第46話 逆パワーレベリング

 なまくらの剣と初心者3点セットをアイテムバッグに入れて、いざダンジョンへ!

 ヤマトは「出かけるのに連れてってくれないの!?」って顔をして玄関まで付いてきたけど、ごめん、ごめん、今君を連れて行くとLVが無駄に上がっちゃうんだ。


 ママが運転する車で、先に次に蓮くんを拾い、寧々ちゃんを拾い、向かうは海老名国分寺ダンジョン。


「友達の寧々ちゃんです」

「柚香ちゃんのクラスメイトの法月寧々です。よろしくお願いします」


 私が紹介したら、車に乗る前にママと蓮くんに挨拶する寧々ちゃん。端から見ても緊張してる。内気さんだからねえ……。


「よろしく……ゆ~かのクラスメイトなのか。学校大変なんだろ? 放課後にダンジョンとか大丈夫か?」


 冒険者科の話を聞いてからうちの学校を恐れてる蓮くんが、寧々ちゃんを心配してる。そういえば彼は私以外の冒険者科の子に会うのは初めてだな。


「最初は物凄く辛かったです。今でも辛いけど、辛くても頑張ってるのはみんな一緒だから……昨日柚香ちゃんが一緒に卒業しようねって言ってくれて、嬉しかった」

「ブートキャンプ2ヶ月一緒に過ごしてきたんだよ、うちのクラスの結束は1年生の他のどのクラスにも負けないよ! あと、国分寺ダンジョンに着いたら念のため寧々ちゃんには先に上級ポーション飲んで貰って、もう1本帰りに渡すからそれは明日飲んで」

「ええっ、上級ポーション!? いいの? あれって結構……」

「その先は言わない! 寧々ちゃんは学校で疲れてるのに、私たちの特訓に協力してくれるんだからこれくらい当たり前だよ。それに、私今通帳の0が数えられない大金持ちだから」

「……おまえが俺にもその調子で上級ポーションを先に渡してくれていたら……」


 蓮くんが助手席でぼやいた。寧々ちゃんがちょっと人見知りだから、私と寧々ちゃんが後部座席に座って、蓮くんは助手席なのだ。


「それについてはすみません。配慮が足りませんでした。あとお金も。おととい振り込まれたから今はあるんだけど」

「あ、えーと、いや……素直に謝られると調子狂うな……。うん、わざわざ上級ポーション届けて貰ったし、ゆ~かの協力には感謝してる」

「素直な蓮くん気持ち悪っ!」

「その言葉そのままブーメランで返すぞ!」


 後部座席を振り向いて蓮くんがわめく。寧々ちゃんはちょっとびっくりした後、口を押さえてくくっと小さく笑った。


「安永蓮くんって、本物のアイドルっていうから凄い緊張してたの。でも柚香ちゃんの配信に出てたときそのまんまなんだね。安心しちゃった」

「でしょー? なのにこのイケメンヒーラーときたら、これで『配信の時はキャラ作ってる』とか言うんだよ? どう見ても素だよね」

「うん、柚香ちゃんがクラスの男子と話してるときと同じだね。……確かに、凄くかっこいいんだけど」


 蓮くんは肩を落として、助手席でおとなしくなった。かっこいいって言われたんだからそこくらい喜べばいいのに。


「蓮くんはもう、素なのを売りにしなさいよ。まだ演技力がないからキャラが作れてないわ」


 あ、ママがとどめを刺した……。


「……メンタルに効くポーションってあるのか?」

「マジックポーションなら売ってるけど、聞いたことないね」

「いや、そこマジで答えなくていいんだよ」


 蓮くんは後ろから見ててもわかるくらいどんよりしてしまった。



 国分寺ダンジョンのダンジョンハウスで、まずは寧々ちゃんの分の初心者の剣と初心者の服、あと上級ポーションを多めにお買い物。普通のポーションと中級ポーションも常備薬兼私の疲労回復用として買っておく。

 ママは私たちがダンジョンに潜ってる間、夕飯の買い物とかに行ってくると言って車で去って行った。


 今まで私が使ってた初心者の剣と盾は蓮くんに。この装備の重さもトレーニングになる。


 そして、芋ジャーが3人揃ったところでダンジョンに入って、今日の配信開始!


