「ーすみませーん」
「…?はい、どうしました……」
管理事務所に到着した俺は、出入り口を清掃していた中年の男性職員に声を掛けた。すると、彼はこちらを見て固まる。…うん、『情報通り』だな。
「……そうか、ついに私の役目を果たす時が来たのか。
ー貴方を待っていました。オリバー=ブライトさん」
しばらく固まっていた彼…管理事務所の所長さんは、ふと呟きにっこりと笑った。
「…もしかして、祖父をご存知なんですか?」
「ええ。…と言っても、フォトデータ限定ですが。…最初、本人が訪ねて来たのかと思いましたよ」
「…そんなに似ているんですね」
「それはもう。…おっと、立ち話もなんですから『中に入ってゆっくり』と話しましょう」
「…ありがとうございます」
俺は礼を言い、彼と共に事務所に入った。
「ー…あ、所長ありがとうございます。…?」
「所長、そっちの赤髪の若者はどちら様で?」
「何、昔私が世話になった方のお孫さんだ。わざわざ、訪ねて来てくれたんだ」
中に入ると、案の定職員の人が質問してきたが所長さんは上手く…いや『事実』を述べた。
「へぇー」
「いらっしゃい。…大したおもてなしは出来ないけどゆっくりしていってね」
「お気遣い、ありがとうございます」
「…じゃあ、私は彼とちょっとと話してくるから。…あ、お茶とお茶菓子は私が出すから君達は仕事していてね」
『はーい』
彼がそう言うと、職員達はすんなり返事した。…多分、日常的に彼が率先してこういう事をやっているのだろう。
そして、事務所の中を進み所長室に通された。
「ー…さて、早速だが『これ』を渡そう」
部屋に入ると、彼は直ぐにお茶セットを出してもてなしてくれた。それから数分後、彼はカードキーをテーブルに置いた。
「…今まで『かの船』を守って頂き本当にありがとうございました」
俺はカードキーを手に取る前に、深く頭を下げた。
「…なに、『この星系』と『私の父』が受けた恩のほんの一部を返しただけさ。…そちらの資料室に『君だけが分かる隠しドア』がある。その奥に『かの船』は眠っている」
「分かりました。…祖父の話しはまた今度来た時にでも聞かせて下さい」
「ああ」
俺はソファーから立ち、資料室に入った。…さて、何処かな?
とりあえず、資料室をゆっくりと歩く。…『スパイノベル』だと、データチップに偽装した秘密のボタンを押せば棚がスライドして…みたいな展開になるが、ここもそうなのだろうか?
二巡目に入る直前でそう考え、今度はデータの分類を注視して周る。…すると、解答は直ぐに見つかった。
「……」
それを見た俺は、この公園を調べた時同様頭を抱えた。…その分類は『イエロトルボの雷獣伝説』だったのだ。
その、完全に隠す気が無いとしか思えない暴挙についさっきまで膨らんでいたワクワクはしぼんでしまった。…はあー、無いわ~。
そして、げんなりしながらその分類の中にある二つのデータチップを番号順に押してみた。すると、棚がまるで旧時代の扉のように開いたのだ。
その先には、近代的なドアがあった。…無駄に凝った作りだな。
俺はカードキーでドアを開け、その奥にある短い通路を進み、少人数用のエレベーターに乗る。
ー…そして、エレベーターを降りたその先には巨大なドアがあった。…っ!
突如、上から黄色のライトの光が降り注いだ。…これは、生体識別ライトか。良かった、『こういう所』はしっかりしてて…。
安堵していると、ライトは消えドアがゆっくりと開いていった。…その先には、カノープスが眠っていた場所と似た作りの『ドック』があった。
そして、その中心には『二隻』の宇宙船が鎮座していた。…これが、『無限に大地を駆ける雷獣』の正体。前の船が『EJ-03:インフィニットファング・α』、後ろが『EJ03:インフィニットファング・β』だ。
「……」
俺は、感動で言葉が出なかった。…いやはや、本当に見た目は普通の船だよな。まさかこれがー。
『ノベル』の内容を思い出していると、通信ツールが鳴った。
「…なんだ、カノン」
『おめでとうございます、マスター。これで、二つの船が手元に戻りました』
「ありがとう。…とりあえず、これで地上探索の時は安心して『一回』で行けるな。
…んじゃ、『後は任せた』」
『畏まりました。速やかに、-チェック-を開始し致しますー』
…さて、戻るか。…ああ、早く『走らせてあげたたい』な。
俺は、いつにもましてワクワクしながら来た道を戻るのだった。
ーまさか、その『願い』が直ぐに叶うなんて夢にも思わずに。
○
ーその後、俺は所長さんに近場の定食屋で昼飯をご馳走になったり戻って来て事務所内で休ませて貰ったり、見回りに行く職員さんに同行し公園内を案内して貰ったりしながらのんびりとプチ観光をした。そして、職員の皆さんに見送られエレベーターステーションに向かうバスに乗る。…はぁ、すっかり日が暮れちゃったな。
茜の空をぼんやりと眺めながらバスに揺られていると、ふと空の奥から戦闘用の船が複数飛んで来た。……海賊か?いや、それならバスは運行してないか。
『ー乗客の皆様にお知らせ致します。只今、警備隊の船が見えましたが近隣を通過しただけですのでご安心下さい』
そんな事を考えていると、アナウンスが流れた。…まあ、朝会ったあの二人も居るし出番はー。
そこまで考えた時、ふと疑問が浮かんだ。何故、海賊討伐でもないのに『中々強そう』な傭兵が来ているのだろうか?
そもそも、あの警備隊は何処に向かった?…中心地とは真逆の方角だ。では、そこには何がある?
…エネルギープラントだ。つまり、文字通り『この星の心臓部』で非常事態が発生したのだ。
…そして、それは以前から『慢性的』に起こっていたと考えられる。だからこそ、戦闘のプロである傭兵を雇ったのだろう。…いや、そうせざるを得なかったと言った方が正しいのかも知れない。
何故なら、大企業は必ずと言って良い程『プラント専属の防衛部署』を持っているか『プラント防衛に特化した警備会社』と契約しているからだ。…まあ、プラントが襲撃されたら会社が機能不全を起こすから当然だな。
では何故、傭兵を雇いそして警備隊が緊急出動したのか。…『その二つ』が、慢性的に起こっている『何か』によって『機能不全』を起こしたからだ。
…となると、そろそろー。
直感的に通信ツールを見ると、まるで狙ったかのようなタイミングでメッセージが届いた。…やれやれ、なかなかハードな『初疾走』になりそうだな。
俺はため息を吐き、まだターミナルに着いていないにも関わらず降車ボタンを押した。
『ー次止まります。ご注意下さい』
それから数分後にバスは停車し、俺は素早く降りた。
ー直後、カノンからメッセージと『とある』場所へのルートが届いた。その案内に従い見知らぬ星の土地を迷いなく歩く。
…やがて、人気のない場所に着いた。すると、そこには一台の車がありその前には屈強な黒服にサングラスを掛けた男性が居た。
普通なら、絶対に怪しいその車に俺は迷わず近付いた。
「ーお待ちしていました、キャプテン・プラトー」
その男性は、深いお辞儀をして『ゴーグル』を身に付けた俺を出迎えてくれた。
「お忙しいところ、ありがとうございます」
「…では、どうぞ」
彼…イエロトルボ政府の人がドアを開けてくれたので、俺は速やかに乗り込んだー。