-side『ドリーマー』
『ーこんばんは。帝国国営放送が夜のニュースをお伝えします。
まずは、ホワイトメル星系で発生した襲撃事件についてです。
帝国時間の昼頃、ホワイトメル星系首都ファストピタルの宙域と中心部が先日お伝えした大規模海賊団の-残党-に襲撃されました。
ですが、ホワイトメル防衛隊とファストピタル警備隊の尽力により海賊達は掃討。ファストピタル中心部にも大きな被害は出ていないようです。
…尚、今回の一件に際し-禁止兵器-が使われた可能性があるとの情報が入っていますが、先程帝国政府より正式な発表がありましたー』
「ー…匂いますねぇ~?」
そのニュースを見ていたとある人物は、気分良さげに呟いた。
「…あ、悪い。今日生ニンニク料理食べたんだ……」
すると、近くにいた仲間と思わしき男性が申し訳なさそうに謝った。
「…そっちも確かに臭いますが、私の言ってるのはこのニュースの内容ですよ……」
いつものボケをかました仲間に、その人物…紺碧の瞳に銀色の髪をツーテールにした少女がいつもの突っ込みを入れた。
「…ニュース?ああ、『アホ』が自滅した話か…」
「…ちゃんと聞いてるじゃないですか」
直前まで物凄く集中力のいる作業をしていたにも関わらず『船乗り』に必須のスキルを発揮する彼に、彼女はいつものように唖然としつつニュースを見る。
「…で、何が気になるんだ…?」
「…ニュースによると、海賊達は-悪魔の抜け道-を使ったようです。果たして、『昨日までボロ負け』だった帝国軍に彼らを撃ち破る力はあったのでしょうかね~?」
「…つまり、帝国政府は『何か』を隠しているって事か?」
「その通りです。…その根拠は、『これ』ですー」
彼女はそう言って、ニュース画面を指差した。…ちょうど、大統領が記者会見を行う場面のようだ。
『ー今回の一件は、元を質せば我々の過失が原因です。ですから我々は、贖罪の為になにより-これから起こりうる災厄-を防ぐ為に-かのシステム-を無力化する技術を開発しなければならないと感じています。
…その名はマルチショートワープキャンセラー。具体的には、M.S.W.によってシールド内にワープしたビームを再度シールドの外に排出するシステムになります。
我々は、必ずや…いや-今度こそ-世界の為の技術を開発して見せます。…-二度に渡って-我々にアイデアを下さった方への恩返しの為に』
「ー…なるほど、『前の時』と同じ文言だな。……もしかして、防衛隊と警備隊が海賊を掃討出来たのって『導きの船』のお陰か?」
「…ほぼ間違いないでしょうね。なにせ、あの国の国旗には『救援の船』の象徴である『白い翼』が描かれているのですから」
「…あの星系の何処かに隠されていてもおかしくないか。
…だが、パイロットは?…確か、彼は『酷い無重力酔い』で船を降りたんじゃなかったか?それに、確か彼はそれが原因で女性を乗せていなかったと聞いたのだが?」
「…考えられるとすれば、帝国で正式に『役目』を引退した後に隣り合う『五つ』の星系のどれかでセカンドライフを始めて、その最中運命の出逢いをし家庭を築き、そして星になる前に若い血縁者に託した…とかですかね?」
彼女は、『あのノベル』に書かれた内容から『ほぼ正解』な予想を口にした。
「…相変わらず、『あのノベル』の事になると饒舌になるな?」
「当然ですよ。何故なら、あれのお陰で私は進むべき道を見つけらたのですから。…つまり、私にとっての『導き』なんですよ」
彼女は、紺碧の瞳をキラキラと輝かせながら語った。
「…そうかい。…んで、これからどうするんだ?」
「…そうですね~。
半世紀たった今でも秘宝争奪戦の『最有力候補』たるかの船が活動を再開した以上、うかうかはしてらません。…かと言って、手掛かり無しに動けばかえって出遅れる。
なので、とりあえずは仕事をこなしつつ『運送ギルド』に向かう事にします」
「…『運送ギルド』に?……ああ、そういえばそろそろ『あのイベント』の時期か。
…あの『オッサン』、今年は何を賞品にするんだろうな?」
「…あの船が復活したとなると、『普通』の物ではないでしょう」
「…なるほど。あのオッサンなら『手掛かり』を持っていてもおかしくないか」
「…という訳で、頼みましたよ『イアン』」
「了解。『キャプテン・アイーシャ』」
