二日目-布石-

「-ひょっとして、あの軍人さんとお知り合いなのですか?」

 すると、入れ替わるように女史が『興味津々』な表情で聞いて来た。…本当、何故女性はこういう時の勘が良いのだろうか?

 俺は純粋な疑問を抱きつつ頷く。

「…此処に来る前の『仕事』で協力して頂いたんです」

「…それって『ブルタウオウ』の一件かしら?」

「…やっぱり、お気付きでしたか」

「それは勿論。…でも、なんだか『それだけ』ではないような気がするのですが?」

 …マジで鋭いな。

「-…クルーガー殿、あまり他人のプライベートに踏み込むのは良くまりませんぞ?」

 ちょっと押されていると、ジュール氏がもう一人の男を担いで女史をたしなめた。


「…あらいけない。失礼しました」

「…いえ」

「…さて、そろそろ迎えの車が来る筈ですのでそのまま『基地』まで向かいましょう」

「…え?…あの、一緒に来て頂かなくても私一人が行けば-」

「-確かに、『それだけ』ならお前さんだけで事足りるが『これから』を考えると今の内に『済ませておいた方』が良いからだ」

 すると、スタッフを引き連れたマオ氏は意味深な事を言う。

「では、私は引き渡して来ますね-」

 ジュール氏は素早く警備隊の車両に駆け寄り、ダッシュで戻って来た。

「-お待たせしました」

「…それでは皆様、車にお乗りください」

 そして、お三方と俺は大型車に乗り込み警備隊の基地へと向う。



「-しかし、『連中』は何を考えているのでしょうか?…例えエントリーカードを盗んでも代わりに参加出来る筈はありませんし、何より再発行出来るので『不参加』にする事は出来ません。…なのに-」

