ー『エネルギー効率運用システム』…それは、俺達の祖先が宇宙に進出した時から現在に至るまで常に、進化してしてきた技術である。
今は、『複数の銀河』を巡る時には各星系のどの惑星でも食料補給と燃料補給は出来る。…たが、『開拓時代』と呼ばれた時代の人達は常に『エネルギー問題』に悩まされてきた。
人の場合は、フリーズドライのインスタント食品でなんとかしのげるが宇宙船や調査の機械はそうはいかない。
だから、当然『生』のエネルギーも一緒に積まなければならないが安全性や燃費は低下し、幾度も道中で燃料切れや不幸な事故も起こってしまい調査は思うように進まなかった。
その燃料問題を解決する為に、『元々あった技術』…恒星の放つ光エネルギーを動力エネルギーにしたり、人力によって充電を行うシステム等の『エネルギー変換技術』を試行錯誤の末宇宙船や調査機械に応用させ、俺達の祖先は宇宙の開拓をゆっくりと行っていったのである。…それと同時に、『エネルギーの効率利用』も考えられた。すなわち、『少ないエネルギー』で長く動かす為の技術だ。
…だが、今日に至るまでの長い歴史の中で『自然エネルギーのみらなず起動中に発生した統べてのエネルギーを活動エネルギー変換する技術』…すなわち、『永久機関』と呼べる技術は勿論『少ないエネルギーでも最高のパフォーマンスを発揮する技術』、すなわち『省エネハイパフォーマンス』と呼ばれる夢のような技術は、未だにこの広大な宇宙には生まれていない。つまり、この『インフィニットカノープス』だけがそんな『有り得ない二つのシステム』を搭載しているのだ。…なのにー。
ー…そんな、長期間の地上調査を快適に行う為のシステムの片割れが『害獣』を使った『テロ』に使われているこの状況に、俺はどうしようもないくらい腹が立っていた。
「マスター、間もなく『胃袋』に到達します」
「分かった。入ると同時に『ディギングテイル』と『ディギングネイル』を」
しかし、頭は冷静さを維持していた。…ほんと、『先生達』には感謝しかないな。
「カウントダウン、5、4、3、2、1」
「『ディギングテイル』発動、『ディギングネイル』展開」
直後、『穴堀り用のしっぽ』のおかげで落下は穏やかになり、数秒後に『穴堀り用の爪』のおかげで完全に止まった。…うわ、キッショ。
『ベヒモス』の胃袋はどういう訳か割と明るかった。…そのせいで、無数の触手がモニターに表示されてしまった。
「…速やかに『出る』としよう。
ー『ライトニングスパーク』、発動準備」
精神衛生上宜しくないので、直ぐに『必殺技』のオーダーを出す。
「畏まりました。『ライトニングスパーク』スタンバイ」
カノンが応えると、モニターは停止しコクピットの明かりは非常灯りに切り替わった。
「ファーストフェイズ、終了。セカンドフェイズに移行します」
彼女がそう言うと、コクピットの機械類は全て『収納され』操縦席の周囲にドーム状の『隔壁』が展開した。
「セカンドフェイズ、終了。ファイナルフェイズに移行します」
「ジェネレータの安全装置、『第一から第三』まで解除。『リリースタイム:120秒』」
「セーフティーアンロック。リリースタイムセット」
「…さあ、見せてやろう。
ー『雷獣の必殺技』を」
直後、船体は激しく揺れた。恐らく、触手を巻き付け胃袋に落とそうとしているのだう。
「…好都合だ。
ー『ライトニングスパーク』、発動」
俺は目の前に現れた赤いスイッチを、思いっきり押した。
次の瞬間、船体に大きな振動が伝わったー。
◯
ーside『ドリーマー』
ーその瞬間、誰もが悲鳴を上げた。当然だ、戦闘機を庇った『白銀のトラ』がベヒモスに飲み込まれてしまったからだ。
「……」
アイーシャの弟イアンも、呆然とモニターを見ていた。…だが、誰もが諦めているその状況でただ一人諦めていない人物がいた。
「……」
…いや、彼女は諦めていないというより期待と興奮によって心臓が激しく鼓動を刻み胸が張り裂けそうになっていたのだ。
何故なら、彼女は『知っている』のだ。有り得ないくらい巨体に飲み込まれたあの『白銀のトラ』がこれから『なにをするのか』を。
ーそして、その瞬間は訪れた。
今まで山のように不動だった『ベヒモス』が激しくのたうち回り始めたのだ。そして、腹部と思わしき場所にはズームをしていないのにはっきりと『光』っていたのだ。
「…やっぱり、今日の私はとことん『ツイてる』」
「…姉さん?」
「…いや、この場に居合わせた全員もなかなかに『幸運』の持ち主ですね」
「…どういう事?」
「…これから起きる『必然』をよーく見ていなさい。きっと…いや間違いなく『今しか見れない』でしょうから」
「……」
あまり姉が見せない『キラキラした』表情に、彼はじっとモニターを見た。…そして、それからほんの一分後。
『ーっ!?』
『なん…です…と』
その巨体はまるで『轟雷』にでも打たれたかのように、突如感電し始めたのだ。同時に、『グラトニー』達も感電する。
そして、それから少ししてその巨体は腹部から崩壊していった。そして、それに合わせるように『グラトニー』達も崩壊した。
「『ーその船は、二つの名前を持っている。一つは無限に走る為の名前。そしてもう一つは降りかかる災厄を穿つ、破壊の名前をー』」
「……破壊の名前?」
「ええ。…さっきのは『その名前』の由来となった『必殺技』ですよ。まさか、実際に拝める日が来ようとは夢にも思いませんでした」
彼女が説明する中、モニターには悠然と大地に立つ白銀のトラが表示された。その身体の表面は僅かに電気が走っていた。
『ーミッションコンプリート。…では、只今より事後処理に入ります』
すると、先程聞いた声が聞こえた。どうやらオープンチャンネルで通信しているようだ。
「……っ、上空に『アンノウン』出現」
「…まさか」
直後、レーダーが『未登録』の存在を捉えた。その瞬間、彼女は直感に従い上空の様子をモニターに表示する。
ーそこに居たのは『白銀の巨大なトリ』だった。
「…『守護の翼』」
「…何か出てくる」
『…あれは、まさかー』
二つ目の『奇跡』を目の当たりにして二人は…いや撤退行動を止め着陸していた全ての傭兵達が唖然としていた。すると、『トリ』から大量の『トリ』が飛び出した。
「…凄い」
「…流石は『広域救援船』。素早い救助です」
その『トリ達』は先程呑まれた傭兵達や不時着した戦闘機は勿論、逃げ遅れた人を次々と『様々な方法』で救助していった。
それだけではない。もう一つの『部隊』はドッキングしながらどんどん大きな『トリ』となり、巨大な『脱け殻』の山を撤去したり山ほどの高さになった大量の『大型船サイズ』の岩石を、尋常じゃないサイズ穴ぼこに次々と投げ込んでいった。
「…何あれ」
「…『エマージェンシートランスポート』、『フロートクレーン』。ほんと、チートですね」
『ー付近に居る傭兵の方々に連絡します。船が無事な方は救助者の方々を市街地付近まで搬送してください。勿論、帝国政府からキチンと報酬は出ますのでご安心を』
ぼんやりと眺めていると、再びオープンチャンネルで通信が流れた。
「…どうする?」
「…ま、恐らく報酬は『遅れる』でしょうから行きましょう」
「イエス、キャプテン」
彼女達は即決し、再びプラント付近に戻るのだったー。