二人は拳を突き合わせて、それぞれやるべき事を始めたのだったー。
◯
ーホワイトメルで起きた事件より、2日後の朝。俺はライシェリアの宇宙港に居た。…はあー、この港に始めて来た日が旅立ちの日になるとはなー。
俺は『下』から故郷を眺めながら感慨に耽っていた。…すると、展望ガラスに親父が反射した。
「…ホントに治ったんだな」
開口一番、逆さまになっている俺に親父は呟いた。
「祖父ちゃんにはマジで感謝だよ。
…準備は出来たみたいだね?」
「…ああ」
親父は少し寂しそうに頷いた。…さて、降りますか。
俺は展望ガラスに手をついて、反動をつけて後ろに移動する。そして、反対側の壁付近にある『姿勢反転機』に入り姿勢を直した。
「…ついて来い」
そして、親父の後に続き展望フロアを出た俺はとある出港スペースに着いた。
「ー…此処は……」
そこは、朝から活気溢れる港とは思えないほど静かな空間だった。それもその筈。何故なら、この空間は港と区切らた空間なのだ。
そして、その中心のスペースには『青い船』が出港の時を待っていた。…勿論、カノープスの偽装システムによる物だ。
「…此処は、先代が用意したウチ専用のスペースだ」
「…流石祖父ちゃんだ」
これなら、他の農家の人の邪魔にならずに見送る事が出来るだろう。
「…っ、オリバー……」
すると、船の前に居た母さんがこちらに気付き近付いて来た。
「…さっき、政府から派遣されて来た清掃の方と運送ギルドの方が帰ったわ。…本当なら、婦人会でやるつもりだったのだけど」
「ゴメン母さん。…なにせ、この船は『秘密』がいっぱいだからね」
「…でしょうね。はあー、まさか息子の旅立ちを手伝えない親になるなんてね…」
母さんは、やれやれといった様子でため息を吐いた。
『…これこれ。あまりオリバーを困らせるんじゃないよ』
どう返そうか迷っていると、母さんが持つタブレットから祖母ちゃんの声が聞こえた。
「分かってますよ…。…単なる愚痴です」
『やれやれ。…さて、オリバーや。
まずは、何処に行くんだい?』
画面の向こうの祖母ちゃんは、表情を変えて聞いて来た。
「…とりあえず、帝国に隣接する星系を回ってみるつもりだよ。…勿論、ただ回るだけじゃなく『本格的な準備』と『再確認』の為にね」
『ホント、祖父様と違って計画的だね。…なら、-運輸の銀河-にも行く事になるだろう』
「…だね。…もしかして、何かあるの?」
『さぁてね…。ただ、あそこには-飲み仲間-が居たって聞いてたからね』
「…分かった。そこに行く時は、その『お偉いさん』に話しを聞くとしよう」
『そうしな。…それじゃあ、達者でね』
「うん。祖母ちゃんも元気で」
『ああ』
祖母ちゃんが頷いた数秒後、地上との通信は切れた。
「…それじゃー。
親父、母さん。行ってきます」
「…気をつけてな」
「身体には、気をつけてね…」
二人に分かれを告げ俺はカノープスに乗り込んだ。
「ーおはようございます、マスターオリバー」
「おはよう、カノン。…おお」
ここに来るまでもそうだったが、コクピットは一際ピカピカになっていた。…うん、やっぱり旅立ちはこうでなくちゃね。
俺は清々しい気分で操縦席に座り、シートベルトをしめて発進準備を始める。
「…本当に、業者の方々には感謝しないといけませんね。私とドローン達だけでは、こんなに早く準備は整えられませんでした」
すると、カノンが申し訳なさそうに言った。
「…やっぱり、ドローンの増員は最優先事項だな。…それと、先代がしなかった『募集』も必要になってくるだろう」
話しながら準備を終えスラスターを起動する。すると、船はゆっくりと前に進み始めた。
「…確かに、今後は『私』やドローンだけだと不測の事態に対応しきれませんが……。…そうなると、『仲間』になってくれる方でないといけませんね」
「…『残りの船』を探す間に見つかれば良いんだけな~。…っと」
やがて、船は宇宙空間に出たので一旦停止し目視とレーダーで安全確認を行う。…うん、問題無し。
「…じゃあ、まずは地上活動用の船の『一つ』を回収に行くとしよう」
「畏まりました。
ー…進路確定。ハイパードライブシステム、問題無し」
「良し。
ー広域探査船カノープス、発進!」
俺は高らかに宣言し、ブースターを起動し操縦桿を前に倒すのだったー。