距離を詰めようとするが、野太刀に阻まれる。
霊斬は忌々しげに舌打ちをすると、距離を取って隙を窺う。
野太刀は一撃が重く、距離をそれなりに取らないと扱いにくい。攻撃を繰り出した直後であれば、隙もできるはず。
そう考えた霊斬は、男が攻撃を繰り出した直後に距離を詰める。とっさに野太刀を戻そうとした男だったが、霊斬の動きには間に合わない。
「ぐっ!」
霊斬は右肩を刺すと、素早く男との距離を取った。
男は再び野太刀を手にしようとするものの、傷のせいで持てない。
霊斬は野太刀を蹴飛ばし、男の戦意を
三人目は短刀を二本持っていた。素早く動いて、攻撃を仕掛けてくる。それを黒刀で防いだ。しばらくの間、霊斬は守りに徹した。動きをできるだけ把握するために。
男は躍起になっているようだった。これだけの攻撃をしているにもかかわらず、傷ひとつつけられないことに。
その焦りを読み取った霊斬は、あえて守りの手を抜く。
隙ができたと勘違いした男は、そこに向かって短刀を繰り出してくる。
それを躱すと、まずは右腕をざっくりと斬り裂く。
右手の短刀を落とす。
まだ使える左手の短刀を振りかざして、霊斬に攻撃を仕掛けた。しかしそれも躱され、新たな傷を負う結果となった。
両腕を負傷した男は立ち上がりもせず、呆然としていた。
短刀二本を遠くへ蹴飛ばした。
四人目は細身の槍を構えていた。
「やあ!」
いきなり掛け声とともに、突きを繰り出してくる。
それをひょいと躱す霊斬。負けじと連続して突きを繰り出すものの、すべて躱される。
忌々しげに舌打ちをしたのは、男の方だった。
今度は槍を薙ぎ、霊斬めがけて振り下ろす。
その攻撃を躱した霊斬。
振り下ろした槍が畳に深々と突き刺さったのを見た。その瞬間、少し冷や汗をかいた。
――あんな攻撃、喰らいたくもない。
霊斬は思いながら、攻撃を躱し続けた。その代わりに壁や、畳などに傷が増えてゆく。
男は槍を自分の手足のように扱い、何度も攻撃を仕掛けてきた。まるで舞を舞っているようだと、霊斬は思った。
これが命のやり取りではなかったら。ずっと見ていたいと思うような、素晴らしい動きだった。だが霊斬の方が、
次々に繰り出される攻撃を受け止め、受け流して捌く。躱しながら、男の隙を探した。だが、見つからないので、こちらも攻撃を仕掛けることに。
右から斬りつけると、槍に阻まれる。左から斬りつけても結果は同じ。突きを繰り出すとそれを受け流して、斬りつけてくる。
とっさに防いだ霊斬だったが、内心ではひやりとした。
男の槍が、左肩を掠る。痛みに顔をしかめた霊斬は、槍を外側へ弾き返す。無防備になった右腕を斬りつける。
「ぐうっ!」
痛みによろけた男は踏ん張って、左手で槍を繰り出す。それを躱し、懐に入り込む。
霊斬の背後に槍が迫る。懐に入ったはいいものの、傷はつけられない。霊斬は黒刀を背後に回した。
黒刀と槍がぶつかる固い音が響く。
互いに舌打ちをする。
霊斬はかたかたと音を立てている槍を、強引に弾き返す。上に投げ、切っ先を下にして落ちてきた黒刀を一瞥。一歩下がった。
男が踏み込んできた。同時に、落ちてきた黒刀が右肩を斬り裂いた。肉を断つ嫌な音がし、鮮血が溢れ出す。
霊斬は返り血を浴びても、動じなかった。
畳に刺さった黒刀をつかみ、両膝を突き刺す。
「ぐあああっ!」
痛みに叫んだ男だったが、ようやく畳に膝をついた。
最後の男は刀を肩に担いでいた。
「俺達相手に、それだけの傷で済んだのか。腕が
霊斬は無言で、黒刀を構える。
両者、同時に動いた。
右腕を狙った攻撃は、黒刀で止められる。忌々しげに舌打ちをしたのは、男の方だった。
そのまま押し切ろうと、男は刀に力を込める。しかし、刀が震えるだけで、圧される様子はない。霊斬は布の下で、冷笑を浮かべると、その刀を難なく押し返した。
男が刀をつかみにいっている間に、距離を詰めた霊斬は右脚を刺す。
「っ!」
体勢を崩して、畳に片膝をつく男。
男が顔を上げると憎悪のためか、その双眸はぎらぎらと輝いている。
歯を喰いしばり、男はなんとか立ち上がる。
霊斬はその様子を、冷ややかな目で眺めていた。
「おらぁ!」
痛みに負けじと大声を出した男が、霊斬に向かって突進。
その攻撃を受け止めたものの、踏ん張りが利かず、二人で壁に激突。
背中の鈍い痛みに顔をしかめた霊斬は、未だに力を込めている男を睨みつける。
「まだまだ動けるぞ!」
傷口からだらだらと鮮血を垂らしながら、男が言い放った。
「すべて封じてやる」
霊斬は静かな声で告げる。
男の力を利用して受け流し、左肩を斬りつける。
痛みに怯んだ隙を突き、左膝をも刺し貫いた。
男は自分の得物を畳に落とす。拾いにいきたいが、脚が言うことを聞かない。
「終わりだ」
霊斬は右肩から腕を斬りつける。
「ぐっ!」
痛みに呻いた男は、畳の上に
そんな男を冷ややかに見下ろした霊斬は、黒刀を振って血を落とす。次の部屋へ向かった。