異変-布石-

 ー少し前。

『ーっ!マスター、-来ました-』

「ありがとう」

 俺と通信をしていたカノンは、冷静に『暴徒』がスクールに来た事を告げた。なので、俺は『お仕事モード』に変身し素早く廊下に飛び出た。


 ー…っ。…はあ、それにしてもまさかここまで予想通りだったとはな……。

 直後、アラートが鳴り間髪入れずにドアにロックが掛かり防衛シャッターが展開した。それを見て、俺はこの時ばかりは自分の予想が的中していた事が嫌になった。…それと同時に、『甘言に誑かされたアホ達』に果てしなく呆れる。

 まあ、つまり俺は『こうなる事』…『一般ハンター達』が生徒を盾にして『俺達に-手掛かり-から手を引かせる』を予想していたのだ。

 …勿論、事前に止める事は出来たがあえてしなかった。理由は2つ。

 1つは、今回の事を大々的に報道させ『かの企業』のイメージダウンを図る為。…それと同時に、『最初の馬鹿』に『もう1人の馬鹿がやらかしたぞ』と懇切丁寧に教えてあげる為だ。

 そして、もう1つは『一般ハンター』達に『支援者』となって貰う為だ。…そもそも、この状況は彼らが甘言に引っ掛かったのが原因だ。

 だから、二度と『引っ掛からないよう』にする為に…そして『イリーガルな組織に協力した事を見逃す代わり』に監視付きで『支援者』となって貰う事になったのだ。


『ーっ!誰だっ!』

 昨日『上』と協議した事を思い出していると、進行方向にターゲット…『ウサギのレプリカ』で身を固めた一般ハンター数名が居た。

『こちら、ライトサイドッ!-抵抗勢力-を確認したっ!速やかに対象するっ!』

 そして、その内の1人が迅速に『全体』に通達した。…にしても、『言ってくれる』じゃないか。

 若干イラッとしていると、一般ハンター達はこちらに『レーザーガン』を向けた。…そして、『スタッフの格好』をしている俺に一切の躊躇なくトリガーを引いた。

『ーハッ、大人しく隅でブルッてりゃ良かったのによっ!ヒーロー気取るから……がっ!?』

 ハンターの誰かが嘲笑を浮かべるが、余裕で回避した俺はそいつにバトンで『キツい』のをお見舞いしてやる。すると、そいつは彼方奥まで吹っ飛んで行った。

『……ぇ……』

『…っ!?何者…ふぎゃっ!?』

 完全に油断していたそいつらは唖然と…そして、錆び付いたマシンのような『擬音』が聞こえて来そうなくらいのスロースピードでそちらを見た。…勿論、直ぐに次の手を打ってくる良い反応を見せるヤツもいたが直ぐにそいつの脛にスウィングをぶちかます。当然そいつは、片足を抱えて飛び跳ねた。

『…っ!しまー』

『ーギャッ!?』

『あびゃっ!?』

 そして、残りのヤツらも即効で無力化した。…やれやれ、『スーツ』の機能をまるで生かし切れていないな。…まあ、それ以前に『未熟』だが。良くまあ、こんなんで『宙』に出ようしたよな。…っと。

『ーGAW!』

『PYE!』

 心底呆れつつ、準備ルームに潜ませていた『トラ』と『トリ』をコールする。直後、サポーター達は速やかにハンター達を『正常化』していった。…しかし、『ヒュプノシステム』をここまで『マッド改造』しているとは思わなかったな……。

 それを見届けつつ、初めて敵の『技術』に恐れを抱いた。


 ー要するに、敵は一般ハンター達を『リモート洗脳』したのだ。…まず、最初に来たメールには『サブリミナル』を仕込んだ商品ムービーがあった。…その内容は、『手掛かりを掴んだ未来』だからか彼らは大いに食い付いたのだろう。

 そして、メールから飛んだ先のサイトはアクセスした瞬間にその端末に『ヒュプノプログラム』を送るという、仮に『こっち』で作ろモノなら『違法サイト』扱い間違い無しのモノだ。

 そこで、がっつりと洗脳された彼らは『レプリカ』数種類と『とあるプログラムチップ』を購入した。…まあ、『レプリカ』は予想通りとして問題はその『プログラムチップ』だ。