「こんにちワンコ~! SE-REN(仮)のダンジョン特訓、はっじまっるよー!」

「今日も配信見てくれてありがとな。前回は地獄の追いかけっこだったけど、今日は俺たちが実際に武器でモンスターにダメージを与えて、パーティー組んでない奴にとどめを刺して貰うっていう特訓だ」


『こんにちワンコー』

『蓮くんこんにちは』

『なるほど、確かに実戦の方が鍛えられる』

『こんにちはー。今会社の帰りに見てる』

『逆パワーレベリングってことだな』

『それで、ゆ~かは【なまくらの剣】なのか?』


 昨日のうちにちゃんと予告してたから最初から割と人がいる。

 今日は学校後にふたりを拾いつつ、最寄りじゃないダンジョンに来てるからちょっと時間が遅いんだよね。


「お仕事帰りの人、お疲れ様! 私たちはこれから疲れることをします!

 これ、【なまくらの剣】! 見て見て、なまくらどころじゃないの、刃がないの。剣じゃなくてただの鈍器だよね。しかもあいちゃんにタングステンで作って貰ったからめちゃくちゃ重くて、期待しかありません!」


『そこで期待するんだ』

『ゆ~か、恐ろしい子……』

『ゆ~かのSTR14だったよな、-5しても9か』

『蓮くんのSTR6だから、【初心者の剣】で+3しても9だね』


 コメントを目にして、私と蓮くんははっと顔を見合わせた。


「ダメージ値がこのハンデで一緒……?」

「9ってことは、ギリスライムを殺さなくて済む! 私LV1のとき6で、LV2で8になって、そこでスライム一撃になったから。やったー!

 それでは、とどめ担当として特訓をお手伝いしてくれるお友達を紹介します! 寧々ちゃんです!」


 私が拍手して見せたところで、蓮くんも我に返って拍手する。-5と+3で同じダメージ値になったというのが地味にまたメンタルにダメージを与えてしまった模様。


 打ち合わせ通りに、寧々ちゃんがここでカメラの範囲に入ってきて……。


「ゆ……ゆ~かちゃんのクラスメイトの法月寧々です。よろしくお願いします」

「寧々ちゃん!? フルネーム言う必要ないんだよ!? これ配信で見ようと思ったら全世界から見られちゃうんだよ!?」

「え? え? あ、そうだよね! そうだった!」


 カメラに向かってお辞儀までした寧々ちゃんに私は焦った。今ほどライブで焦ったことないよ! 最初に「柚香ちゃん」ってつい言おうとしてたのも怖かった!

 指摘された寧々ちゃんも「やばっ!」って顔であわあわしてる。


『三つ編み眼鏡芋ジャー天然JKだと……?』

『属性全部盛りじゃないか。ウルトラレアだぞ』

『フルネーム言ったらだめぇぇぇ!』

『身バレしちゃうよ!』


 コメント欄も注意喚起でいっぱいだ。それを見た寧々ちゃんは許容範囲をオーバーしたのか、まさかの行動に出た!


「法月、法月寧々です! 法律の法に月と書いて法月、寧々は安寧の寧がふたつです! クラフトマンを目指してます! 伯父がやってる伝説金属から繊維を作れる寒川町の法月紡績株式会社をよろしくお願いします! それと、父の法月たけしはLV40クラフトマンで、法月紡績で伝説金属から作った布を使って伝説金属製布防具を作れます! 金属持ち込みでセットで頼むと割引もあります! こちらもよろしくお願いします!」


 あーーーーーーーーー。

 なるほどですねーーーーーーーーーーーー。


 凄い勢いで言い切った寧々ちゃんに、私は思わず拍手した。


 フルネーム言っちゃったから開き直りもあるんだろうけど、宣伝に利用したか。寧々ちゃん意外にちゃっかりしてるなあ。