「えっと……大丈夫ですか? 手を……」
「……ん。ありがと。助かったよ」
床に座り込んでいたシスターに手を伸ばす。シスターは私の手を快く握り、私に引っ張られて立ち上がった。そこで私はようやく彼女の顔をはっきりと見る事が出来た。
「あ、あああ、あ、あ、あ、貴女は……貴女様はまさか、ましゃかぁ……!?」
頭巾の下には可愛いらしくも大人しい雰囲気の美少女がいた。おどおどと彷徨う視線が庇護欲を掻き立てる。
彼女の顔は見覚えのあるものだった。いいや、見覚えがあるというレベルではない。良く知っている顔だ。具体的に言うと、YabeeTubeで頻繁に見ている顔だ。
「……あ、ごめんなさい。挨拶しないとだね」
「……わたし、ルト。ルトソー・スヨグ・セレファイスだよ。ルトって呼んで」
そう名乗って少女はもじもじしながらはにかんだ。
シスター・ルト。
VTuberであり、個人で活動している私と違って企業に属している。YabeeTubeではチャンネル登録者数が一〇〇〇人を超えれば収益化が認められるのだが、彼女はその一八〇倍である一八万人もの登録者数を抱えている。文句なしの一流配信者だ。
私にとっては推しの一人だ。それがこんな目の前にいるなんて。いや、目の前どころか握手までして貰っちゃっているなんて。感涙極まりそうだ。
「うわぁ、ちっちゃい! な、なんて愛らしい……!」
彼女のサイズは合法ロリだとか言われている私よりもコンパクトだ。身長も手足も何もかもが小さい。特に手があまりにも可愛くてドキドキしてしまう。ガチロリだ。立たせる為とはいえロリの手を触っちゃった。ヤバい、心臓が破裂しそうだ。ていうか捕まる? 私、幸せ過ぎる罪でおまわりさんに捕まっちゃう?
「巫女とシスターが並んでらぁな。んで、誰だ? このお嬢ちゃん。有名人か?」
「VTuberだよ。『ヒプノス・コーポレーション』の」
「へえ、企業勢って奴か」
『ヒプノス・コーポレーション』はVTuberの会社だ。マナちゃんが所属するチクタクマン株式会社と肩を並べる規模を持つ大企業である。
このゲーム『旧支配者のシンフォニア』は、実はチクタクマン社の単独開発ではなく、チクタクマン社とヒプノス・コーポレーションの共同だ。ヒプノス・コーポレーションが世界観やシナリオを提供し、チクタクマン社がそれを形にするという関係だ。
企業勢のVTuberは抽選ではなく、チクタクマン社との契約によりテストプレイヤーを務めている。その中でヒプノス・
ちなみに、シスターとは名乗ってはいるものの、ルトちゃんは現実の某普遍的宗教ではなく異世界の宗教を信仰しているという『設定』だ。