「「-……」」

 その道中、ジュール氏は疑問を口にしつつ俺を見た。当然、女史とマオ氏もこちらを向く。

「…これはあくまでも推測に過ぎませんが、『捕まる事自体』が目的なのかもしれません」

「…はい?」

「…つまり、敵は『こうなる事』を予測していたと?」

 女史もジュール氏も、更に疑問を深める。

「…まさか、『仕込み』をする気か?」

 しかし、マオ氏だけは俺の言わんとする事に気付いたようだ。


「…でしょうね。ステルス機能を搭載した『オモチャ』での諜報活動、はたまた『騒動』に合わせて基地で破壊工作し戦力の分断。

 まあ、両方をやるつもりでしょうね」

「…どうやって実行に移すつもりなのですか?拘留された時点で所持品は全て没収される筈ですよね?」

「…そうですね。『ヘビの鱗』で隠して持ち込む気なのでしょう」

「…あ」

「…それが、有りましたか……。…ちょっと待って下さい。

 …もしそうなら、既に『仕込み』は行われているのでは?」

 ジュール氏は緊迫した様子で聞いて来るが、俺は首を振った。

「あり得ませんよ。

 何故なら-」

「-お話中申し訳ありません。そろそろ到着致します」

 俺が窓の外を見たタイミングで、スタッフが声を掛けて来た。


「…まさか、『対策済み』なのか?」

「『そろそろ見える』頃ですので、ご覧下さい」

「…はい?」

「……な、何ですか?あれは…」

「……」

 窓の外を見たお三方は、唖然とした。…何故なら、敷地には大量のデカい『ケージ』が所狭しと置かれていたのだ。

「…続きはブリーフィングルームでお願いします」

「「「……」」」

 そして、そのまま車は地下駐車場に入り俺とお三方は素早く車を降りた。



 -数分後。俺は一旦更衣室に入り『仕事モード』になってから、ブリーフィングルームに向かう。

「-っ!エージェント・プラトー、来てくれたか…」

『っ!』

「遅くなって申し訳ありません。…それで、現状はどうなっていますか?」

 レーグニッツ少佐に聞くと、少佐はエアウィンドウを展開した。

「…現在、およそ50人の『被疑者』を拘束している。勿論君の提案通り『全員別々』のケージに拘留している」

「ありがとうございます。…あ、『怪我』をされた方は?」

「参加者は勿論、警備隊の誰も負傷はないから安心してくれ」

「…そうですか」


「…ところで、何故『彼ら』と一緒に来たのかな?」

 ホッとしていると、少佐は俺の後ろに陣取るお三方について聞いてきた。

「(…うわ~、凄い存在感だ…。)まあ、殆ど成り行きです。…あ、既にお三方は『事情を把握』済みですのでご安心を」

「…っ!…いや、よくよく考えれば『知っていても』不思議はないか……。…だが、『理由』は分からないな……」

「まあ、その辺はご本人達に聞いてみましょう」

「…分かった。

 -それでは、予定の時間より少し早いですが『二回目の会議』を始めます。…まずは、現在分かっている事についてですが、君」

「ハッ!」

 少佐が後ろに視線を送ると副官の人が敬礼し、正面のモニターに『外の様子』を表示した。


「今より30分前、セントラル地区サウスエリアF-23区画にて2件の窃盗事件が発生。被害に遭われたのは『大会』に出場予定の『傭兵』の方々です。

 そして、犯人は『この男達』です」

 すると、モニターは切り替わり画面の右と左手で別々のケージの内部を映し出した。

「それから1分後、隣接するF-21区画にて同様の事件が4件発生。それから-」

 彼は淡々と、今に至るまでの状況を説明した。…人海戦術の極みだな。

「-最後に、会議開始3分前にノースエリアK-30での被疑者を拘留していますので、現在50人の人間が『特別拘置所』にて拘留しています。

 尚、被疑者達の身元は既に特定済みです。…エージェント・プラトーが以前より予測していた通り、全員『要注意人物』のクルーです。

 以上が、現在判明している情報になります」

『……』


「ありがとう。…さて、本来ならば『厳正な対処』をしたいところだが先に通達した通り『一晩のみの拘留』に留める。

 そして、被疑者達の扱いについても『捕虜扱い』にする…のだが-」

 すると、少佐はこちらを見て来たので俺は立ち上がる。

「-では、そろそろ『理由』をお話ししましょう。…何故『捕虜扱い』とするのかを。

 まあ、一番の目的は『間違った情報』を修正する為です」

『……?』

 やはりと言うか、その場に集まった将校達は疑問符を浮かべた。なので、『答えの鍵を知る』人に話しを振る。

「-時にレーグニッツ少佐。…この間の『水賊』達について何か『変わった報告』は受けていますでしょうか?」

「……?……そういえば、『待遇』にとても驚いていると聞いたな。首領の内縁者に至っては、最初『泣いた』とか……。……っ!

 …まさか、非加盟星系の市民はそこまで『劣悪な環境』に置かれているというのか?」


『……』

「…あくまでも『仮定』の域ですが、かの星系エリアでは正常な政治が行われてはいません。…つまり、極一部の人間以外は『人らしい生活』をしている可能性は低いでしょう。

 …そして、地上ですらそんな状態なのです。『海』は完全な無法地帯でしょうね。…ですが、危険な場所に変わりはないので当然ルールはあるでしょう。

 -『頭のネジが飛んだ船乗り』が作った『狂ったルール』が。

 …果たして、そこでは『どんな地獄』が繰り広げられているのでしょうね……」

『……っ』

 将校達は息をのみ、何人かは気分が悪くなったようだ。

「…だからこその『捕虜扱い』か。

 -『いかなる存在であろうとも人道的な扱いをすべきである』。…それは、例え大量の被害者を出した極悪非道な海賊でさえも護送中には簡素なベッドと食事を提供し、衛生管理や健康管理をしなければならない『物議を醸す』ルールだ」


「確かに、遺族にとっては我慢ならないルールでしょうね。…ですが、その法案が施行されてからの『再犯率』は大きく減少しています。

 その理由は2つあります。

 一つは海賊達が『人として扱われる事』で改心するから。もう一つは『自分達がいかに誤った情報を聞いて来た』かを知り心に一生残る罪悪感を抱くからです。

 …そして、今拘留中の彼らに同様の扱いをする事で『敵を分裂させる』…というのは流石に高望みが過ぎるので、とりあえず今は認識を改めさせて『次』につなげられれば良いですかね。

 …以上が、私のプランになります」

『……』

「…素晴らしい」

「想像以上ですね…」

「…はあ、これは『浮気』をしてしまいそうですわ……」

 説明を終え着席すると、後ろから称賛の声が聞こえた。

「…話しを戻そう。

 彼の言うように、拘留中の対応は細心の注意を払って欲しい。そして、その後は『個別』に面談を行ってくれ」

『…っ、了解!』

 少佐の言葉に将校達はハッとし、全員が敬礼した。