「わがまま……」
「我が儘じゃなくても、自分の意見で構わない。今すぐじゃなくていい、少しずつ自分の気持ちを話してくれ」
壁にかかっている時計を見ると、夕食の時間が過ぎていた。
いつもなら、食堂が混雑する前に二人分の食事を取りに行っていたが、今行くと混雑しているだろう。
それでも、今取りに行かなければ、二人分を確保するのは難しそうだ。
オルキデアがソファーを立つと、「あの!」とアリーシャは声を上げて立ち上がる。
「実は、ずっと言おうか迷っていたことがあって……」
もじもじとするアリーシャに、「なんだ?」と安心させるように優しい声音で話しかける。
「あ……。や、やっぱり、いいです……。大したことじゃないので……」
「大したことじゃなくてもいい。言ってみろ」
みるみる内に顔が真っ赤になっていくアリーシャに、オルキデアは近づいていく。
「本当に大したことじゃないので……」
「構わない。俺に話しづらいことなのか?」
否定するように首を振るアリーシャに、オルキデアは更に近づく。
後ろに身を引こうとしたアリーシャだったが、ソファーに躓いて後ろに倒れそうになった。
慌ててオルキデアが腕を伸ばしてアリーシャの左手首を掴むと、反対の手もアリーシャの腰に回して、華奢な身体を支えたのだった。
「あ、す、すみません……」
支えたアリーシャの身体はほっそりとしていて、これまで抱いたどの女よりも細く感じた。
「随分と細いんだな。あっちでは食事も満足に出されなかったのか?」
「そうですね……。忘れられたことも多々ありました。でも、その分、自分で料理が出来るようになったので!」
「ほう。料理が出来るのか。いつか君が作る料理を食べてみたいものだな」
オルキデア自身は食にこだわりは無いが、アリーシャが作る食事がどんなものなのか気になった。
アリーシャは「大したものじゃありません」と否定したが、それでも興味があった。
「オルキデア様の口に合わないかもしれませんし……」
「食べてみなければわからないだろう。だが、アリーシャの作るものなら、きっと美味いだろう。……それで、話したいこととは何だ?」
態勢を立て直したアリーシャから手を離すと、「あの……」とアリーシャは俯きながら話し出す。
「オルキデア様はコーヒーがお好きなんですか?」
「いつも飲まれてますよね?」と聞かれて、オルキデアは考える。
「気にしたことは無いが、言われてみればそうかもしれん」
言われてみれば、仕事中や来客時だけではなく、いつも食後にも飲んでいた。
ーー思えば、戦場以外では、飲み物はコーヒーか酒しか飲んでいない気がする。
「それがどうかしたか?」
「食後に、私の分のコーヒーも持って来て頂けるとのは嬉しいです。でも、私、本当は……」
アリーシャは覚悟を決めると、じっと見上げてきたのだった。
「本当は、コーヒーじゃなくて、紅茶が飲みたいんです」
怒られると思ったのか、身を縮めたアリーシャに、しばらくぽかんとしてしまう。
オルキデアは瞬きを繰り返すと、ようやく呟いたのだった。
「紅茶が……?」
「コーヒーも嫌いではありませんが、時間帯によっては飲んだ後に眠れなくなるんです。なので、紅茶とか、なければ、お水がいいんですが……」