 なんと、『それ』にはかなりヤバい『ウィルスプログラム』が入っているらしいのだ。

 それは、『データ流出』と『データ改竄』と『リモートコントロール』。…つまり、『機密データを自由に引き出せ』尚且つ『かの企業に都合の良いようにデータを改竄出来き』、その上『星系の全てのシステムを何処にいてもコントロール可能』にしてしまうモノなのだ。

 そんなモノがインストールされたら、この『研鑽の銀河』と称えられたイデーヴェスはいずれ『魔都』と呼ばれるようなおぞましい環境になってしまうだろう。

 …それを防ぐ為には、ホントはさっき考えた通り事前にハンター達を取っ捕まえた方が安全なのだが、それでも俺は『これ以上後手に回らないようにする為』にあえて彼らに行動を起こさせたのだ。

 ー無論、『生徒・職員・関係者』並びに『星系の全施設』には『絶対に被害』を出さないという誓約をした上で提案をしているのだが…。…あまりに彼らが『残念』なせいでちょっと『心配』になってきたな……。


『ーGAW!』

『PYE!』

 若干不安になっていると、サポーター達は『作業終了』を告げた。なので、俺は頭を切り替え『作業』を始める。…いや、それにしてもホント先んじで『外の味方』を得ていてのが幸いした。まさか、『移民組の家族』が同様の『メール』を持っていたとは思わなかったよ…。

 おかげで、迅速に策を立て協議する時間が出来たのだから。

 そんな事を考えながら、『レプリカ』のシステムへの『仲介準備』を進めていく。…良し。

 俺は、『レプリカ』の背中にある『コア』にまるでクリスタルような透き通る身体の『ヘビ』……『新たなタイプ』である『ダイビングチルドレン-CYBER-』達を噛み付かせ終え、カノープスに通信を送る。

『ーこちらカノープス。お手数お掛けしました。

 …それでは、オーダーをお願いします』

「どういたしまして。

 ー『サイバーダイビング』、発動」

『イエス、マスター。-サイバーダイビング-発動しますー』

『ーな、なんだっ!?』

『う、動か…うわっ!?』

『な、なにしやがるっ!?…まさか、お前ー』

 向こうにいるカノンが復唱した、次の瞬間。スクール施設のあちらこちらから、『イヤー』を通して混乱の声が聞こえて来た。…始まったな。

「ご苦労様、カノン。…これで、こっちは大丈夫だろう。

 んじゃ、またちょっと通信を閉じる」

『畏まりました。お気をつけ下さい』

 そこで通信は途切れ、俺は『同志討ち』を始めたハンター達の元に向かう。…確か、こっちだったよな。


『ークソッ!まさか、-裏切り者-が混じっていたとはなっ!』

『ち、違っー』

『何が違うんだっ!-これ-も、テメぇの仕込みだろうがっ!』

 一番近くの『現場』に向かっていると、そこから修羅場のような空気が伝わって来た。…はあ、結局彼らも『アウトロー』とさほど変わらないな。…ちょっと考えれば、『違う』と気付きそうなモノだが。

『ーだあ、脱げたっ!…覚悟しやがれっ!』

 そして、もう少しでそこにたどり着こうとしたその時…『最悪な結末』が発生しそうな予感がした。

「ーコォォォォッ!『フルアクセル』ッ!」

 俺は即座に『リミッター』を外し、直後『超高速』で駆け出した。

『ー星になりやがれっ!』

 そして、瞬時に現場にたどり着くと言葉の通り『星になりそう』な状況だったのですかさず『ワープバット』達を急行させる。

 すると、怒り狂ったハンター達が放った極太のレーザービームはバットによって『外』に飛ばされた。

「ー…は?」

「…っ!まさかー」

「ー『激突六連』」

 そして、直後俺は唖然とする彼らの間をすり抜けながらそれぞれに攻撃を打ち込んで行った。

『ー……ぁ………』

 当然、彼らは訳も分からないまま吹き飛ばされながら意識を手放した。…ふう。危なかった。……っと、どうやらゆっくりしている場合ではないな。

 安堵のため息を吐いていると、不意に直ぐ近くから『ロック解除』の音が聞こえた。…恐らく、『リモート』で開けている最中だったのだろう。

 ーっ!

 とりあえず中に居る関係者を安心させようとゆっくりと開いて行くドアに近くが、前に立った瞬間『人工的熱源』を感知したので再度『ワープ』を展開した。