第20話 美少女達が瞬殺してみました

 どうやらアツミ村は意図的に襲われたようだ。

 ビックベアを操るどこぞの魔獣使いテイマーによって。

 テイマーとは強力な魔獣や魔物を飼いならし意のままに操る調教師を言う。

 奴ら自身は大した戦闘力はないが、仮に脆弱な魔獣でもテイマーに育てられたら最強な怪物へと変貌しているなど侮り難い側面もある。

 魔獣タイプによって暗殺稼業は勿論、屈強の軍隊として重宝される雇う国もあった。

「こやつらか、村を襲った魔獣共は!?」

 カリナは背中に括りつけていた身の丈以上を誇る大型剣クレイモアのフックを外して構えた。

「気をつけた方がいい。テイマーによって飼育されているということは通常の魔獣より強化されている」

「大丈夫です、セティさん。ここはわたし達にお任せください」

「フィアラ?」

「問題ないよ。前のように不意さえ突かれなければ負けないしぃ~」

「ミーリ……でも」

「セティくんは体力を温存しておいて。きっとテイマーとの戦いに貴方の力が必要となるわ」

「……わかったよ、マニーサ。万一は僕も戦うからね」

 僕は言いながら後退して彼女達の背中を見守る。

 ある程度まで近づいてきた途端、ビックベア達は咆哮を上げて一斉に襲い掛かってきた。

「――では我から先陣を切ろう! 破ァ!」

 カリナは細い両腕で軽々と大型剣クレイモアを掲げる。

 そのまま独楽コマのように全身を縦に回転させ、ビックベアの一頭を両断した。

 さらに回転は勢いをつけ、他のビックベアを斬り刻んでいく。

 カリナは『斬撃姫』の異名を持ち、強固なドラゴンの首さえも一刀両断する攻撃力を誇る。

「次はあたしだねぇ! 閃光射撃シューティング!」

 ミーリエルは矢を放つと、それは粒子状の光と化し、ビックベアの額にヒットし貫いた。

 神聖国グラーテカの領土であるエルフ族が治める『聖なる深き森』の族長の娘であるミーリエルは、生まれながらに精霊王から授けられた恩寵ギフトスキルを持っている。

 どんな長距離からも『閃光の矢』で射抜く《光狙撃手スナイパー》という能力だ。

「結構痺れるわよ――《天空降雷撃スカイ・サンダー》!」

 マニーサは賢者の杖スタッフを天に掲げると、突然上空から落雷が数体のビックベアの頭上へと降り注ぐ。

 魔力で肉体が強化された魔獣とはいえ、その衝撃に体毛ごと黒焦げとなり斃される。

 伝説とされる大賢者マギラスの娘として才能を引き継ぐマニーサは天変地異を操る奇跡の魔術師であった。

「最後はわたしが聖母神メルサナの名において、その汚れた魂を浄化いたしましょう!」

 フィアラは祈りを捧げると背後から、白装束を纏い美しい女性の姿をした「聖母神メルサナ」が降臨した。それは淡く半透明であり、魂だけの存在ではないだろうか。

 聖母メルサナはグランドライン大陸に宿る神々の母とされる母神である。

 フィアラは祈ることで聖母神メルサナを自在に降臨させ神力を行使できることから、その生まれ代わりではないかと囁かれていた。

 そして聖母神メルサナの神力とは対象とする者の「魂を浄化」させる力、つまり肉体を残したまま「魂だけを天昇」させる能力である。

 聖母神の力により、数頭のビックベアの魂は浄化され、そのまま倒れて動かなくなる。

 肉体を傷つけず慈悲深くもあり、見方によっては無慈悲な側面を持つ力だ。

 こして勇者パーティの美少女達によって、10頭のビックベアは瞬殺された。

「……やっぱり凄いな。みんなまた腕を上げたようだ」

 おかげで僕の出る幕はない。

 こんな凄まじい戦闘力を見せつけられたら、勇者アルタも自信を無くして『身代わり』を雇いたくなるのも頷けてしまう。

 まぁ、彼女達は「勇者の強さ」云々で靡くような子達じゃないけどね……。

