代になって戦乱の時代が終わると、実践剣術は衰えていって竹刀で練習をする道場が増えてくるの! そうするとますます刀の反りはなくなって、竹刀での戦いの形が刀にも反映されてくるわ。結果、有効な戦法として『突き』が目立ってくるようになります! だから、刀を見るときには反りを見ると大体の年代が」
「そうとも限らないんじゃない!? 腰反りの太刀とか
「やだやだー! 最後に推し刀についてだけ語らせてー! 刀は湿度に弱いから乾燥している冬の間1ヶ月だけ展示される国宝・
「くっ!! 全力で押してるつもりなのにびくともしない!! ママ、なんでこんなに踏ん張りが利くの!?」
「スリッパの裏にゴムのブツブツ付けてきた!」
「反則にも程があるじゃん!?
『JK冒険者の配信を見てたつもりが、何故か相撲を見ている件』
『ほんとそれ』
『この親にして村雨丸ありとみた……』
『刀に縁のある血筋か……』
『前代未聞のカオス回だな』
「圧切長谷部は私も見たけど、殺意バリバリに高い刀でした! 以上! ゆ~かの新武器お披露目会でしたー!」
「ちょっとゆ~か! 推し刀だけ語らせてって言ったでしょ!? まだ
「義元左文字もなんか恐ろしく殺意高い刀でした! ママは殺意高い刀が好きみたいです!! それでは、おやすみなさーい!」
ママから手を離して、強引に配信を終わらせる。ハァハァ……ヤマトの暴走よりある意味厄介だった……。こういうことになるとママが強すぎる。
「義元左文字は歴代の持ち主の名から
ママってば、配信終わってるのにまだしゃべってる……。
前に蓮くんに「刀の事ならママに聞けば2時間くらい語ってくれるよ」って言ったことがあるけど、多分ガチで語らせたら一晩語るやつだわ、これ……。