「――やるじゃないか? 女共、お前ら全員、勇者パーティだな? このイズラ王国には勇者はいない筈だけどな!」

 少し離れた位置から男の声が響いた。

 破損した建物の屋根に何者かがこちらを見下ろす形で立っている。

 すらりとした若い男だ。目立った特徴はなく一見どこにでもいる庶民に見える。

「誰だ、貴様は!?」

「俺はターク! 見ての通りの魔獣使いテイマーだ!」

 カリナの問いに、タークと名乗る男が答えた。

 うん、平凡すぎて見ただけじゃわからないぞ。

「お前がこのビックベアの飼い主ってことだな? 何故この村を襲撃した!?」

「決まっているだろ、『死神セティ』……テメェを誘き出すためだ! 俺は組織ハデス暗殺者アサシンでもあるんだぜ!」

 タークがいきなりぶっちゃけてきた。

 だけど不思議ではない。表と裏の職業を持つ暗殺者アサシンは多い。

 寧ろ僕のように暗殺者アサシン一本で活動する者は、ボスに気に入られた優秀な極一部の者だけだ。

「なるほど組織ハデスの刺客ってわけだな? それは別にいいとして、どうして村を襲う必要がある? 僕とイズラ国とは接点などないぞ!」

「テメェがこの国に訪れたからだよ。俺はボス直々から依頼されて、テメェを追跡してたんだ。俺のテイマー能力なら、それが可能なんでね! この村を襲撃したのは暇潰しとテメェを煽って反応を見てただけだ! なんでも小娘を守るために『闇九龍ガウロン』を敵に回したり、人身売買組織を壊滅させる正義の味方気取りな真似をしているって言うじゃねーか、ああ!?」

 つまり追跡能力の高い魔獣を飼っているってことか。

 ボスことモルスなら、僕の幼い頃の臭いをついた何かを所持しているのかもしれない。マニーサが僕を探さし当てたように……。

 てか、モルスめ。やっぱり生きていたようだ……今度はどんな姿をしているんだ?

「……別に正義の味方を気取っているわけじぁない。これまで僕が奪ってきた命への贖罪のつもりで動いたまでのこと」

「カァッ、ペッ! 組織の看板であり『死神』と恐れられた野郎の台詞じゃねーな! どうやら腑抜けになったって噂は本当のようだ! これで20億Gは俺のもんだァ、ギャーハハハハッ!

 タークは唾を吐き捨て高笑いする。

「黙れ外道ッ! 貴様にセティ殿を罵る資格などない!」

「そうです! 私欲のために罪もない人々の命を奪って恥を知りなさい!」

「セティと違って、あんたなんか魔獣いないと何もできないんでしょ!?」

「誰にもセティくんを侮辱させないわ! とっとと降りてきなさい! それとも落雷を浴びてみる!?」

 みんなが僕を庇い牽制してくれる。

 『死神セティ』と呼ばれていた闇の部分を知りながら……尚も。

 ――嬉しい。同時に彼女達といると誇り高い気持ちでいられる。

 こうして一緒に居られるようになって心から感謝した。

「みんな、ありがとう! けどここは僕に任せてほしい。これは僕の問題のようだからね。大丈夫、一瞬で終わらせるから」

 僕は四人の前に達、振り向いて笑みを浮かべる。

 みんな信頼して、僕に優しい微笑を見せて頷いてくれた。

「ケェッ! 『死神セティ』の癖にハーレム満喫中ってか!? 勇者どうしたのよぉ、寝取ったのか、ああ!?」

 タークめ。皮肉のつもりのようだが、少し当たっているだけに言い返せない。

 別に寝取るまではしてないけどね。

 僕は悠然と歩き奴へと近づいて行く。

「ここに勇者はいない。存在するのは『死神』だけだ――ターク、貴様にとってのな」

「うるせぇ、裏切り者がぁ! 俺をその辺の雑魚と一緒にすんじゃねーぞ! カムヒア、マイ・バディ――レティオ!」

 タークが叫ぶと、その背後から大きな影がフッと過り、僕のすぐ目の前に音も立てずに落ちてきた。いや飛び跳ねて着地したと言うべきだ。

 青白い毛並みをした巨大狼――フェンリルだ。